覗き込む顔

 OLのUさんは、新卒の頃から五年以上同じアパートに住んでいる。

 

 ある土砂降りの日曜日、外に出かけることも出来ず、Uさんはベッドに寝転んでいた。

(日曜日に雨降らないでよ)

 そんなことを思いながらぼーっと天井を眺めていた、その時だった。

 目の前に突如、横から覗き込むようにして人の顔が現れた。

「わあーっ!」

 飛び上がるように後ずさり、反射的に毛布で体を覆う。だが、その一瞬の間に顔は消えていた。

 すぐに周りを見るが、誰もいない。

(今の誰? どこから入ってきたの?)

 長い黒髪が顔に一瞬かかったことから、恐らく女だということは分かったが、一瞬のことだったのでそれ以外の特徴が思い出せない。

 ――ブーッブーッ

 ベッドの上に投げ出されていたスマホが振動する。恐る恐る画面を見ると、母親からの着信だった。

 今しがた起きたことに対する理解が全く追い付いておらず、半ば放心状態で電話に出る。

「お、お母さん、どうしたの?」

「……」

「ねえ、何か用? あの、ごめんなんだけど、実は今変なことがあったから後で――」

「おもしろーい」

 その一言とともに、電話は切られた。


(は……?)

 おもしろい? 何が? 

 まるで意味がわからない。

 Uさんは、すぐに母親へとかけ直した。

「あら久しぶり。どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。さっきの電話何?」

「さっき? 私かけてないよ?」

「ちょっといい加減にしてよ。そんなわけないじゃない」

「かけてないったら。もう、久しぶりに連絡よこしたと思ったら何なのよ……」


 数分後、母親からメッセージアプリで、スマホの通話履歴画面のスクリーンショットが送られてきた。

『電話かけてないよ』

 そのメッセージの通り、Uさんの母親のスマホに発信履歴は残っていなかったそうだ。

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