第5話 「完全模倣」
例えばスポーツにおいて、初めて始めるに当たって最初に何をすると効率良く上達するのか?と聞かれた時、僕は絶対にそのスポーツのプロのフォームを模倣することから始めると答える。
結局どのスポーツにおいてもプロのフォームというものは理にかなっており、力の使い方も最適化されるように出来上がっている。
そして今の時代、そんなプロの動画はネット上にごろごろ転がっている。
集中して見て完璧にフォームをインプットし、そのインプットしたフォームで1ヶ月ほど本気で練習すれば、全国レベルの技量に到達するのは簡単だろう。
そこから本気でプロを目指すとなると、模倣したフォームを自分の体に合うよう微調整しなければならないだろうが、結局は元が理にかなったフォームなのだから、その微調整は自分の体を深く理解していればすぐ終わる。
つまりは何が言いたいかというと…スポーツだけでなく何をするにしても、まずはその道のプロのフォームなりなんなりを完璧に模倣し、かつその模倣した通りに練習すればできないことはないというのが、僕が19年生きてきて定着した人生観だ。
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「(完全模倣…?)」
顔にハテナを浮かべ、僕を見つめてくるロディ。
「ああ、そうだよ。《完全模倣》はその名の通り、この目で見た全てのことを完全に模倣することできるというスキルだ」
元々人の仕草などを模倣することに圧倒的な自信がある僕だが、このスキルにすることにはただ単純に模倣するという以外にも大いなる意味がある。
「(ええ!?そんな強力なスキル、絶対に50ポイント以内に収まらないと思うわよ!?」
「そんなことは分かってるよ。
だからさっき、かなり強力なスキルだからスキル内容の調整は絶対に必要だと言ったんだ」
まだ試していないが、絶対50ポイントはオーバーしているだろう。
「(な、なるほど…でもどういう風に調整するの?)」
「それは…まあとりあえず、《完全模倣》が一体何ポイントなのか試してみようか」
僕はそう言った後、ロディに頼んで《完全模倣》が何ポイントなのか試してみる。
《完全模倣》
この目で見た全てのことを完全に模倣することができる
スキルポイント:75/50
へぇ…!!75/50か!
僕の予想は《未来予知》の少し下の90くらいだったから、予想よりは相当低い。
…ただまあ、予想よりは低いというだけで、75ポイントは十分に高い数字だ。
「(ふふん!25ポイントオーバーね!
ここから空がどう調整するのか見ものだわ!)」
ワクワクした様子で、僕の腕の中で興奮しているロディ。
「ワクワクしているところ悪いけど、スキル内容の調整自体は単純だよ。
今は"完全に模倣することができる"…つまり100%模倣することができるということだが、これを50ポイントになるまで1%ずつ下げていくだけだ」
例えば
《完全模倣(90%)》
この目で見た全てのことを全て10%減した状態で、完全に模倣することができる
とかにスキル名とスキル内容を変えるということだ。
僕にとって、100%完全に模倣できるかどうかなんてことはどうでもいい。
「(え…ほんとにそれだけなの?
もっと斬新で奇想天外な調整の仕方じゃなくて?)」
「ああ、そうだね」
「(ええ〜!空にしてはつまらないわね〜。
もっと凄いのを期待してたのにー)」
つまらなさそうに、にゃあーと言いながら僕のお腹に猫パンチをしてくるロディ。
この神…つまらないとは言ってくれるじゃないか。
「本当につまらないなんて思うのか?ロディ」
僕がそう言うと、ロディはピクッと反応して上目遣いで僕見つめてくる。
心なしか、その目は何かを期待している目だ。
「(ど、どーゆーことよ?
だってもうスキル内容を1%ずつ調整するだけなんでしょ?)」
…やっぱりロディは分かっていない。
「確かにスキルに関してはそうだが、僕が言いたいのはそれ以前の問題だ。
ロディは昨日僕の精神世界で、他の星では科学じゃなく魔法を使うことで生活を豊かにしていると言ったな?
それはつまり、地球にはなくとも、宇宙には魔法が発動するシステムが存在するということ…それが朝ごはんを作っている時に思ったことだ」
ふんふんと頷くロディ。
「その時点でスキルはほぼ決まっていたけど、ロディはさっきこの地球にも魔法に似た力を使う人間がいると言った。
それはつまり、さっきも言ったが地球にも魔法が発動するシステムが存在しているということになる。
僕が《完全模倣》が役立つと"確信した"と言ったのはそういう意味だ」
僕は次の言葉を大人しく待っているロディに説明を続けるために一呼吸置く。
「そして、僕はたとえ《完全模倣(1%)》になろうとも、絶対にこのスキルにするつもりだよ。
その理由は……なあロディ、漫画やアニメって分かるか?」
僕が結論まで話し切ると思っていたのか、急に質問すると驚いた様子でにゃ!?と言うロディ。
「(えっと…うん、もちろん分かるわ!
日本が世界に誇れる文化の一つだもの!
異世界転生?とかラブコメ?とかが流行ってるやつよね)」
「うん、それだよ。
そしてその中には、バトル漫画やバトルアニメってものがある。
それらの作品には瞬間移動の描写だって出てくるし、空を飛ぶ描写だってある。
他にもエロ漫画ってのもあってね、対象の感度を1000倍にする魔法とか、そういう馬鹿げた描写がある作品だって何個もあるんだ」
僕がそう言うと、相変わらず愛と美と性を司っているとは思えないほど照れた様子を見せるロディ。
「(な、なによそのイヤらしい漫画は…!
…って、待って?空あなた、まさか…!)」
照れた様子から一変し、何かに勘づいた様子のロディ。
流石のロディでも気付いたみたいだな。
「そのまさかだよロディ。
今の僕には魔法のシステムなんてものは絶対に分からないから、どう足掻いても魔法なんて使えない。
でも、1%でもいいから模倣して魔法のシステムに触れてみろ、魔法というものの理(ことわり)を理解することができるんだ!
1%の力だろうと1度魔法のシステムに触れさえすれば、魔法を昇華させられる自信が僕にはある…!
例え1%からでも100%に近づけることができる自信が…!」
そう、この《完全模倣(◯%)》は、僕だからこそ使いこなせるスキル。
50%だろうと40%だろうと30%だろうと20%だろうと10%だろうと1%だろうと、1度模倣さえしてしまえば、僕はどんなことであろうと100%に近い力を引き出せる自信がある。
「す、凄いわ空…!あなたやっぱり凄い!
漫画、アニメ…ふふっ、本当に目の付け所が素晴らしいわね!
スキル内容は"この目で見た全てのことを模倣することができる"だものね。
私が保証するけど、この制約のスキル内容の一文字一文字は絶対なの。
"全て"と決めた以上、本当に"全て"よ。
たとえそれが創作上のものでも変わりはないわ!」
感動したのか、目を輝かせて僕を見つめてくるロディ。
もはやその視線は、僕を信用しきったような目になってきている。
…まあ猫の小さな目だから気のせいかもしれないが。
「でも空、そのスキルは1つ問題があるわよ?」
「ん?問題?」
少しとはいえ《魔法理解》のようなスキルと迷ったのは事実だ。
しかしその上で《完全模倣》の方があらゆることに対応ができ、全くの隙のない完璧なスキルだと判断して決めたが、また僕が知らないような情報があるのか?
「確かに瞬間移動とか空を飛ぶとかは他の星で存在する魔法だから創作物からでも模倣できるでしょうけど、例えば星一つを崩壊させる魔法なんてものは存在しないから、創作物で星一つを崩壊させる描写があってもそれを模倣することはできないわ」
ああ…なるほどね。
「つまり、漫画やアニメで出てくる魔法や技術が相当に強力で模倣したいと思ったとしても、この宇宙全体に存在しない魔法や技術なら模倣することができないということだな?」
「うーん…正確には、人間が使える魔法や技術の範囲内で宇宙全体に存在しないなら模倣することができない、ね。
神にとって、星を崩壊させるなんて簡単なことだもの」
「…はは、そうだったね。
でもまあ、問題という問題ではないかな。
他の星のことを全く知らないから確実なことは言えないけど、ほとんどのことは模倣できそうだし、模倣できない魔法や技術が出てきたらそこは割り切るよ」
僕的に、対象の感度を1000倍にする魔法や、対象を自分自身のペニスや精液中毒にするような魔法は模倣できてほしいところだ。
女を犯す上で使えそうだしね。
「(そうね、未来予知なんかもどこかの星の人間が得意としていた気がするし、確かに模倣できない魔法や技術なんて一握りかも!)」
…さっきから、瞬間移動が存在するだの空を飛ぶ魔法も存在するだのと、地味にネタバレが多いな。
どんな魔法が模倣できないのかとかを研究するのも割と楽しみだってのに…。
「(ん?何よ空?言いたいことがあるなら言いなさい!)」
「いや…何でもないよ」
このポンコツは1度注意しても、今みたいになにかの拍子にポロッと言い出しそうだし言うだけ無駄だな。
「(そう?…うーん、でもちょっとおかしいわね)」
「ん?おかしいって何がだ?」
急にそんなことを言い出すロディ。
「未来予知は100/50って結果だったでしょ?
でもこの《完全模倣》のスキルは75/50なのに未来予知すらも使えるのよ?
この制約に間違いは絶対にないって分かってるからこそ、どう考えてもおかしいのよ」
ああ…そのことか。
「それもこの制約の面白いところだよロディ。
なぜこんな強力なスキルが未来予知よりも低い75/50なんていうスキルポイントなのか。
それは、"日本人の客観的意識で決められる"っていう点が関係してくる」
僕は説明を続ける。
「例えばこの《完全模倣》のスキル付与が魔法が使える星の住民の客観的認識で決められるなら、125/50とか、150/50とか未来予知すらも大幅に上回る結果になっていたと僕も思うよ。
でもここは地球で、かつ日本だ。
日本人が模倣できてやりそうなこととして考えられるのは、プロスポーツ選手を模倣してお金を稼いだり、歌手を完璧に模倣してそれをWeTubeに投稿して稼いだり、格闘技世界チャンピオンを模倣して莫大に稼いだり…とにかくお金を稼ぐことだけを考えると思うんだ。
僕はFXで稼げているけど、今の日本は給料は40年間横ばいのくせに物価だけは上がり続けて、お金に対して貪欲な人が増えたからね」
「さらに言うと、日本人は漫画やアニメを多く見るからこそ、それに比例するように現実には魔法のような力は絶対にないと何度も思い知らされる。
もちろん僕もそっち側だった。
日本人は絶対に異能的な力は使えないと頭で理解しているし、異能的な力に憧れを持つ人間が多いんだ。
だからまだ現実味のある《完全模倣》よりも、THE異能力かつお金すらも稼げそうな《未来予知》の方をより重要視する。
‥ここまで言えば、ロディも分かるね?」
コクコクコクとものすごいスピードで美人な子猫顔を上下に振るロディ。
「《完全模倣》は漫画やアニメと絡み合うと、本来宇宙に存在するほとんど全てを模倣することができるチートスキルなのに、日本人は地球や宇宙に異能力が存在することを知らないし絶対にないと思ってる…だから《完全模倣》の強力さは異能力の存在を知っている空にしか分からない…!
や、やっぱり空は天才ね!?
まさか最初からそこまで計算していたの!?」
「当たり前だ。
まあポイントに関しては正直90ポイントくらいだと予想していたから、予想以上に低かったことには驚いたけどね」
余程興奮したのか、にゃにゃにゃにゃにゃ!と5連猫パンチを浴びせてくるロディ。
「ははは…興奮しすぎだよロディ」
まあロディのような可愛い子猫が猫パンチをする姿は完全に僕得だけど。
「(こんなの興奮せずにはいられないわよ!
まさかこんなに頭のいい人間が存在するなんて…私、ちょっとだけ人間に対するイメージが変わったわ)」
本当に変わったのだろう。猫の姿とはいえ、何やら言い表し辛い表情をしている。
しかし…
「もう一度言うけど、僕は間違いなく特別な人間だ。
他の99%の人間はロディのイメージ通り頭の悪い馬鹿ばかりさ。
まあ極小数とはいえ僕くらいの天才もいるだろうけどね、僕は出会ったことはないけど」
世界は広い。
僕はまだ出会ったことはないが、僕と並べる程の天才も絶対いるはずだ。
…そう信じたいだけかもしれないけどな。
「空みたいな人間がそうそういてたまるもんですか!
私は人間の可能性も捨てたもんじゃないなと思っただけよ。
だって1000年に一度か10000年に一度かは分からないけど、空みたいな人間が生まれてくる可能性があるってことだもの」
人間の可能性、か。
「…そうだね、僕も人間の可能性自体は凄まじいものだと思うよ。
その点で言えば、女を犯していく上で人間の可能性ってやつも見れるかもね」
「(え?どうしてよ?
空が女と性行為するだけでしょ?)」
「そうだけど、相手は滅鬼士なんていう漫画でありそうなファンタジーな奴らだ。
そしてそんな漫画があったとしたら、僕は完全に漫画の悪役を演じるつもりでいる。
力及ばず僕に負けかけるが、限界を超えて力を合わせて僕を倒す…なんて展開があっても面白いじゃないか」
少年漫画でよくある、気持ちの力で限界を超えて敵を倒すなんていう描写がまさしく人間の可能性そのものだろう。
人は気持ちの力だけで立ち上がれる生き物だ。
「(ええ!?た、倒されるなんて展開冗談でも言わないでよ!空には私が創造神や上位神に復讐するまで付き合ってもらうんだからね!)」
そんな無茶なことを言ってくるロディ。
「おいおい人間の寿命を分かってるのか?
僕は生きれて…いや、女とセックスすることを考えると手伝えて50歳くらいが限界だよ。
つまりはあと約30年だ。
30年程度じゃロディの神力は元に戻らないだろ?」
1万年生きて赤子レベルなら、30年なんて神からすれば人間で言う1日の睡眠時間と同じくらいだろう。
だから、30年程度じゃロディの神力はもちろん戻らないはずだ。
「何言ってるのよ?
確かに30年程度じゃ絶対無理だけど、不老不死の魔法を自分にかければいいでしょ?
元々ある程度神力が溜まったら私が空を不老不死にするつもりだったけど…そういう魔法を使う種族もいたはずだから模倣できるはずだわ!」
…………。
色々言いたいことはある。あるが…。
「…つまりロディは、僕を不老不死にした上で一生自分のために働かせるつもりでいたということか?」
「い、言い方が悪いわよ!
だって空ってば、人生をかけてやってやるって言ってくれたじゃない!」
確かに言った。確かに言ったんだが…。
「僕が言った人生は寿命の範囲内でのことであって…いや、もういい。
分かったよロディ。
僕は何百年何千年かかっても、君を助ける。
地球がどんな風に変わっていくのかを見れるのも楽しそうだしね」
ロディのためなら何だってするとも言ったんだ。
今更発言を撤回するつもりはないし、不老不死になるのも悪くはなさそうだ。
「ふふっ、さすがは空ね!判断が早くて最高だわ!」
一瞬で決めたといえ、割と真剣に悩んだというのに…全く、能天気な女神様だな。
と、僕は自然に笑みを溢す。
「ロディ、自分で不老不死の魔法をかければいいと言ったが、やっぱりそれはロディの手で僕を不老不死にしてくれないか?
なんていうかこれはケジメみたいなもので…とにかく、感情論で言うのは申し訳ないけどロディにしてもらいたいんだ」
正直に言えば、神は人間を不老不死の体に変えることすらできるのかと内心驚いていたが、もういちいち反応しているとキリがない。
ロディができる能力については、そういうものもあるのだと割り切るのが大事だろう。
「うーん…そうね!確かに人間の魔法が完璧である確証はないし、私がした方が確実ね。
でも、人間を不老不死にするために使う神力は全盛期の私からすれば微々たる量だったけど、今のほとんど神力がない私からしたらその量が回復するまでそれなりの時間かかるでしょうから、ちょっと後になるわよ?」
「…それって大体どれくらい後だ?」
10年後とかなら、流石にそれまでに自分で不老不死の魔法をかける必要がある。
「そうね…まだ1回の性行為でどれくらいの神力が溜まるのか分からないからあくまで私の予想になるけど、多分1年後くらいになるかしら?」
「なんだ、1年後か。全然大丈夫だよ」
予想とはいえたった1年で溜まるのなら、本当に神からすれば微々たる量なんだろうな。
「…まあとにかく。結構話が逸れてしまったけど、スキル付与のスキルは《完全模倣》で決まりだ。
調整は…」
《完全模倣(50%》
この目で見た全てのことを全て50%減した状態で、完全に模倣することができる
50/50
パーセンテージを調整すると、ちょうど50%減に調整するとスキルポイントが50ちょうどになった。
スキルポイント5がちょうど10%と同じ価値って感じだな。
「50%…充分すぎるくらいだよ。
この力があれば僕は…!ロディ、決まりだ!
このスキルで僕にスキル付与してくれ!」
「(分かったわ空!
……よし、できたはずよ!」
「え、もうできたのか!?」
全く付与された感覚はないが…。
「私も初めて使うから勝手が分からないのよね。でも間違いなく付与はされてるはずだから安心して?」
…まあロディがそう言うなら付与されているのは確実なんだろう。
「まあそれは模倣してみればすぐ分かることだな。
さあ、ロディ。さっそく色々試してみるぞ!
今は10月10日だから、僕が仕事を辞めるまでの約20日は《完全模倣(50%)》の理解を深めることと、敵情調査に集中するよ。
僕が本格的に動き始めるのは、11月1日からだ!」
「にゃ!(了解よ!私はできるだけ空のサポートをするわ!)」
こうして、本当の人生が始まった僕と、神々に復讐を誓う捨てられ女神による復讐劇が始まった。
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