第25話:演技の稽古場


「アレンのことが好き!他の人がなんて言おうと、私は、あなたさえいればそれでいい…!」


うーん。なんか大袈裟さかなぁ。


「アレンのことが、好きなの。他の人がなんて言おうと私は…あなたさえいれば、それでいい」


違う。


全然違う。


上手く演技できない。


私は深呼吸をして、心の中で自分を落ち着かせる。


さっきは上手くいったのに…


「美月何してるの?」


「あ、お兄ちゃん。ちょっと劇の練習を…」


見られてた…恥ずかしい、


「へぇ。あぁ、主役だって言ってたよね」


「うん。みんなの足を引っ張りたくないから練習しようと思って」


真剣な表情で答える。


自分の役割に対する責任感が強かった。


みんな私に期待して主役に選んでくれたのに。


私のせいで劇を台無しにするわけにはいかない。みんな頑張ってるんだから。


プレッシャーに押しつぶされそうだった。


「…手伝ってあげるよ」

「え?」


お兄ちゃんが演技を…?


「去年俺のクラス特別賞だったでしょ?だからアドバイスしてあげる」


お兄ちゃんは劇出てないじゃん…


だけど、相手がいる方が感情移入できるかも。


「分かった。ありがとう」

「じゃあ、俺はこの…アレン?って役をすればいい?」


「うん。お願い」

感謝の笑顔を向ける。


アレンは蒼大の役で、劇の内容は魔女と人間が恋に落ちる恋愛モノだ。


「じゃあ始めるよ」

「うん」


その瞬間、お兄ちゃんの目の色が変わった。


私はその変化に驚き、息を呑む。


お兄ちゃんが本気で演技に入っているのが伝わってくる。


「リリィ、俺たちはもう一緒にいない方がいい」


心臓がドキドキしている。


お兄ちゃんの演技が上手くて、思わず息を呑んだ。


「っ、どうして、」

「人間と魔法使いとじゃ幸せになれないんだよ」


リリィの悲しみが自然と自分の心に重なる。


「そ、んなこと言わないで」

「だけど、」


リリィの切実な気持ちが自分の中に溢れてくる。


「アレンのことが、好きっ…。他の人がなんて言おうと私は…私は、あなたさえいればそれでいい…!」


涙をこらえながら、アレンへの強い想いを込めて言葉を紡ぐ。


「でも、」


「お願い。私のことを思うならそばにいて…」


目には涙が浮かんでくる。


演技をしようなんて思わなくても、勝手に役に入り込んで、リリィの気持ちが自分のもののように感じられる。


アレンへの愛が痛いほど伝わってくる。


「リリィ…」


そうして唇を重ねる…


ってまぁ、お兄ちゃんがするわけ…


…え、どうして止まらないの。


「お、兄ちゃん…?」


「リリィ好きだよ」

そう言って、顔を近づけてくる。


ダメだ。



役になりきってる。

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