第22話:初めての挑戦


明日佳がカメラを構え、私はドレスの裾を軽く持ち上げてポーズを取った。


シャッター音が響くたびに、少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。


「いい感じだよ、もう少し笑ってみて」

「う、うん、」

私はぎこちなく笑顔を作った。


撮影が終わり、明日佳と一緒に写真を確認していると、ふと蒼大のことが頭をよぎった。


彼の笑顔、優しい声、そしてあのキス…。


胸が締め付けられるような感覚が蘇った。


「美月、どうかした?」

明日佳が心配そうに尋ねた。


「ううん、なんでもないよ」

私は微笑んで答えた。


だけど、心の中では蒼大のことが離れなかった。


蒼大のことを思い出すたびに、心が揺れ動く。


撮影が終わり、私は教室に戻って演技の練習にとりかかることにした。


教室に入ると、歩乃華が舞台のセット作りをしているのが見えた。


クラスメートたちは木材やペンキを使って、魔法の世界を再現しようと奮闘していた。


「ここに星を描いたらどうかな?」

と、歩乃華が提案した。


「いいね!」

「うん!それならもっと幻想的になる!」


みんな一生懸命劇を成功させるために頑張ってるんだ。


私も、足を引っ張らないように頑張らないと。


「あ、美月、遅かったね。撮影どうだった?」

歩乃華が私に気づき声をかけてきた。


「うん、無事に終わったよ。ありがとう」

私は微笑んで答えた。


練習が始まると、私は役に集中しようと努力したけど、どうしても上手く演技できなかった。


演技をするのが初めてで、どうしても自然に演技することが難しかった。


「カット!美月ちゃんもうちょっと自然に演技できるかな、」


監督の声が響いた。


私のせいで練習が遅れる。


みんな私に期待して主役にしてくれたのに。


「ご、ごめん。もう一回お願いします」


私は深呼吸をして、再び役に集中しようとしたけど、焦りが募るばかりだった。


練習が進むにつれて、私は焦った。


何度も同じシーンを繰り返し、どうしても納得のいく演技ができない。


どうすればいいのかも分からない。


「美月、ちょっと休憩しようか?」

友達が優しく声をかけてくれた。


「うん、ありがとう…」


私は深呼吸をして、少し休むことにした。


休憩中、私は自分の演技について考えた。


どうすれば、もっと自然に…


初めてだからって言い訳には出来ない。


その時、ふと蒼大の声が聞こえた。


「美月」


「蒼大、」

私は驚いて顔を上げた。


「大丈夫?」

彼の優しい目が私を見つめている。


「うん、ごめんね、私のせいで練習止まってるよね」


蒼大は微笑んで首を振った。


「そんなことない。初めてのことは誰でも難しいんだから。焦らずに、美月のペースでやればいいよ」


蒼大の言葉に少しだけ心が軽くなった。

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