第7話 「接触」

「むっ、また反応があるな。恋香、もう時間も時間だし、この反応の悪鬼を殺してから帰ろう」


「はい、分かりました神楽先輩!」



私の名前は如月神楽きさらぎかぐや

普通の女子高生…ではなく、悪鬼を強く、深く憎む滅鬼士の端くれだ。


私が悪鬼を憎んでいる理由。

それは、目の前で両親が殺されたからだ。


あれは6年前…私が11歳の時だった。

そもそも悪鬼は、それほど多く出現するわけではないし、もし出現したとしても滅鬼士がすぐにでも殺す。

そう、本来一般人が悪鬼と出会うことはほぼないんだ。


…しかし私達家族は、偶然生まれたばかりの悪鬼に遭遇し、両親は悪鬼から私を庇い、不運なことにその命を落とした。


今でもあの恐怖と絶望を鮮明に覚えている。

両親が頭から喰われ、血を吹き出し死んでいく姿。

声すら出ず、このまま私も死ぬんだという諦めにも似た絶望感。


そして殺される、と思った刹那、どこからともなく光の矢が飛んできて、目の前の悪鬼を貫いたんだ。


そう…私だけは、運良く助けられたのだ。

今でもお世話になっているB級滅鬼士の倉田真依さんに。

助けられた私は真依さんに連れられた保護施設で、数日間何も食べず、ただただ両親を失った悲しみで放心状態だった。


私は両親が大好きだったし、両親も私を深く愛してくれていた。

なぜ両親が死ななければならなかったのか。

どうして私だけ助かったんだ。


そうやって繰り返し誰かに対して問うていると、次第に沸々と暗い感情が私を支配していったのを覚えている。


悪鬼。悪鬼が私たち家族の幸せを壊した。

…許せない。殺す。絶対に1匹残らず殺してやる。


その暗い感情が、復讐心に変わるのはすぐだった。


本来なら悪鬼の被害者は悪鬼に関する記憶を消され、平和な日常を生きる。

しかし私は記憶を消される前に真依さんに強く頼み込み、真依さんも私の強い復讐心を理解してくれたのか、推薦をもらい、私は晴れて滅鬼士になった。


だが滅鬼士になったのはいいが、魔法を扱える才能があったのは幸いだったとはいえ、私は生徒の中でもお世辞にも優秀とはいえなかった。

12歳から滅鬼士育成学校に入学したが、つい半年前までは小さい地区ですら任せられないE級の落ちこぼれだった。


そんな私が約半年前の4月に、私と同じE級の1歳年下の後輩である四ノ宮恋香と共に、やっとの思いで八王子市地区の悪鬼狩りを任命されたのだ。


悪鬼をこの手で葬れる喜び、そして民間人を守っているという使命感。

まだ下級悪鬼しか出てこない地域しか任せられていないが、それでも悪鬼を殺すたびに両親の仇を討てているようで嬉しかった。


ゆくゆくは中級、上級、そして特級悪鬼すらも殺せるような滅鬼士…十傑の方達のような滅鬼士になるのが私の夢だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




「今日も2、3体は殺せましたね、先輩」


反応のあった悪鬼に向かう道中、恋香がそう言ってくる。


「ああ、そうだな。誰でもない私たちがこの地区のみんなを守っているんだ」


私がそう言うと、恋香も嬉しそうに微笑む。


恋香も楽しそうに悪鬼を殺しているが、なぜ練香が滅鬼士になったのかは私も知らない。

そもそも半年前に急に組まされた仲だし、滅鬼士になる理由は私のように人それぞれ色々ある。


恋香から言ってこない以上わざわざ聞こうとも思わなかった。


「明日のお昼は何食べに行きます?」


「そうだな…ラーメンでも食べに行くか?」


「いいですね、ラーメン!行きましょう!」


しかし何気に私たちは気が合い、よく一緒にご飯を食べに行く仲だ。

余談だが、滅鬼士育成学校は夜中に悪鬼退治をするため、その都合上授業は13:30からの午後スタートである。

そのため、昼食は学食で食べるか、家や寮で食べるか、それとも外食か。

それぞれが自由にしている。


「恋香、無駄話はここまでだ。

この気の感じからまず間違いなく下級悪鬼だろうが、油断はできないからな」


「はい先輩!早くぶっ殺して早く帰りましょう!」


時刻は午前2:10。

私達はいつも大体午前2時前後に悪鬼狩りを終わっているため、時間的にもちょうど最後の悪鬼だ。


「……恋香、待て。あれは…人間じゃないか?」


ビルとビルの間の少し開けた路地裏の気の元に着くと、そこにいたのは、壁に寄りかかり夜空を見上げている1人の男だった。


「…本当ですね。でも間違いなく悪鬼の気を感じます。ど、どーゆーことですか?」


「…わ、私にも分からない。こんなことは初めてだ。ここは慎重に…」


「やぁ、待ってたよ」


「「っっ!?!?」」


少し距離が空いているにも関わらず男の視線がこちらを向き、あろうことか喋りかけてきた。


「しゃ、喋った…!先輩、あの悪鬼喋りましたよ!?」


妙な緊迫感からか、恋香は魔銃を構える。

かくいう私も、相棒の魔刀を咄嗟に構える。


「喋る悪鬼……授業で習ったことがあるが、特級悪鬼は喋るやつもいると先生が言っていた。

まさか、特級悪鬼…!?」


しかし、ヤツの気は間違いなく下級悪鬼のものだ。


「どう思おうと君たちの勝手だが、逃げなくていいのか?もし僕が本当に特級悪鬼だったらどうするのさ?」


こいつ…どういうつもりだ?

強い気配はやはり感じられない。

いつもの下級悪鬼と一緒だ。

…たまたま下級悪鬼が知性をつけ、喋っているだけ?そして命乞いをしている…のか?


とにかく、こいつは放って置けない。

ここで始末しなければ。


「恋香、戦う準備はいいな?」


「はい先輩!不気味なやつですけど、弱そうです!早く片付けちゃいましょう!」


「よし!」


それを合図に、私は一気に踏み込む。


「…戦う選択肢をしたか。まぁそれも面白い。

試してみるとしようか」


「はあああああっ!」


私は魔力を刀に纏わせ、一気に振りかぶる。

先手必勝。下級悪鬼なら、もうこれで致命傷に…!


と思った瞬間、キンッと音が鳴り、ヤツの体から刀が弾かれた。


「なっ!くそっ!」


私は連続攻撃を仕掛けるが、悉く全てが弾かれてしまう。


「ふっ、やはり僕は完璧だな。

問題なく使いこなせている」


意味のわからないことを言いながら、自分に酔った様子の男。


な、なぜ…なぜ私の攻撃が全て弾かれる?

当たる寸前に、違う方向に攻撃がずらされる感覚。

今まで感じたことのない感覚に、私は戸惑うことしかできない。


「先輩っ!避けてください!はあああっ!」


魔銃に魔力を込め、出力を上げていく恋香。

いつもの下級悪鬼なら、恋香の銃でも致命傷になる。しかし、こいつは…!


「ま、待て恋香っ!こいつどこか変…!」


だ、と私が言い切る前に、恋香はその引き金を引いてしまう。


……………。


一瞬か、はたまた10秒程か。

シーーンッと時が止まったように静かになるが、その静寂を破ったのは、


「っ!うっ、ぐっ…」


という、恋香の苦しげな声だった。


「恋香!?どう…し…た…?」


後ろを振り向けばそこには、腕から血を流し、二の腕当たりを手で押さえている恋香がいた。


「恋香!?貴様っ!!何をした!?」


余裕そうに、おお〜っ!と驚いている男に対し、私は再び刀を向ける。


「さぁ?何をしたんだろうね。

だが僕がその気なら、今頃恋香はとっくに天国にいるだろうな」


「くっ!」


それが冗談ではないことは、直感でなんとなく分かった。

こいつは私達が勝てる相手じゃない。

なんとしてでも逃げなければならない。

それを感覚が告げてくる。


「せ、先輩っ!うぐっ、こ、こいつは私達の攻撃を全部跳ね返しているんです!

み、見てください!壁に私の魔弾が埋まってます!!」


腕を抑え苦しそうにしながらも、壁を指す恋香。


「ほ、本当だ…!攻撃がずらされているように感じたのはそれか…!」


この男はおそらく、恋香の魔弾を跳ね返し、腕に掠らせたのだ。


私たちがそうやって話し合っていると、男は感心したように手を叩く。


「もうそれに気づくなんて結構やるね。

でも、それが分かったところでどうする?

恋香は早く手当てしないと出血多量で死んでしまうぞ。

君が頑張るしかないな、神楽」


「っ。貴様、なぜ私の名前を…」


恋香はまだ分かる。私が名前を呼んでいるからだ。

だが私は、こいつの前では恋香に"先輩"としか呼ばれていない。


「そんな細かいことを気にしてる場合か?

今の君は無謀にも戦うしかない。それは分かっているはずだろ?」


「………そうだな。恋香、私がどうにか時間を稼ぐ。その間に逃げるんだ」


「先輩!?そんな、嫌ですっ!!」


「私たちの敵う相手じゃない!!

今は1人でも多く生き残ることを考えるんだ!!」


「せん…ぱい…くっ!」


恋香も逃げなければならないのは感覚で理解していたのか、覚悟を決めた様子で、涙を流しながら少しずつ後退りする。

…それでいい、お前は生きろ。


「逃すと思ったのかな?」


「っ!!」


男は急に加速したかと思うと、ゆっくりと警戒しながら後退りしていた恋香の後ろに回り込んだ。


「恋香っ!!!」


私が近づこうとすると、男は恋香の首に手刀を当てる。


「おっと、それ以上近づくと恋香を殺すよ?」


「貴様っ!!恋香を離せ!!」


「せん、ぱい…!んっ♡」


男はあろうことか、手刀している手とは逆の手で恋香の胸元を弄り、胸を揉み始めた。


「おお〜。恋香、君結構あるね」


「は、離してっ!あっ♡な、なんか、身体が敏感に…!」


恋香は身体に力が入らないのか、膝をガクガク揺らしている。


「なっ、なっ、何をしている!?」


私は混乱することしかできない。


「神楽、取引しよう」


「と、取引、だと…?」


急にそんなことを言ってくる男に、なんとかそう返す。


胸を揉むのはやめたようだが、依然として恋香の首に手刀は当てられたままだ。


「ああ。君たち2人の命は奪わないし、恋香の腕を治療し、恋香は逃してあげよう。その代わり、君は僕の奴隷になるんだ。悪くないだろ?」


奴隷…。考えるまでもなく言葉通りの意味だろう。

そして、それで恋香が助かるというのなら、私に迷う余地はない。


「…分かった。貴様の奴隷になろう」


「せ、先輩!?」


恋香が泣きそうな顔で私を見つめてくるが、私は心を鬼にし、無視する。


「さぁ、早く恋香の腕を治し、恋香から離れろ」


「へぇ…随分と潔いね。

分かった、約束は守るよ」


そうすると、男は本当に恋香の腕を完璧に治療し、恋香を解放した。


この男…余裕ぶっているが、やはり頭はそこまで回らないと見える。


情報を持っている恋香をむざむざ逃すなど、自分の実力を過信し、油断している証拠だ。


「せん、ぱい……っ」


さっきは覚悟が決まっていたはずなのに、また泣きべそをかき、逃げようとしない恋香。


「恋香、早く逃げろ!!

私を困らせたいのか!?」


「っ!ぐすっ…せ、先輩、どうか死なないで…!」


そうして恋香は背を向け、無事逃げることができた。

男は本当に約束を守るのか、恋香を追いかける素振りすら見せない。


…良かった。

恋香が逃げられただけで、私は満足だ。

もう2度と、目の前で大切な人を失うのは嫌だからな。


「安心しなよ、約束通り僕は君も殺すつもりはない。

まぁ、これから君の人生は僕の奴隷として生きることに決定したけどね。

殺されないだけマシだと思ってよ」


「…図に乗るな。確かに奴隷になるとは言ったが、隙を見て殺してやる」


「おお、怖い怖い」


と、全く怖くなさそうに笑う男。

…どこまでもムカつくやつだ。


「さて、じゃあ早速行こうか」


男は、すぐ近くのラブホテルを指差す。

やはり、奴隷とはそういう意味。


く、くそ…初めてをこんなやつに…。

彼氏などできたことがないし、もちろんラブホテルになんて行ったことがない。


「待て。その前に質問がある。

貴様は、悪鬼の仲間なのか?」


答えず、一蹴されてもいい。

しかし私はダメ元で聞いてみる。


「…まぁ、それくらいは答えてやってもいいか。

僕は悪鬼の仲間じゃない。君たちがよく使う魔力を纏えば理解できるかな?」


そうして男は纏っていた悪鬼の気を消したかと思えば、今度は私達滅鬼士がよく使う魔力を纏う。


「なっ…!き、貴様男だろう!?

なぜ魔力を纏える!それは女にしか使えない力のはずだ!」


滅鬼士は女にしかなれない。

それは、滅鬼士界では不変の事実だ。

例外はない。


「さぁね。なんでも言うと思ってるなら大間違いだ。

それよりも早く来なよ。時間稼ぎのつもりか?」


男は、私の腰にイヤらしく手を回してくる。

そして、男のゴツゴツとした手で、そのままイヤらしく胸を揉まれる。


くそ…屈辱だ…!


「…分かった。早く連れて行けばいいだろう」


「ははっ、そう来なくちゃね」


そうして私は腰に手を回され胸を揉まれたまま、ラブホテルへと連れて行かれた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー




時は少し遡り、空が神楽と恋香が来るのを待っている時。


「そうだ。ロディ、1つ言い忘れていた」


「(ん?なによ、空)」


ロディは僕のパーカーの首元からひょこっと顔を出し、にゃ?と疑問符を浮かべている。


…可愛いな。って、今はそんなことを思っている場合じゃない。


「できればでいいけど、ロディは姿を出さず、僕の服の中に隠れていて欲しい」


少し服が盛り上がるが、よく見なければ分からない程度だ。


「いいけど、なんでなの?」


ロディは割と僕の考えていることを詳しく聞きたがる。

僕としても、ロディに隠し事はしたくないため聞かれれば全て答えている。


「恋香に発信機をつけ、僕という存在の情報を持ち帰らせるのは変更せずにやるけど、君は切り札という意味で隠しておきたい。

僕が窮地に陥らないという絶対の保証はないんだ。

そんな時に君の存在を隠しておけば、どんな窮地だって乗り越えられる。

保険のようで少し面白くないけど、あくまでも犯罪行為をしている以上慎重に慎重を重ねて損はないからね」


ロディは、正真正銘存在がチートだ。

そんなチートカードは隠しておいて、あくまで"僕を討伐するために滅鬼士の女を派遣させる"ような状況に持ち込みたい。


そうすれば女が向こうからやってくるし、わざわざヤる相手を探す必要もなくなる。

まぁ、滅鬼士の本部とやらがどう判断するかは分からないが…おそらく、そういう流れになるはずだ。


もしならなければ、また違う方向から攻めるだけ。


「(なるほどね〜!やっぱり空の考えを聞くのは面白いわ!私を切り札に…ね。

ふふっ、普段からもっと私を頼ってくれてもいいのに)」


「ロディ、それは…」


「(はいはい分かってるわ!私は必要に応じて空のサポートをするだけ、でしょ?

いいわ!私、透明化ができるしちょっと離れてた位置で見ておくわね)」


「…透明化、だって?」


「うん、そうよ。こんな感じで…」


すると、子猫状態のロディは本当に透明になり、見えなくなる。

新たなパッシブ能力、判明だな。


「…流石だな、ロディ。

それができるならそれが最善だ。

もう2人が来る。ロディはそこで見ていてくれ」


「(分かったわ。信じてるわよ!)」


「ああ、任せてくれ」


そうして、僕は計画通り恋香の服に超小型の発信機をつけ、わざと恋香だけを逃し、神楽という容姿、スタイル共に優れた極上の女を手に入れた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後書き


次話もほぼ完成していたのですが、性的表現をどこまで書いていいか分からず結構訂正中です。

とりあえず、手探りで書いていこうと思います。

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