第34話:闇に包まれた舞台

「昔々あるところに一人の魔法使いがいました。魔法使いと人間とでは仲良くなれない世界…ですが、二人は出会ってしまったのです」


ナレーターの声が響く中、私は舞台の中央に立っていた。


心の中で緊張を抑えようとしていたけど、観客の視線が私に集中しているのを感じて、心臓がドクドクと高鳴っていた。


「すごい!君、魔法使いなの?」

「えっ、誰?」


「ごめん、驚かせちゃったね。僕はアレン。君の魔法を見て感動したんだ」


本番なのに、蒼大はいつも通りの演技力で


「ありがとう。でも、魔法は危険なこともあるから、あまり近づかない方がいいよ」


「分かった。そんなことより君の魔法凄いね!他にも見せてよ」


私はいつも通りセリフを続けたけど、心の中は大荒れだった。


みんなじゃがいも…みんなじゃがいも…。


ダメだ、じゃがいもに見えない。


っ、


どうしよう、緊張でセリフが出てこない…。


その時、観客席の中にお兄ちゃんの姿が見えた。


こんなにたくさんの人がいる中ですぐに目に入るなんて。


さすがお兄ちゃん。


"…俺の事だけ見ててよ"


あの時のことを思い出して、自然と気持ちが軽くなる。お兄ちゃんの言葉が私を支えてくれる。


「しょうがないなぁ。じゃあ少し離れてて」

「やった」


劇は順調に進み、クライマックスのシーンに差し掛かった。


心臓がドキドキしていた。集中しようと自分に言い聞かせた。


「魔法使いと人間とじゃ幸せになれないなんてそんなの間違ってる…!」


その時、舞台の裏で何かが動く音が聞こえた。


何だろう。一瞬気になったけど、演技に集中しようと気を取り直した。


そして、昨日のあの場面。


「光よ、私に力を貸して…」


次の瞬間、また照明が突然チカチカと点滅し始めた。


視界が悪くなり、私は一瞬立ち止まった。


昨日はチカチカだけだったのに、今度は舞台だけじゃなくて体育館全体が闇に包まれた。


「どういうこと、」


驚いていると、足元に何かが引っかかる感覚がした。


心臓が一瞬止まったように感じた。


「危ない!」

蒼大の叫ぶ声が聞こえてきた。


私はバランスを崩し、倒れそうになった。


その瞬間、舞台のセットが崩れ始め、私の方に向かって倒れてきた。


恐怖で体が動かなくなった。


「リリィ!」

蒼大が叫び、素早く駆け寄ってきた。


蒼大は私を抱きかかえ、セットが倒れる直前に安全な場所に避難させた。


「美月、大丈夫?」


蒼大が心配そうに尋ねた。


その優しさに、少しだけ涙が出そうになった。


「うん、ありがとう。蒼大が助けてくれなかったら…」


私は震える声で答えた。


心臓がまだドキドキしていた。


その後、すぐに電気は元に戻った。


「すげぇ」

「今の演出リアルすぎ…」


観客席から感嘆の声が聞こえてきた。


観客は演出だと思ってたみたいで、劇は中断することなく続けることになった。


私は、さっきのことに動揺しながらも、何とか最後までやりきる事が出来た。



あれは一体何だったんだろう。

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