第32話:蒼大の魔法

「よしできた!」


明日佳が満足そうに言った。


「ありがとう」


私は鏡を見て、彼女の手際の良さに感心した。


鏡に映る自分の姿が、いつもより少しだけ自信に満ちて見えた。


「すっごく可愛いよ」

明日佳が微笑んで言った。


「ほんと?明日佳ってメイクも上手なんだね」

「オシャレ全般任せてよ」


彼女は自信満々に答えた。


「ふふ、ありがとう」


その自信が私にも伝わり、少しだけ緊張が和らいだ気がした。


「どう?緊張してる?」


明日佳が心配そうに尋ねた。


「うん」


今日は文化祭当日。


昨夜は緊張でよく眠れなかった。


「やっぱそうだよね」


「…みんなじゃがいもに見える魔法かけて欲しい…」


私は冗談めかして言ったが、内心は本当に緊張していた。


心臓がドキドキと早鐘を打っているのが自分でもわかった。


こんなに綺麗な衣装を着せてもらって、可愛くメイクしてもらっても、まだどこか自信を持てずにいた。


「そんな魔法あったらいいのにね」


明日佳が笑いながら言ったその時、蒼大の声が聞こえた。


「じゃあ俺がかけてあげよっか」

「あ、蒼大」


蒼大の登場に、私は少し驚いたが、同時に安心感が広がった。


「彼氏さんはどんな魔法をかけてくれるんだろうねぇ」


なんて、明日佳が茶化して言う。


そして蒼大は、私のおでこにキスをした。


その瞬間、心の中に温かい光が広がり、緊張が完全に消え去った。気がした。


「も、もう。蒼大ったら…」


人前でキスなんて、明日佳に見られて恥ずかしい。


「俺の魔法はどう?」


「…蒼大の魔法のおかげでちょっとは気が楽になった。ありがとう」


私は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。


蒼大の優しさが、私の心を温かく包み込んでくれるようだった。


蒼大は魔法なんてかけなくても…。


「それなら良かった」


蒼大も微笑み返し、私の肩に手を置いた。


その温もりが心に染み渡り、緊張が少しずつ解けていくのを感じた。


「美月を守れるように、俺がずっとそばにいるから。安心してね」


蒼大の言葉に、私は胸が熱くなった。


彼の言葉が、私にとって何よりの励ましだった。


「ありがとう、蒼大」


蒼大が安心してって言ったら、ほんとに何も怖くない気がするんだ。


「ヒューヒュー。アツアツだねぇ」

明日佳がからかうように言った。


「もう、からかわないでよ」

「ふふ、ごめんごめん」


「さ、お姫様。お手をどうぞ?」

そう言って、蒼大は手を差し出してきた。


「さ、お姫様。お手をどうぞ?」

蒼大が冗談めかして手を差し出してきた。


私は笑いながらその手を握りしめた。


「ありがとう、王子様」


そして、私たちは一緒に教室を出た。


蒼大の手の温もりが伝わってきて、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。




蒼大の冗談と優しさが、私にとって何よりの魔法だった。

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