第1章 動き出す悪
第6話 「監視」
11月1日午前2時。
東京都内のとあるビルの路地裏で、女2人とおよそ人間とは思えない姿形をしたバケモノが戦いを繰り広げていた。
「はあああっ!」
「ぐおおおお!」
瞬間、日本刀が光輝いたかと思えば、1人の女はその日本刀を振るい、鋭い音を鳴り響かせ、バケモノ…悪鬼を浄化していく。
その光景を、僕は気配を消し近くで監視していた。
「相変わらず今日もあの2人が来たな。
…さて。今までは見ていただけだが、今日は違う」
あの2人の本気はまだ知らないが、何となくの強さは分かっている。
僕が負けることは100%ないだろう。
「(ついに接触するのね!!
両方ともヤるの?)」
「いや、本命はお堅そうな刀美少女JKの方だ。
あっちの頭の緩そうな銃みたいな物を持ってるJKは逃すつもりだよ」
まあ銃女の方も間違いなく犯したくなるような美人なので、後で犯すのは確定している。
ただ、本部を探るためにも盗聴器をつけて一度逃すというだけだ。
「(あっちの黒髪の方ね!
ちなみに、なんで茶髪女じゃなくて黒髪女の方なの?)」
「ん?そんなの僕の好みに決まってるだろ?
明らかにお堅い雰囲気の刀美少女JKをイキ狂わせるのが楽しいんじゃないか」
「(…要するに、尻軽っぽい女より清楚な女が好きってことでしょ?)」
「まあそうとも言うね」
と、話しているうちにJK2人は次の場所に移動しようとしている。
「ごめんロディ、無駄話は後だ!」
僕はパーカーのフードを被り、準備を整える。
「(行くのね…!)」
ロディは僕が自ら接触しに行くと思っているのか、僕のパーカーを掴む小さな手に少し力が入っている。
「いや、僕からは行かないよ。
あいつらは悪鬼の"気"を察知することで狩りをしている…それは間違いない。
それを裏目に取れば、わざわざ僕の方から接触する必要はないんだ」
僕はさっき戦っていた場所からほんの少し歩き、《完全模倣》した悪鬼の"気"を纏う。
「にゃあ…!(な、なるほど…!向こうから来させるってことね!流石は空だわ!
ふふっ…無様に自分からヤられにくるなんて滑稽ね!)」
「ははっ、そうだな」
そうして、僕はロディを抱っこしながら女2人を待ち構えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(ねぇ空。あれから10日間くらい経つけど、敵情視察はしないの?)」
10月20日午後7時。
今日の仕事を終え、家に帰った後ロディと一緒に晩御飯を食べていると、ふとロディがそんなことを聞いてきた。
「やっぱり僕とロディは運命的に繋がっているのかもしれないな。
ちょうど今日、しようと思っていたところさ」
あれから10連勤で忙しかったけど、ちょうど明日から2連休で僕は徹夜で敵情視察をしようと思っていたのだ。
余談だが、無事退職届を出し、10月末に仕事は辞めることになった。
「(も、もう。また運命だなんて…全く、空はいちいち恥ずかしいことを言わないと気が済まないの?)」
愛と美と性を司っているくせによく照れるロディに対して反応が面白くて割と揶揄っていたからか、最初の方の反応は付き合いたてホヤホヤのカップルのようだったのに、ここ数日は付き合って半年目くらいの反応になってしまった。
「僕はいつだって本気なのに…」
「(ば、ばか!人間と神の恋愛なんてありえないんだから!)」
最近ロディはずっとこう言うんだ。
しかしこう言うからには逆に僕を意識している証拠。
ロディは間違いなく恩神だけど、隙を見てロディともセックスをすると僕は心に決めている。
押せば精神世界でヤれそうだけど、子猫の封印から解かれ、生身の状態になったロディとヤリたいんだ。
だから、余計に神力集めを頑張らないとね。
「まあこの話は一旦置いておいて、今日は本気で敵情視察するつもりだよ」
これ以上言ってもロディがツンデレるだけなため、僕は話を戻す。
「(一生置いておきなさい!…って、ついに動くのね!でもどうやって視察するつもり?)」
「そうだな…」
ロディの情報収集に頼れば、何時にどこで戦っているのか。
構成人数は何人なのか。
滅鬼士の本拠地はどこなのか。
などなど、これら全てが1発で簡単に分かるだろう。
しかしそれではつまらなすぎる。
ロディも僕の性格をだいぶ分かってくれているのか、僕の指示以上のことは何もしないでいてくれている。
「《完全模倣》で会得した"魔力探知"を使ってみるつもりだ。
これを使って分からないようなら違う案を考えるよ」
ロディは滅鬼士たちが使うのは"宇宙全域に存在する魔力"ではなく"魔力に似た力"と言ったが、僕はその力は"宇宙全域に存在する魔力"が地球独自に派生した力だと考えている。
だから問題なく"魔力探知"は機能するはずだ。
「(そっか!まあ私は空に全部任せるから頼りたくなったら言いなさいよね〜)」
「ああ、分かったよ」
と、完全に考えることをやめ、能天気に晩御飯を食べるロディ。
ちなみに毎食食べたいと言っていたご飯、味噌汁、鮭の定食だが、3日ほどで飽き、今は僕と同じ食事をするようになった。
僕は別に健康に気を遣っているわけではないから、Uverで頼んだり牛丼屋に行きテイクアウトしたり、コンビニで適当に買ったりなど、割と味が濃いものを食べているからロディも全部美味しく食べている。
…仮に生身に戻れても普段は猫の状態でいてもらいたいな。可愛すぎる。
「にゃ〜(ごちそうさま!今日も美味しかったわ空!)」
と言いながら、僕の膝の上にちょこんと乗りにくるロディ。
「それは良かったよ」
僕はそんなロディの綺麗な毛並みを左手で撫でつつも、ご飯を食べ進める。
「(ねぇ空!あなた結局どんな魔法を模倣したの?)」
「ん?気になるか?」
「(当たり前よ!天才の空が、どんな魔法を模倣するのか検討もつかないもの!)」
こうして、ロディは度々僕を天才だと褒めてくる。
「これからも増やす予定だけど、僕が最も使うことになりそうなもので言うと《ベクトル操作》と《超回復》と、対象の感度を1000倍にする魔法と、対象を僕だけのあそこと子種の中毒にさせる魔法かな」
「(よ、よく分からないけどエッチな魔法を模倣したのだけは分かったわ!)」
《ベクトル操作》はその名の通り、この世に存在するベクトルを全て操る魔法だ。
本来この魔法を使うには完璧にベクトル演算ができる頭脳が必要だが、僕にとってそれは簡単なこと。
僕が使えば攻撃にも防御にもなる完璧な魔法ということだ。
《超回復》は、億が一にもありえないことだが、もし仮に演算ミスで相手の攻撃を食らってしまった場合の保険かつ、絶倫効果も併せ持つ便利な魔法だ。
多くの女を犯す以上、僕がへばるなんてことはあってはならない。
その点において、精力すらも超回復できる《超回復》の魔法は今後愛用するだろう。
「《ベクトル操作》なんかは実際に戦うときに見せた方が分かりやすいかもね。
対象の感度を1000倍にする魔法は…そうだ、ロディに魔法は効くのか?試してみよう」
「にゃ!?(え、ま、待ちなさい!!っっ!!)」
僕の膝の上にちょこんと乗っていたロディは、急にその小さな体を震わせ、テレパシーが来なくなった。
「へぇ?その反応的にロディにも魔法は効くのか?なら…」
「にゃあああ!ふにゃああ!(やめ、やめなさい!耳やめてぇぇ!し、尻尾もダメっ♡んっ♡ばか!空のばかああ!♡)」
耳や尻尾を優しく撫でてやれば、テレパシーでわざわざ喘ぎ声を送ってくるロディ。
「はは、かわいいなぁロディは。
そんな良い反応されたらもっといじめたくなるだろ?」
幼気な小さな子猫にイタズラするのは少し気が引けるが、精神世界で見た絶世の美女状態のロディにイタズラしていると思えば関係ない。
「にゃ…ふにゃ…(も、もうほんとにやめて空っ♡い、イってる!イってるからぁ!♡)」
ビクビクと体を震わせ、小さな体をグデっとさせているロディ。
…少しやりすぎたかな。
「ごめんごめん。っていうか、猫の状態でもイケるんだな?」
「にゃあ!(やっぱりあなた謝る気ないわよねぇ!猫の状態どころか、元の状態の時でもイ、イったことなんてないわよ!ばかぁ!)」
「…え?」
今とんでもないことを言わなかったか?
「にゃ!?(なによ!?エロ空!)」
どうやら、自分の発言に気づいていないらしい。
薄々感じていた。
下ネタで照れるところや初心なところ。
まさかとは思うがロディは…。
「いや…薄々思ってたけど、ロディって処女なのか?」
「(…………へっ?な、ななななな何を言い出すのよ急に!わ、私が処女!?そんなわけないじゃない!空にしては的外れもいいところね!)」
この反応…やはり間違いない。
ロディは処女だ。
…ぜひ僕が奪ってやりたい。
女神の処女を奪うなんて、考えただけで射精してしまいそうなほど面白そうじゃないか。
「…へぇ。ならさ、精神世界で1発ヤらせてよ。ヤらせてくれたらもっと頑張れると思うぞ。どうせ処女じゃないんだし、1発くらいいいだろ?な?」
「(……………………ば、バカなこと言わないで!
私と空がヤっても神力が回復するわけでもないし、そもそも神と人間は愛し合っちゃダメなの!そういう決まりなのっ!!)」
想像以上にガードが堅いな…でも感触自体は良い。
って、いや待て、決まりだと?
「その決まりは誰が決めたんだ?」
「(…………創造神よ)」
ビンゴだ!
「君はその創造神に復讐したいんだろ?
創造神が決めたルールに従う必要はあるのか?」
「(……………ないわね)」
「ならいいじゃないか。
どうせ僕たちは魂では繋がってるんだ。
体でも繋がってもいいと思わないか?」
「(…………………)」
間違いなく考え込んでいる。
つまりは、僕とならヤってもいいかもと少しは思っているということだ。
「(………や、やっぱりダメよ!
空は人間の女を犯していればいいの!
アイドルでも女優でもヤリたい女がいたら手伝うから!
だから……私とはまだダメよ」
「っ!」
ロディは今、絶対に意図的に"まだ"と言った。
なるほど…確かに僕らはまだ会って10日だ。
意外と貞操観念が高いロディは、僕とセックスするのはまだ早いと思っているらしい。
もっと私の信用を勝ち取れと、そう言っているみたいだ。
なら、これ以上迫るのは無粋だな。
「そっか…分かったよロディ。
俄然やる気が出てきたな。
僕がヤリたいと思った女は誰であろうと犯してやる」
ご飯を食べ終わった僕は立ち上がり、食器をシンクにつける。
「(それでいいのよ。もう…ほんとに空はいい度胸してるわよね。
空以外がここまで迫ってきたら、間違いなく殺してるんだから!)」
「へぇ?それは迫られたことはあるけど応じたことはないってことでいいかな?」
「(〜〜〜っ!そ、そうよ!空の言う通り私は処女よ!もう、これで満足!?あなたになら捧げてもいいかなって思ってるのよ!
ありがたいと思いなさいよね、まったくっ!」」
…本当にありがたいことだな。
「最高の美神であるアフロディーテ様にそんなことを言われて、ありがたくないわけないだろ?
僕は必ず君を幸せにするよ。
そのためにも…行動開始と行こう、ロディ」
時刻は夜8時。
最近夜は結構寒くなってきたため、僕は暖かい黒のパーカーに着替える。
「(え?あ、もう行くのね?
ふふっ、楽しみだわ!)」
ロディは僕のパーカーの中に入り込み、首の下の少し空いている部分からヒョコッと顔を出す。
「寒いのか?」
「(ううん、違うわ。こうすると移動が楽なだけよ。神にとって、寒さも暑さもなんら苦ではないもの)」
「そっか…さすがだな」
寒いようなら流石に服を着せてあげようと思ったけど、そうじゃないならいいや。
そうしてロディと他愛もない話をしながら、僕は滅鬼士を探るため夜の街へ繰り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕はロディと話しても怪しまれないよう無線イヤホンを付け、東京の夜の街を散策していた。
今の時代、無線イヤホンをつけて電話をしながら歩いている人はたくさんいるし、怪しまれることはまずないだろう。
「……全然反応がないな」
時刻は夜の23時。
3時間ほど散策しているが、魔力の反応の欠片もない。
人払いのようなことをするときに絶対に魔力の反応があると思ったし、悪鬼と呼ばれる存在はそのイメージ的に夜に動き出すと予想していたのだが、全て外れたか…?
…いや、まだ所詮3時間しか経ってないんだ。
僕は朝まで散策する覚悟で出かけたはず。
作業こそ地味だが、こういうことこそ根気強くやることに意味がある。
予想が外れたと決めつけるのは、この作業を1週間続けた上で反応がなかったときでいいだろう。
「(ねぇ空〜〜!暇だわ〜〜!
私が情報収集すればすぐ分かるんだからそれでいいじゃな〜〜い)」
パーカーの下に入り込んだまま、僕の胸板をペチペチと叩いてくるロディ。
つい甘やかしたくなるが、僕は心を鬼にする。
「ダメだ。そんなことすれば何もかもが簡単すぎてつまらなくなるだろ?
僕はこういうことにもやり甲斐を感じたいんだ。
それに、僅かとはいえ神力を使うんだろ?
今の君はもっと節約すべきだ」
「(え〜?ほんとに僅かよ?
私の全盛期の頃の神力が10兆だとしたら、0.1くらいしか使わないわ!
価値が高い情報なんかは10くらいは使うけど、所詮はその程度ね!
全盛期には程遠いとはいえ、空のおかげで今の私の神力は5000くらいは回復したもの!
だから情報収集するくらいどうってことないのに〜!)」
マ、マックスが10兆だと…?
今が5000だとすると、20億分の1しか回復していないことになるのか。
1回のセックスでどれくらい回復するかは知らないが、確かにロディが完全に復活するのは程遠い話だな……って、いや、違う。
確かに程遠い話だというのは分かったが、今はそんな話ではない。
「だとしてもだ。もしそんなイージーゲームにするなら、僕のモチベは大幅に下がるよ。
それでもいいのか?」
ロディとヤリたいからやめはしないが、モチベが大幅に下がるのは間違いない。
「(うぐっ!そ、それはダメよ!
……うぅ、分かったわ。何日だろうと付き合ってあげるわよ!
空ってば、頭脳派で天才肌かと思ったのに意外と努力するというか、地道にやるタイプなのね」
「まあ、そうだね。
案外こういう地道な作業が大事だったりするんだよ」
まあただ単に、こうして地道に探る方が見つけた時の達成感が凄いというだけだが。
「(ふ〜ん。空の考えることは難しくてよく分からないわ。ねぇ、じゃあせめてコンビニ寄ってよ!アイスが食べたいわ!)」
「…おい、まだ食べる気か?
晩御飯で牛丼の大を3個食べてたよな?
一体その小さな体のどこにそんな量のご飯が入るんだよ」
こいつ、こう見えて大食いなのだ。
今まで食事をしたことがなかったが故の反動なのかもしれないが。
「(あら、空知らないの?アイスは別腹って言うのよ?)」
「………」
この神…変な言葉ばかり覚えやがって。
「(ねぇいいでしょ空〜!買って!買って!)」
「ったく…分かったよ。
じゃあそこのファミリーメイトで…っっ!?」
瞬間、魔力感知に反応があった。
「ごめんロディ。コンビニは無理みたいだ」
「(そうみたいね。全く、タイミング最悪なんだから。
でも、ようやく面白くなってきたわね!)」
ようやく状況が動き出し、ワクワクした様子のロディ。
「反応的に結構近いな…ビルの路地裏か?
よし、とにかく行くぞ、ロディ!」
「にゃ!(ええ!)」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…ん?」
魔力反応があった場所に向かっていると、膜のようなものを通り抜けた感覚がした。
「(今なんか通り過ぎたわね)」
「そうだな。今のは…ああ、なるほどね。滅鬼士たちは人払いの魔法を使っているわけじゃなく、そもそも魔力を感知できない人間は入ることすらできない空間を擬似的に作り出していたのか。
どうりで今まで分からなかったわけだ」
問題は、その空間に入ったことが滅鬼士たちにバレてしまっているのかどうかだ。
興奮していたとはいえ、流石に迂闊に近づきすぎたか…?
…まあ、《超回復》がある限り死ぬことはない。
バレていようがバレてなかろうが、今はリスクを負ってでも魔力の濃い場所にもっと近づいてみるしかないだろう。
スリルがあって興奮するしね。
そうして、僕は物音を立てないよう戦闘音がする場所に近づいていく。
「……」
流石の僕も、少し緊張が走る。
悪鬼とはどんなバケモノなのか。
そして滅鬼士はどんな奴らなのか…。
「っ!」
1番魔力が濃いところに着くと、もう勝負がついたのか悪鬼と思われる何かが浄化していっている。
「(あら、もう勝負ついちゃったのね。
戦うところ見たかったのに)」
話すと気づかれる恐れがあるため、僕は心の中だけでそうだなと頷く。
(あの浄化されていっているバケモノが悪鬼…?
そしてあの女2人が滅鬼士か…?)
耳を澄ませると、かすかに話し声が聞こえる。
「神楽(かぐら)先輩お疲れ様です!
いや〜もう下級悪鬼の狩りは手慣れたもんですよね〜」
「むっ。油断は大敵だぞ恋香(れんか)。
いつ中級悪鬼が出てくるか分からない以上、気を抜くな」
「あっはは…すみません、つい。
でもでも、アタシたちがこの辺りの地区の見回りを始めてもう半年以上経ちますけど、中級悪鬼なんて1度も遭遇したことないじゃないですか!ほんとに警戒する必要あるんですか?」
「私たちの地区は東京の中心部からは外れていて確かに中級悪魔は少ないが、いないわけではないんだぞ。
それに、将来的には上級悪鬼や特級悪鬼すら出現する東京の中心部を任される可能性もあるんだ。
まだ学生だからと胡座をかいていると痛い目を見るぞ」
「そ、そうですね!すみません、気をつけます!!」
「ふふっ、まあ恋香が言うように油断する気持ちも分かるぞ。
学生とはいえ半年間中級悪魔すら出てこない地区を任されるとはな…所詮私たちは滅鬼士の端くれということだ。
早く十傑の皆さんのようになりたいな」
「わかりますわかります!全滅鬼士の憧れですよね!」
その後は次の目的地に向かうために2人が歩き出し、声は聞こえなくなった。
「………ふむ。割と情報が得れたね」
「(そうね!どっちとも可愛いから、空嬉しいでしょ!)」
「…確かにそれも思ったけど、今はそこじゃないよロディ」
「にゃ?」
じゃあなんなの?と言った表情で僕を見つめてくるロディ。
確かに容姿の可愛さは最重要であの女たちは間違いなく合格だが、僕はそれ以外の情報について心の中だけで整理する。
ポンコツ女神はどうせ忘れるだろうし、わざわざ言う必要はないだろう。
まず悪鬼には下級と中級と上級と特級が存在する。
これは確かだが、4種類と決まったわけではない。下級のさらに下の悪鬼がいるかもしれないし、特級のさらに上の悪鬼もいる可能性がある。
まあ4種類の悪鬼がいると判明しただけでも十分だろう。
そして、悪鬼は東京の中心部に近づくにつれてその強さも増すということもあの女たちの会話から読み取れた。
確かに僕の住んでいるここらの地区は東京の中心部から大きく外れているから、下級悪鬼しか出てこないというのも納得だ。
なぜ中心部に近づくにつれて強さを増すのかについても少し気になるが、現状は分からないな。
予想だけをするなら悪鬼が人の負の感情を喰らい繁殖するというロディの情報から、単純にそれに比例して人の多いところに負の感情が集まりやすいという理由から強い悪鬼が生まれる、といった具合だろうが、確実なことは言えない。
これは、時間をかけて情報を集めるしかないだろう。
さらに、あの女たち…確か神楽と恋香だったか。が、弱い可能性が高いということ。
これはあくまで可能性であって、断定してはならないだろう。
たとえ滅鬼士の端くれであっても、《ベクトル操作》で勝てない可能性は0じゃない。
……いやまあ、負けることはまずないだろうが、どっちみちあいつらに関してはもう少し見極めが必要だろう。
最後に…お堅そうな刀美少女が言っていた"十傑"という言葉。
言葉から考えると、まず間違いなく滅鬼士における上位10人の女たちのことだろう。
勘だが、僕が警戒すべきなのはこの十傑な気がするな。
僕の前に立ち塞がる…そんな予感がするんだ。
まあ、まだそれは先の話か。
今はとりあえず、あの2人をどうするかを考えた方が良さそうだ。
「(空が熟考モードに入って暇だわ〜!
どうせ勝てるんだから今日犯せばいいじゃな〜い!)」
深く考え込んでいると、にゃあにゃあと騒ぎ出すロディ。
この神は…。
「11月1日までは《完全模倣(50%)》の理解を深めることと敵情調査に集中するって言ったろ…?
完全模倣に関してはこの10日間で割と分かってきたから、今日からは敵情調査にフォーカスを当てるつもりだよ」
と説明しても、まだ少し不満そうなロディ。
こ、この神は…!いや、もはや女と呼ぶか。
女はなぜ拗ねるとこうも面倒くさいんだ。
「分かったよロディ、アイス買ってやるから我慢してくれ」
「え!?ほんと!?買ってくれるの!?」
…でも日本の女とは違ってロディはちょろい女で助かるな。
「うん、買うよ。
その代わり僕のやることには文句をつけないでくれ。
君が、僕に全部任せるから頼りたくなったら言いなさいよね〜って言ったんだぞ?」
「うっ、それは……ごめんなさい。
はあ…そうよね、私は空に全てを賭けたんだったわ。もう文句は言わない!」
「…ああ、そうしてくれ」
絶対に言うだろうな。と内心思ったが、口にはしないでおく。
とにかく、11月1日までは地道に神楽と恋香の監視だな。
そして11月1日になれば…どちらかを拉致し、どちらかに盗聴器をつけて逃がす。
この作戦で動くとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます