第28話:見えない傷

「今のシーンでライトを大きくして!!」

「分かった!」


「音響ちょっとズレてた!」

「ごめん!」


本番まで残り一週間。


舞台練習が始まり、演技の練習だけでなく、照明や音響の調整も行われた。


私は緊張と期待が入り混じった気持ちで、舞台の上に立っていた。


「美月、感情込められてていい感じなんだけど、もうちょっと声を張れるかな」


と演劇部の友達がアドバイスをくれた。


「わかった、やってみるね」


私は頷き、再び演技に挑戦した。


心の中で自分を励ましながら、もっと感情を込めて声を出そうと努力する。


演技にも慣れてきて、役をようやく自分のものにできてきた、気がする。


自分の成長を感じると同時に、もっと上手くなりたいという欲求が湧いてくる。


舞台練習が終わると、みんなで反省会を開いた。


どこを改善すべきか、どうすればもっと良くなるかを話し合った。


私は真剣にメモを取りながら、次の練習に活かそうとしていた。


「美月ちゃんさっきの演技すごく良かったよ」

「え、ほんと?ありがとう」


褒められることも増えた。


「じゃ、今日はこれで解散にしよっか」

「お疲れ様〜」


監督の一言でみんなが一斉に動き出した。


私も、帰る準備をしようと動こうとしたその時だった


「顔だけのくせに」


この声、

前と一緒の人。


咄嗟に声のする方を見たけど、やっぱりそこには誰もいなくて。


あれから一度も何か言われること無かったから、やっぱり私の勘違いだったんだって気になかったのに。


気の所為なんかじゃなかった…


やっぱり、私のことをよく思ってない人がいるんだ。


前より演技も上達したはずなのに、

一体どうして…


心臓がドキドキして、不安が胸に広がる。


「美月、顔色悪いけど何かあった?」

「ううん。疲れちゃっただけだよ。帰ろっか、」


蒼大に顔を見られたくなくて、背を向けた。


蒼大に腕を引っ張られた。その拍子で私は蒼大と向かい合うことになり、そして、彼の両手が私の顔を優しく包み込んだ。


「そ、蒼大…?」


急にどうしたの、


「俺の目を見て答えて」


やばい。

バレかけてる。


「大丈、夫」


蒼大の真剣な目を見つめながら、私は嘘をつく。


「美月」


蒼大の声が優しく響く。


彼の心配そうな顔を見ると、胸が痛む。


言いたい。

本当のことを言ってしまいたくなる。


「ほんとに大丈夫だから」


犯人が誰かも分かってないのに、言ったところでどうにもならない。


それどころかクラスの雰囲気が悪くなるはず。


私は自分の気持ちを押し殺して、笑顔を作る。


「分かった。帰ろっか、」


蒼大は少し悲しそうな顔をしたけど、これ以上は何も聞かなかった。




彼の優しさに感謝しながらも、自分の弱さにムカついた。

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