第27話:温もりの瞬間


「はぁ。ちゃんと聞いて損した」


私は少しふてくされながら言った。


お兄ちゃんの言葉を真剣に聞こうとしたことに後悔した。


「っていうのは冗談で」

お兄ちゃんが続ける。


「んぅ」


突然、私の顔を両手で包み込むように挟んできた。


驚きと戸惑いが一気に押し寄せる。


だかと、不思議とお兄ちゃんの手の温かさが伝わってきて、少し緊張がほぐれる。


「目の前の人だけ見てればいいんだよ」


お兄ちゃんの言葉に少し混乱する。


お兄ちゃんの真剣な目を見つめながら、何を言っているのか理解しようとする。


こんな顔で言うんだから、きっと冗談じゃないんだろうけど。


「ほれってどういう、」

私は言葉を続けようとするけど、お兄ちゃんの手がまだ私の顔を挟んでいるからうまく話せない。


少し困惑しながらも、お兄ちゃんの言葉に耳を傾ける。


「話をする時は役者の顔を見る」


「ざぁ、どうひてもかんひゃくを見ないといけない時わ?」


私は少し困惑しながらも、真剣に聞く。


どうしても観客を見ないといけない時はどうすればいいのか、お兄ちゃんは答えを知ってるのかな


「その時は…俺の事だけ見ててよ」


…は?い?


「ふぁ?何人いると思ってふの?さぁがせるわけないっていうか」


お兄ちゃんの手をどかす。


「もう!ほっぺた挟まないで」


お兄ちゃんの手の温かさがまだ残っている。


「ごめんごめん」

お兄ちゃんが謝る。


「また訳の分からないこと言うんだから…」

そう言いながら頬をさすった。


俺だけ見ててなんて不可能にも程がある。

事前にどこに座るか教えてくれるなら話は別だけど。そういうことでも無さそうだし。


「探そうとしなくても、他の人より輝いて見えるはずだから。大丈夫」


ナルシスト…と思いつつも、お兄ちゃんのおかげで少し方の荷が降りた気がした。


「ありがとう」

私は素直に感謝の気持ちを伝えた。


「良かった」

そう言って、お兄ちゃんが優しく微笑む。


「え…?」

私は少し驚きながらも、お兄ちゃんの言葉に耳を傾ける。


「さっき元気なかったから」

お兄ちゃんの言葉に少し驚く。


「バレてた、?」

私は少し恥ずかしそうに尋ねる。


「バレてたよ。すごい顔で演技してたから」


お兄ちゃんが私の気持ちを見抜いていたなんて。


「どんな顔?」

私は少し興味を持って尋ねる。


「プレッシャーに押しつぶされそうな顔」


やっぱりか。


「そっか、」

表現管理もしっかりしないとな、


「美月は笑顔が似合うよ」

そう言って、私の頬を優しくつついた。


お兄ちゃんの言葉に少し笑いながらも、その言葉が私の心に深く響く。

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