第4話 「滅鬼士」

ご飯、鮭、味噌汁、お漬物という日本的朝ごはんを2人分作った僕は、それをお盆で運びテーブルの上に置いた。


しかし、当のロディは僕のベッドの上で目を瞑り"何か"をしている。

…いや、"何か"ではなく、さっき言っていた情報収集とやらだろう。

何を、そしてどうやってしているのかは分からないが。


「ロディ、ご飯できたよ。

出来れば冷めないうちに食べてくれ」


僕がそう言うと、ロディはハッとした顔で「ニャ?」と言いながら目を開ける。


「(あ、空!ありがとう!じゃあ頂くわね!)」


そうやってテレパシーを飛ばしてきたロディは、まず鮭の匂いを嗅いでいた。

…まあ、一旦味の感想を聞くことを優先するか。

その後に情報収取とは何かについて聞こう。


「(この魚…確か鮭ね!なんていい匂いなのかしら!も、もう食べるわよ!?)」


「ああ、いいよ」


美味しそうな匂いに我慢できなかったのか、僕がいいよと言う前にすでに食べているロディ。


「(〜〜〜っ!お、美味しい!!

何なのこの魚!?…え、待って?もしかしてこのお米と一緒に食べればもっと美味しいんじゃ…!ってうま〜〜っ!空!これヤバいわ!!

日本人はこんな美味しいものを毎日のように食べているの!?なんて贅沢な種族なのかしら!)」


一瞬でご飯と一緒に食べれば美味しいと気付いたのか、一心不乱にご飯と鮭を食べ続けるロディ。

…しかし、それはまだ甘い。

味噌汁も一緒に飲んでこそ完全体なのに。


「ロディ、ちょっと待つんだ」


「ふにゃ!?(な、なによ空!?離して!

私は今食べるのに忙しいの!後でいくらでも抱いていいから!)」


か弱い力で抵抗し、短く可愛い前足を料理に伸ばすロディ。


「ダメだ離さない。飲ませてあげるから、味噌汁も飲むんだ」


「(いやよ!私今ご飯と鮭を食べるので忙し……っ!)」


嫌がるロディに、僕は味噌汁をスプーンで掬い優しく飲ませる。


「(……待って。ちょっとなによこれ。なにこの美味しくて優しい風味は!?ご飯に合いすぎじゃない?

これが情報にあった日本人の大半が好きっていう味噌汁だというの…?)」


絶句、といった表情で味噌汁を小さな舌でピチャピチャ飲むロディ。


「な?飲んで損はなかっただろ?

この3つの組み合わせが最強なのさ。

お漬物に関しては好みだからどっちでもいいよ」


「(ほ、ほんとに最強ね!!)」


可愛い子猫の状態で一心不乱に朝ごはんを食べ続けるロディを見て、僕は考える。


ロディが今言った"情報にあった"という言葉。

やはりとても無視できるものじゃない。


とにかく。今日は1日休みだし、朝ごはんを食べて腹ごしらえして詳しく聞かないとね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ニャ〜(ふぅ〜。お腹いっぱいね!

ねぇ空!私飽きるまで毎食あれがいい!

あ、でもお漬物ってやつは美味しくなかったからいらないわ!)」


「ああ、いいよ。毎食作ってやる。

ロディに栄養バランスなんてものは関係なさそうだしね。

…というかそんなことよりもだ」


僕は詳しく聞くためにロディを抱きかかえる。


「ニャ?(どうしたの?)」


「さっき言っていた情報収集ってのはなんだ?

どう考えても軽く聞き流せる言葉じゃない」


そう、軽く聞き流せる言葉じゃないんだ。


「(あ〜!それね!

えっと…ほんとに言葉通りよ?この地球という星に存在する情報、特に日本に関する情報を調べたわ!)」


…相変わらず言葉足らず過ぎるな。


「情報っていうのは…要するに人口とか文化、歴史とかそういうことか?」


「(そうそう、そういうことよ!

といっても、この情報収集は神力を結構使うから、今の私には断片的な情報しか得ることはできなかったけどね)」


なっ…!


「神力を使うだと!?だ、大丈夫なのか?

神力はほとんどなかったはずだろ?」


その辺りの匙加減は流石の僕も全く分からないけど…。


「大丈夫よ!昨日空の精神世界にいたおかげでほんの少しだけ回復したしね!

そのほんの少しだけ回復した神力を使ってでも日本の常識くらいは知っておきたかったの」


…なるほどな。


「…まあ大丈夫だと言うんなら僕からは何も言わないよ」


今自分がいる国の常識を断片的とはいえ知っておきたいと思うのは当然のことだしな。


「にしても神力を使うとはいえそんな能力まであるとはね。

その能力を使えばなぜ僕とロディが契約してしまったのかも分かったんじゃないのか?」


「それは無理ね!この能力はあくまでその星に元々ある情報を集めるってだけのものよ。

うーん…そうね、この星にはネット検索ってあるでしょ?それと一緒よ!」


「おお、なるほどね。ロディは何気に例えが上手いな」


ロディ…何かを説明する時に言う例えが何気に分かりやすいんだよな。

ただのポンコツだと思っていたけど、実はそこまでポンコツってわけでもないのか?


「(んへへ…でしょでしょ?)」


にゃ!と言いながら僕のお腹に顔を埋めてくるロディ。

…やばいな、こんな可愛い生き物と毎日触れ合っていたら心がもたない。


「(それにしても意外だったわね〜。

地球は魔法文明がなくなってると思ってたけど、この日本でも魔法に似た力を使う人間がまだ存在しているなんて)」


「…………え?なんだって?」


今、なんてことはない世間話を話すかのようにとんでもないことを言ったような気がする。


この僕としたことが、ロディを愛でるのに集中して聞き逃してしまった。


「(も、もう!空ってばどれだけ私を愛でるのに必死なの!?

だから、日本でも魔法に似た力を使う人間がまだ存在しているのね!ってテレパシーを送ったの!)」


そういう人間がまだいるなら先に言っておきなさいよね!と付け加えてくるロディ。


「いや待て待て待て!日本で魔法に似た力を使う人間がまだ存在するだと!?

そんなこと聞いたことも見たこともないぞ!

間違いなく一般的な情報じゃない!」


この神…!何がネット検索と一緒よ!だ!全く違うじゃないか!

そんな一般人では絶対に知り得ない情報を掴める能力がネット検索と一緒のはずがない!


少しでも見直した僕がバカだった…!やはりこの神ポンコツだ!


「(あ、あれ?もしかして普通は全く知らない情報だったりするのかしら?)」


恐る恐る、といった口調でテレパシーを飛ばしてくるロディ。


「間違いなくそうだ!全く…そんなとんでもないことをなんてことない口調で話しやがって…」


「(だ、だって!空は特別な人間だもの!

知らないことなんてないと思ったんだもん!)」


「僕が特別なのは間違いないが、そういうベクトルで特別なわけじゃない!

…はぁ、まあいいよ。その情報、詳しく教えてくれるか?」


単純に、そんな面白そうな情報興味がないわけがない。

まさかこの日本に魔法を使う人間がいるなんてな…!


「え、ええ!分かったわ!

神力を使って詳しく調べるからちょっと待ってよね!」


「ああ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…それが本当だとしたら、もうこれからの方針は決まりだね」


僕はロディから詳しく内容を聞き、笑みを溢す。

まあとにかく、まずはロディが話してくれた内容を説明しよう。



まず。

この地球には、僕たちが気づかないだけで、特に日本に集中して古来より"悪鬼"と呼ばれる鬼が蔓延っている。

悪鬼は人間の負の感情を糧とし、繁殖していくのだそうだ。


そして。

それとは逆に、その悪鬼を滅する者…"滅鬼士"と呼ばれる人間も存在し、一般人には絶対にバレないよう日々悪鬼達を滅ぼすために戦っている。

日本には、京都と東京にそれぞれ一校ずつ政府に秘匿された滅鬼士を育成する学校が存在し、そこの生徒は魔法に似た力を身につけるべく、特別なカリキュラムを受けているらしい。

魔法に似た力、と言っているが、その詳細は今のロディの神力では探れない何からしく、間違いなく他の星の魔法とはどこか少し違うそうだ。


さらに。

これが最も大事なことだが、その力は古来よりなぜか男は全く扱うことはできない。

つまりは、滅鬼士を育成する学校は女子校…滅鬼士は、女しかいないということだ。


基本的に12歳から20歳までの女が学校に通っており、卒業した女はプロの滅鬼士になるか、普通の一般人としての道を歩むかのどちらか。

もし普通の一般人としての道を歩むなら、悪鬼や滅鬼士に関する記憶は消されるらしい。


とまぁ、これがロディの話してくれただいたいの内容だ。


「(方針が決まったの!?)」


「ああ、僕が全く気づかない所でそんな戦いが行われていたことについても驚いたけど、その滅鬼士たち…まるで僕に犯されるためだけに存在する女達じゃないか」


そんな非日常なことを見つけられなかった過去の自分に腹が立つが、まあ仕方がない。

どうせ、漫画やアニメで見るような人払いの魔法や、一般人からは何も見えなくさせる魔法なんかをつかっているんだろうね。


「(ちょ、ちょっと待って!

空あなた、もしかして滅鬼士の女達と性行為していくつもり!?)」


…?何をそんなに驚いているんだロディは。


「そうだよ、ロディ。

少し考えれば滅鬼士の女達はセックスするのに最適だって分かるはずだ」


と、僕はロディに問いかけるように言ってみる。


「(え、さ、最適?

…………………うぅ。分かんないわよ空のバカ!

勿体ぶらないで教えなさいよ!)」


ははは、分かったら褒めてあげようと思ったけど無理だったか。


「全く、仕方ないねロディは。

いいか?僕はこれまでの人生、夢中になれる何かを探してあらゆることを試してきたっていう自負がある。

バスケ、サッカー、ピアノ、格闘技…本当に色んなことをやってきた。

そして、そんなあらゆることを試してきた僕が滅鬼士や悪鬼の存在に気づきもしなかった…これは逆に言えば、滅鬼士の女達を拉致監禁しようが、レイプしようが、絶対に表沙汰にはならないってことだ」


絶対に、だ。

夢中になれる何かを誰よりも夢中に探してきた僕が気付けないなら、一般人は誰も気付けない。

ニュースになっているところなんかも見たことがないし、表沙汰にならないのは"絶対"だ。


「(なるほど…!私分かったわ!

つまり滅鬼士の女達は日本の法律に守られてないからどれだけ手荒に扱ってもいいってことね!)」


「ああ、そういうことだよ。

ロディを助けるために女とヤりまくるという使命において、僕が最初に懸念したのは法に裁かれるという点だ。

僕がヤリたいと思った女全てがセックスに同意するというのはあり得ない。

何人かは無理矢理犯すという展開になるはずだと思っていた。

…しかし、滅鬼士の女達ならば、無理矢理犯しても絶対に表沙汰にならないから法に裁かれることも絶対にない、ってことだ」


僕がそう言いきると、ロディは小さな目を輝かせ、ニャ〜!と僕を見てくる。


「(ふふっ、さすがは空ね!天才だわ!

私はそんなこと思いつきもしなかったもの!

いい?神力を回復するための性行為をする上で最も大事なのは、契約者である空の欲求が満たされることよ。

相手の女の気持ちや欲求はどうでもいいの。

だから、空がヤりたいこと全部ヤりなさい?

性行為中に女を殺すことに快楽を感じるとかの性癖を持ってたとしても、遠慮なくヤっていいのよ?どうせオモチャなんだから!)」


にゃ!と何の躊躇いもなくそんなことを笑顔で言ってくるロディ。


………やっぱり、ロディは根本的に人間はどうでもいいと思っている…というか、嫌いみたいだな。

昨日初めて会った時も、僕を助けてくれた人間って認識をしてくれていたからかまだマシだったけど、僕の有能さを見せる前は名前すら呼んでくれなかった。


契約者になっていることは分かっていたはずなのに、だ。


ロディからすれば、僕すらも"私を助けてくれた人間"というフィルターを外せばどうでもいい人間だったんだろう。


まあ今は、ロディから信頼に近い感情を感じるけどね。


「分かったよロディ。

言われなくても僕は僕のヤりたいことをするつもりだ。

…ただ。滅鬼士なんていう怖い存在を拉致監禁やレイプするには、最も大きな問題が立ち塞がるんだよね」


僕がそう言うと、流石のロディもその問題は分かっているのか神妙な表情で頷く。


「…ええそうね。

空は特別な人間だけど、ずば抜けた戦闘技能があるわけじゃないわ。

対して滅鬼士は、悪鬼を滅ぼすための訓練を日々行っているから、今の空じゃ絶対に勝てない!

…どうするの、空?それについても何か策があるの?」


美人な顔立ちの猫顔を、少し不安気にして聞いてくるロディ。


「当たり前だ。

策がなければそもそも"最適"なんて言わない。

…まあその策も、自分の力じゃないから少しプライドが許せないけどね」


そう言い、僕はロディを見る。


今回のこの滅鬼士の情報といい、僕はロディに会ってからロディに頼りきりだ。

本当は僕だけの力で使命を成し遂げるつもりだったのに、いつの間にか頼ってしまっている。


今この瞬間においても自分のことは特別な人間だと思ってるけど、ロディという神からすれば、やっぱり僕もただの数多くいる人間の中の1人にしか過ぎないと思い知らされるな。


「プライド…あっ!もしかしてスキル付与でどうにかするってこと!?

確かに戦闘系のスキルならなんとかなりそうよね!」


そう、ロディの言う通り、スキル付与だ。


そして…ふむ、戦闘系のスキルか。

確かに悪くはない。悪くはないんだが…


「違うよロディ。

実を言うと、さっき朝ご飯を作っている時にどんなスキルにするかはほとんど決めていたんだ。

そしてそれは、"地球にも魔法が発動するシステムが存在する"とロディが教えてくれたから、僕が考えたスキルは必ず役に立つと確信した。

かなり強力なスキルだから、スキル内容の調整は絶対に必要だろうけどね」


「戦闘系じゃないけど強力なスキル…なに?なんなの!?」


そんなに気になるのか、にゃ!にゃ!と僕のお腹に猫パンチをしてくるロディ。

その可愛い姿に笑みを溢しつつも、僕は口を開く。


「僕が考えたあらゆることに対応できるスキル…それは、《完全模倣》だ!」

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