第18話:魔法のドレス

「え?」


どうして。

もしかして、他に先約が…?


「あったりまえでしょ?彼氏いるんだから、彼氏と回りなよ」

当然のようにそう言う。


なんだ、

「一緒に回ろうよ」


遠慮してたのか。そんな必要ないのに。


「ちょっとちょっと、彼氏さん。彼女さんこんなこと言ってますけど、どう思います?」


「歩乃華ちゃんがいいんだったら、俺も美月と一緒に三人で回りたいな」


うん。

蒼大ならそう言うと思ってた。


「なーに言ってんだかこのカップルは…私のことは気にしないで二人きりで回りなさいな」

少し呆れたようにそう言うけど、


「え、でも歩乃華は?」


私は、蒼大とも歩乃華とも回りたいのに。


「私は、彼氏と回るよ」

と歩乃華がさらっと言う。


「え!?彼氏いるの?聞いてないんだけど?」

「うん。他校にいるよ」


「いつから?どうして教えてくれなかったの?」

私は興奮気味に尋ねた。


「最近だよ。まだみんなには言ってないんだよね」

歩乃華は照れくさそうに笑った。


「そうだったんだ…」

「だから!私のことは気にしないで二人で回りなさい」


「分かった、」

少し寂しいけど仕方ないか。


___



文化祭の準備は日に日に進んでいった。


クラスメートたちはそれぞれの役割を果たし、劇の練習も順調に進んでいた。


文化祭の準備は、毎日放課後にも行われた。


私は、台詞を覚えるのにいっぱいいっぱいだった。


今はまだ見ながら言えるけど、そのうち見ずに演技をしなければならない。


頭がパンクしそう。


「美月ちゃん、衣装のフィッティングに来てくれる?」

と、衣装担当の友達が声をかけてきた。


「うん、今行くね!」

と私は答え、衣装室に向かった。


そこでは、手作りのドレスや小道具が並んでいて、みんなの努力が感じられた。


「このドレス、すごく素敵だね!」

と私は感動しながら言った。


「ありがとう、美月ちゃんに似合うように頑張って作ったんだ」

と友達は微笑んだ。


「このドレスを着ればいい?」


「うん。あ、カメラ置いてきちゃったから、先に着ててもらっていい?」


「もちろん」


ドレスを着て、鏡の前に立っていた。


友達がカメラを取りに行く間、私は自分の姿をじっくりと見つめた。


胸元には小さなパールが散りばめられていて、背中には大きなリボンが結ばれてる。


ドレスの細かな刺繍や、柔らかな生地の感触が心地よかった。


これを一から…

凄い。


「似合ってるかな…、?」

小さな声で自問した。


鏡に映る自分の姿は、普段の自分とは少し違って見えた。まるでおとぎ話の中のプリンセスのように感じられた。


部屋の中は静かで、遠くから聞こえる友達の笑い声や、衣装室の外でのざわめきが微かに耳に入ってきた。


その音に耳を傾けながら、心の中でいろいろなことを考えていた。


「このドレス、蒼大はどう思うかな…」

と、彼のことを思い浮かべると、自然と頬が赤くなった。


蒼大の優しい笑顔や、時折見せる真剣な表情が頭の中に浮かび、胸が少しだけ高鳴った。


「早く戻って来ないかな…」


少しそわそわしながら、部屋の中を見渡した。


ドレスの裾を軽く持ち上げて、歩く練習をしてみた。


歩くたびに刺繍がキラキラと輝き、まるで魔法がかかったみたいだった。


その時、廊下に人影が見えた。


ふと扉の方に視線を向けると、誰かが入ってくる気配がした。


友達が戻ってきたのかと思い、期待と緊張が入り混じった表情で扉を見つめた。



扉がゆっくりと開き、私は目を見開いた。



そこに立っていたのが…



蒼大だったからだ。

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