ねえねえ

 主婦のOさんが、家の近くの喫茶店でご近所さんとお茶していた時のこと。

 スーツを着たサラリーマンと思わしき男性が、子供を連れて店に入ってきた。仕事中じゃないのかしらと思って見ていると、子供の方が大声で叫びだした。

「ねえねえーおじさんいつ死ぬのー?」

(……え?)

「ねえねえーおじさんいつ死ぬのー? ほんとはおじさんが死ぬんだよー?」

 その子供は、サラリーマンに話しかけているようだった。

 しかし、当のサラリーマンの方は何も聞こえていないかのように反応が無い。他の客や店員も、気にかけていない様子だった。

「ねえ、ちょっとあの子供おかしくない?」

「え、あの子供って?」

「あの子よ、あそこのサラリーマンに変なこと言ってるじゃない」

「サラリーマンはいるけど……子供なんている?」

(……もしかして、私にしか見えてない?)

 そう気がついた瞬間、子供と目が合った。

「ねえおばさん! この人殺してよ!」

 サラリーマンのそばにいる子供が、Oさんに向かって叫ぶ。

「ねえ、この人殺して!」

(あ、絶対に反応しちゃ駄目だ)

 そのうち、サラリーマンがカウンター席を立ち、店の外へ出ていった。子供もその後についていったが

「おばさんこの人殺して!」

「ほんとはおじさんが死ななきゃいけないんだよ!」

 という声が、店内からサラリーマンが見えなくなるまで、外からずっと届いていた。

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