第31話:支え合う心

蒼大が私の方に戻ってきた。


彼の顔にはまだ少し怒りが残っているけど、私を見つめる目は優しかった。


「美月、大丈夫?」

蒼大の声に、私は少しだけ微笑んで答えた。


「うん、大丈夫。ありがとう、蒼大」


蒼大の支えがあるからこそ、私は前を向くことができる。


「ごめん」

蒼大は申し訳なさそうに言った。


「なんで蒼大が謝るの?」

私は蒼大の顔を見つめながら、優しく問いかけた。


謝られることなんて何も、


「こうなるのを事前に防げなかったから」

蒼大の声には悔しさが滲んでいた。


彼の目には、自分を責めるような色が浮かんでいた。


「もう。蒼大のせいじゃないよ。誰もこんなことになるなんて思わないもん、」


まさか、その事で謝られるなんて。


「それはそうなんだけどさ、」


「私のために怒ってくれて嬉しかったよ」

そう言うと、蒼大は優しく微笑み返し、私の頭を撫でた。


その手の温かさに、私は心がほっとした。


「それなら良かった」


蒼大の手が私の髪を優しく撫でるたびに、心の中の不安が少しずつ消えていく。


彼の手の温もりが、私の心を癒してくれる。


「泣いて、ないね。良かった」

蒼大が優しく問いかける。


「泣かないよ」

私は微笑んで答えたが、目には涙が浮かんでいた。


「泣いてもいいけど、泣くなら俺の前で泣いてね。一人で泣いたりしないで」

蒼大の言葉に、私は胸が熱くなった。


もう。これでも泣くの我慢してるんだから。


そんなこと言われたら涙がこぼれそうになる。


「本番までもう少しだけど、頑張らないとね」

私は自分を奮い立たせるように言った。


そうだよね。今は泣いてる場合じゃない。


「でも、無理しないでね」

蒼大の声には、私を気遣う優しさが溢れていた。


「うん、ありがとう」


その後、私たちは手を繋いで教室に戻った。


蒼大の手の温もりが、私の心を支えてくれる。


クラスメートたちは文化祭の準備に取り組んでいた。


私は自分の席に座り、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「美月ちゃん、大丈夫?」

明日佳が心配そうに声をかけてくれた。


私は微笑んで頷いた。


「うん、大丈夫。それより、明日佳こそ大丈夫?」


文化祭までに衣装を作り直すなんて。


「何とか、ギリギリ間に合いそう」

「そっか」


「今はお互い文化祭のことだけ考えようね」


きっと、私が犯人のことで頭がいっぱいなことを見破ってるんだと思う。


「そうだね」


明日佳の優しさに感謝しながら、私は再び練習に集中することにした。


文化祭まであと少し。


私は自分の力を信じて、全力で頑張ることにした。

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