第2話 「女神との邂逅」
「…………なさい。……きなさい」
ん…?女の声がする…?
「起きなさい。人間、起きなさい!」
その妙に響く声に、僕はハッとなり目を開ける。
しかしそこはいつもの自分の部屋ではなく、真っ白い何もない空間だった。
「ここは一体…?それに今の声は…」
「人間、こっちよ。全く、私が呼んでるのに無視するなんていい度胸ね」
「…え?」
後ろを振り向くと、そこには白に近い輝くような銀髪を揺らし、ムスッとした表情で佇む人間離れしたスタイルを持つとんでもない美女がいた。
絶対に"退屈な日常"ではない光景に自然と心が踊るが、僕は冷静に分析を始める。
「…このタイミングでの接触。
そしてこの謎の真っ白な空間。
そして君の人間とは思えないオーラ。
あくまで状況推理だけど、君はあの白い子猫で、かつ神に近いような存在…違うかな?」
このタイミングというのは"子猫を拾ったタイミング"ということ。
そして、この僕が違和感を覚えるほど目を引いた子猫…捨てられていたとは思えないほど綺麗な毛並み。
これも、"神が自身を猫の姿に変えていた"というなら納得できる。
まぁ、ほとんど勘のようなものだが…。
「なっ…なんで分かったの!?
あなた何者!?もしかして神界の使い!?
私にとどめを刺そうってわけ!?」
急に距離を取り、ファイティングポーズを取る美女。
どうやら本当にあっていたらしい。
「いや…君自身が僕のことを人間って言ったじゃないか。
それとも、確信を持って人間って言ったわけじゃないのか?」
「そ、そういえばそうだったわね!
でも、そうよ!確信があるわけじゃないわ!
だってあなたの魂の輝き…人間ではありえないレベルだもの」
「魂の輝き…?」
ふむ、とてもふざけて言っているような雰囲気は感じない。
とすると、目の前の女は本当に魂の輝きらしきものを目で見れるわけか。
さすが神、と言ったところか。
「そうよ!あなたの世界に織田信長という男がいたでしょう?その男も人間にしてはすごい魂の輝きをしてたみたいだけど、あなたはその比じゃないわ」
「織田信長?へぇ、織田信長よりも僕の方が優秀ということか?それは嬉しいことを聞いたね」
織田信長。
日本では知らない人はいないんじゃないかというレベルで有名な戦国武将。
流石の僕も、かの織田信長よりも格が上と言われると嬉しくて仕方ない。
「…っていうか、何でそんな落ち着いてるのよ!神の目の前よ!?もっと動揺しなさい!」
「ええ…?」
とても神とは思えない論理の欠片も感じない言い分に、僕は少し引く。
というかこの神、どう見てもバカの典型だ。
最初は知的な美人だと思ったのに、喋ると残念美人になる。
「そんなことよりも早く説明してくれ。
ここはどこで、君はなんで猫の姿をしていたのか。そして、何のために僕に接触したのか」
まぁ、この神のポンコツ具合と、先ほどの"あんた何者!?もしかして神界の使い!?私にとどめを刺そうってわけ!?"という発言から、何となくの背景は読み取れる。
でもわからないことの方が多いのは事実だ。
ここは大人しく聞いておくのが得策だろう。
「そんなことよりって…本当に無礼な人間ね!
まぁいいわ!この私が直々に説明してあげる!」
「うん、頼むよ」
説明するためにこんな空間に呼んだんだろ…と思わないわけではないが、もうそういうポンコツな生き物と思えば可愛く思えてきた。
「まずここはあなたの精神世界のようなものよ。夢に入り込む形で今あなたと話しているわ」
なるほど、まあ漫画とかでありがちな感じだな。
「それから…って、そういえば自己紹介がまだだったわ!
よく聞きなさい!私は愛と美と性を司る女神・アフロディーテ!
そうね、アフロディーテは長いから…」
「…待て待て!!アフロディーテだって!?」
愛と美と性を司る女神・アフロディーテ。
戦女神としても有名で、最高の美神と言われる神じゃないか!
ほ、本当にこんな女が…?
確かに、容姿は間違いなく今まで見てきたどの女よりも美人だ。
しかし、ここまでポンコツなのはどう考えても解釈不一致なんだが…。
「あら知ってるの?ふーん、地球って過剰なまでに科学文明が発達してる珍しい星だから、魔法を使う他の星の人間たちより明らかに神を崇拝する人間の数が少ないって聞いてたけど…あなたは中々敬虔な人間のようね!
さすがはバグレベルの魂の輝きをしているだけのことはあるわ!」
…おいなんだこの神。
魔法?他の星の人間?
喋るごとに聞きたいことが増えるじゃないか。
………でも。
僕の心は間違いなく高揚していた。
父さんと母さんを怒らせた時とは比にならないくらいだ。
「魔法じゃなく、科学が発展している星は珍しいのか?」
僕は軽い気持ちかつ答えてくれるのはダメ元で聞いてみる。
「そうね。地球だけとは言わないけど、ここまで発展しているのは地球くらいよ。
他の星の人間たちはそのほとんどが魔法を使うことで生活を豊かにしているわ!」
…おいおい。まさか、他の星とはいえ本当に魔法なんてものが存在するとは。
いやそれ以前に、ダメ元で聞いたのは僕とはいえ、地球以外の星に人間が…つまり宇宙人が存在するということを本当に何の躊躇いもなく喋るなんて。
やはりこの神ポンコツなのか…?
それともこの情報はそれほど貴重なことではないということか?
しかし、神基準ではなんてことない情報なのかもしれないが、人間からすると間違いなく世界を揺るがしかねない情報だぞ。
「へぇ、そうなんだ…。
あ、ごめん。続きを話してよ」
正直言って聞きたいことはそれこそ星のようにある。
しかし、とりあえずアフロディーテの事情を全て把握してからの方が良さそうだ。
どうも訳ありっぽいしね。
「ええ。えっと、どこまで話したっけ…あ、そうそう!私、神界でちょっとやらかしてね。
それで猫の姿に変えられて下界に堕とされたのよ!
それでその…しょ、正直に言うわね。
あなたが介護してくれなきゃ間違いなく私は死んでた。
か、感謝してるわ!」
ふんっ!と照れ臭さを隠すようにそっぽを向くアフロディーテ。
僕の悪い癖なのかもしれないが、やはりアフロディーテが喋るごとに疑問点が増える。
"やらかした"とは何をやらかしたのか。
"猫の姿に変えられて下界に落とされた"のは分かったが、なぜ地球なのか。
"介護してくれなきゃ死んでた"と言うが、神が本当に死ぬのか。
さっき聞きたかった無関係な疑問とは違い、アフロディーテの事情を全て知る上で無関係じゃない疑問だ。
気になって進めない…と思い、僕は思い切って全部を聞いてみることにした。
「………なるほど」
アフロディーテが話してくれたことをまとめるとこうだ。
アフロディーテは1万年ほど生きているらしいが、神の世界では1万年などまだ赤ちゃんのようなものらしく、最近になって初めて1つの星の管轄を任されたらしい。
そして任されたのはいいが、任されて100年くらいが経ったある日、ついウトウトしてしまったアフロディーテは間違えて星を崩壊させるシステムを作動してしまったらしい。
なんともこのポンコツ神らしいミスだが、故意的ではないにしろ理由もなく人間を殺すのは神界において懲罰もので、星を崩壊させてしまうなんていう大量殺人を犯してしまったアフロディーテは創造神により最も重い罰を与えられたそうだ。
その罰こそ、"神力のほとんどを封印し、人間以外の何かしらの生き物に変え、最も神力が薄い星に堕とすこと"だったのだ。
まず"神力のほとんどを封印"の部分。
これは言葉通りで、本来神が持っている力=神力のほとんどを封印されたということだ。
次に"人間以外の何かしらの生き物に変え"の部分。
これは完全にランダムらしく、ダンゴムシや蚊、ミドリムシなどの単細胞生物にすらなる可能性があったらしい。
猫になったのが不幸中の幸いよぉ!とアフロディーテが泣きながら言っていたのが印象的だった。
そして、"最も神力が薄い星に堕とすこと"というのが、まさにこの地球が選ばれた理由だ。
科学の過剰な発展で神の存在が薄まりつつある地球。
宗教に入っている人口はまだ多いが、"本当に神を信じていなければ"神力は薄まるらしい。
…なるほど、納得だな。
僕はもちろん神の存在なんて信じていなかったし、日本においても宗教に入っているかは別として"本当に神を信じている人口"は相当少ないだろう。
世界的に見れば"本当に神を信じている人口"は結構増えるかもしれないが、それでも5割いるかいないかくらいだと僕は思う。
5割…総人口の半分という数字は少なくはないが、魔法を使う他の星では神を信じることで魔法が発現すると信じられている星がほとんどらしく、平均して9.8割…つまりほとんどの星の人間が神を本当に信じていることになるらしい。
また、地球と同じく科学が発展している他の星でも"本当に神を信じている人口"が8割を切る星はないともアフロディーテは言っていた。
そして…神は本当に死ぬのかという疑問。
これは、正確には神力を持つ神が死ぬことはない、ということらしい。
つまり、神力のほとんどを封印されているアフロディーテは死ぬということだ。
「最も重い罰…直接的に言ってないだけで、もう死刑のようなものじゃないか」
神力をほとんど封印し、人間以外の何かしらの生き物に姿を変え、最も神力が薄い星に堕とす…神の世界も、人間を殺した程度だというのに案外厳しいんだな。
「…そうね。それに、今気づいたことだけどあなた以外の人間に拾われていたとしても私は多分死んでいたわ」
「ん…?なんでだ?」
「さっきあなたの魂の輝きはバグレベルだって言ったでしょう。それは過剰表現なんかじゃないわ。
正直言って、あなたの魂の輝きは下級神に匹敵するレベルよ。
今あなたの精神世界にいるからか、あなたの魂に当てられてちょっとずつだけど神力が回復しているのを感じるもの」
「なんだと…?つまりあれか?拾った時、介抱するのが僕じゃなかったらアフロディーテはあのまま衰弱して死んでいたと…そう言いたいのか?」
「そ、そういうことよ。
丁寧に介抱してくれたのは、その…さっきも言ったけど本当に感謝してるのよ?」
再び、照れ臭さを隠すためにプイッとそっぽを向くアフロディーテ。
ははっ、ほんとに神とは思えないほど可愛いやつだ。
「まあ僕は生き物の中で人間を除けると唯一猫だけは好きだからね。もし君が猫以外の生き物になっていたら絶対に助けなかったよ」
「ええ!?ひ、ひどいわ!あなたそんな優しそうな顔して鬼畜なの!?」
少し引いた様子で僕を見るアフロディーテ。
「うーん…でも当然だろ?ダンゴムシを助ける人間なんていないし、蚊を助ける人間なんてもっといない。犬やハムスターとかならいるだろうけど…まあ僕が言いたいのはそういうことじゃないよ。
君は結果として猫の姿になって、僕は唯一好きな動物である猫になった君を助けた。
これは運命だと思わないか?アフロディーテ」
「う、運命?」
「そうさ。君の様子から察するに、まだ何か大事なことを言ってないだろう?」
僕がそう言うと、ピクッと反応するアフロディーテ。
心なしか、頬が赤くなっている気がする。
「…そうね、確かに言ってないことはあるわ。
……………………………のよ」
「え?」
「っ。だから…あなたが、お前は僕のものなんだからな?なんて言いながら私の体に口付けしたからあなたと私との間で契約が結ばれちゃったのよ!!」
「…………はい?」
予想とは違った言葉に僕は動揺する。
僕はてっきり、神力を取り戻すために力を貸してほしい!と言ってくると思ったんだが。
「いやいや、何を言ってるんだ?
僕がアフロディーテのエロい体に口付けした?
記憶を操作されていない限り、そんな記憶は僕にはない。
全くポンコツもいい加減に……っていや待て。
もしかして、昨日寝る前にした猫吸いのことを言ってるのか!?」
そのことならば、匂いを吸う時に確かに体に唇が触れていたし、お前はもう僕のものなんだからな?と言った記憶もある。
…うん、間違いなくやったな。
「そうよ!!なんなんよ猫吸いって!
あの時すでに意識がだいぶ回復していたし、私がどれだけ恥ずかしかったか分かる!?
体を吸われたのなんて初めてよ!」
へぇ、体を吸われるの初めてなのか。
愛と美と性を司る女神なんだから、色んな性癖を持つ男神とかとヤってそうなのに。
「まあまあ、しょうがないだろ?
あの時はまさか猫が君のような女神だとは思ってもみなかったんだ。
それに、猫吸いは日本人の猫好きの間では有名な愛情表現なんだよ」
「え…そうなの?
変わった種族ね、日本人って」
「そうかもしれないね。
…で、肝心の契約ってなんなんだ?」
もちろん聞き逃してなんかいなかった。
"契約"…言葉だけでは何とも言えないが、だいたいは想像できる。
「そ、そうだわ!
猫吸いなんかよりそっちの方が大事よ!
単刀直入に言うわ…理由は分からないけど、あなたの魂と私の魂との間で、絶対に解けない契約が結ばれてしまったのよ!
契約は本来、神同士でしか結べないはずなのに…!」
「…ほう。つまり今、僕とアフロディーテは繋がっているというわけか」
「い、いやらしい言い方しないで!」
赤面し、プイッとそっぽを向くアフロディーテ。
…こいつ、下ネタに弱いってどういうことなんだよ。本当に愛と美と性を司ってるのか?
「まあ冗談は置いておいて。
理由は分からないと言ったねアフロディーテ」
「…ええ、言ったわ。
不甲斐ないけど…何も分からないのよ」
「いや大丈夫だよ。理由は何となくわかる」
「えっ、うそ!な、何でなの?」
…やっぱり可愛いなアフロディーテ。
「君はさっき、僕の魂の輝きに当てられて神力が回復していると言ったよね。
それに、僕の魂の輝きは下級神に匹敵するレベルとも言った」
「え、ええ。全部私が言ったことね」
「君は本来下級神なんかよりももっと位が高い神だったんだろうけど、神力を封印されることで君の魂の輝きは一時的に下級神すらも下回るほど弱いものになった。
そして君は、不可抗力とはいえ下級神相当の魂の輝きを持つ僕に依存する形で神力の回復をしてしまった」
「さらに、君の"あなたが、お前は僕のものなんだからな?なんて言いながら私の体に口付けしたからあなたと私との間で契約が結ばれちゃったのよ!!"という言い分的に"契約"においては言葉による力と接触による力が大事なんだろ?
さあ、ここまで言えばポンコツの君でも分かるはずだ!」
本来、神同士でしか結べないはずの契約を結べてしまった理由。
それは…。
「うっ、ポンコツじゃないし!
えっと、その…と、特別にあなた口から説明させてあげるわ!」
ま、まだ分からないのか!?
よくポンコツを否定できるな、こいつ…。
「…はぁ。つまり、契約において大事な"言葉による力"と"接触による力"を僕たちは無意識的にクリアし、さらに君の魂の輝きが一時的に下級神すらも下回るほど弱まり、それを人間でありながら下級神相当の魂の輝きを持つ僕に依存して神力の回復をしてしまったから、僕たちの魂が複雑に絡み合い、本来神同士でしか結べない契約が結ばれてしまったんだ。流石に分かっただろ?」
僕がそう言うと、アフロディーテはポカンとした顔を浮かべる。
な、なんだ?分かったのか分かってないのかどっちの顔なんだそれは?
「……す、すごいわ空。あなた凄すぎよ」
おっ、初めて名前で呼んだな。
さっきまでずっと"あなた"だったのに。
「私は"契約"において"言葉による力"と"接触による力"が大事なんて一言も言ってないのにそれを見事に言い当ててみせて…しかも、神である私にも分からないことをそんな早く推理してみせるなんて…!空、あなた本当に何者!?」
君より賢い人間は結構いそうだけどね、という言葉は飲み込む。
「まあ僕は日本一賢いという揺るぎない自信があるからね。これくらいの推理は当たり前だよ」
僕がそう言うと、アフロディーテは思い切り僕を抱きしめてくる。
「な、なんだよアフロディーテ?
ってかちゃんと感触あるんだな。
おっぱい柔らかすぎだろ…」
流石は最高の美神。
近くで顔を見ると、その美しさに惚れ惚れするほどだ。
「空…私にはもうあなたしかいない!
お願い空!私を助けて!」
「っ!」
ついに来た!
そうだ…そういうのを待っていたんだアフロディーテ。
「助けてっていうと…具体的にどういう意味だ?」
しかし落ち着くんだ僕。
このポンコツ神はさっきから主語が抜けていることが多い。
まずは私を助けて!とは何においてアフロディーテを助けるのか。
そして助けるとして、どう助けるのか。
それをはっきりさせておかなければならない。
「…私、復讐したいの」
抱きしめ合ったまま、耳元でそう囁くアフロディーテ。
「復讐…?」
おいおい、また予想とは大きく違うな。
さっきも言ったが、僕はてっきりアフロディーテはただ神力を取り戻したいだけだと思っていたのに。
でも、流石はアフロディーテだ。
予想通りじゃ面白くないからな。
「うん、復讐。
もうこの際私がポンコツだというのは認めるわ!」
「認めるのかよ!」
「でも、私は故意的に殺したわけじゃないのよ!
それにその星の人間たち、私に任されてからの100年間ずっっっっと戦争を繰り返してたし、そんな醜い人間たちに生きる価値なんてあったの?
なんでそんな人間たちを殺しただけで私が死ぬかもしれないような酷い目に遭わなくちゃならないのよ!
というか、空がいなかったら本当に死んでいたわ!
…だから、復讐したいの。
私をこんな目に合わせた創造神も、私のミスをクスクスって笑ってきた上位神たちも絶対に許さない!」
「…」
間違いなく悪よりの考え。
もしかしたらアフロディーテは悪神なのかもしれない。
…でも。
間違いなく僕好みの考え方だ。
不必要な人間を殺すことは僕も賛成だし、不必要な人間が多いというのも同感する。
「それは本気なんだな?アフロディーテ。
心の底から復讐したいと思っているんだな?」
途中でやっぱやめた!なんてことになったら興醒めもいいところだ。
本当に復讐をやり遂げる"覚悟"はあるのか。
それを確かめなければならない。
「うん、本気。
私は本気であいつらに復讐したい」
抱きしめ合っているからか、ヒシヒシと"覚悟"が伝わってくる。
この"覚悟"は間違いなく本気だ。
僕がいなければ死んでいたという事実がアフロディーテにとってよっぽど堪えたらしい。
「そのためにも空…私の神力を取り戻す手伝いをして。契約者のあなたしか頼めないの…お願い」
ついに来た。
僕が望んでいた展開。
アフロディーテの動機は完全に予想外だったが、ずっとこう言ってくるのを待っていた。
「いいよ、アフロディーテ。
僕もずっと人生に退屈してたんだ。
神が神に復讐するための手助けをできるなんて…本当に光栄だよ。
人生をかけてやってやる」
「空…!」
より力強く抱きしめてくるアフロディーテ。
「それでアフロディーテ。
僕は何をすればいい?
アフロディーテのためだったら何だってするよ」
それこそ犯罪でも何でもやる。
僕のやることなすことが全て神が神に復讐するための礎となると考えたら、どんな行為も面白くて仕方ない。
「…………………よ」
「ん?ごめん、何だって?」
すぐ間近で言っているはずなのに聞こえなかった。
「…せ、性行為よ!あなたは男だから、色んな女とひたすら性行為しなさい!」
「…………はい?」
性行為。つまりはセックス。
こ、これはまた予想外だが…。
「えっと…アフロディーテ。
一応理由を聞いてもいいかな?」
「か、簡単な話よ!
私は愛と美と性を司る女神でしょ?
だから、えっと…上位神だった時の私ならただの人間たち同士の性行為で生じるエネルギーでも微量とはいえ神力に変換できてたんだけど、今の弱った私じゃ、契約者である空が性行為をすることで生じるエネルギーしか神力に変換することができないの!」
「…その言い方的に、僕がセックスをしても変換できる神力は微量なんじゃないか?」
「それは違うわ!下級神並みの魂の輝きを持っていて、なおかつ契約者である空が性行為をして生じたエネルギーは、ただの人間同士の性行為で生じるエネルギーとは質も量も全く別物だもの」
「おお…なるほどね。すごく納得したよ」
アフロディーテにしては説明が上手だった。
それにしてもセックス、か。
「セックスは気持ちいいから好きだし、僕も男な以上、色んな女とヤレるのは楽しみだ。
今まで退屈な世界を塗り替えるほどの行為じゃなかったら重要視してなかったけど、アフロディーテを助けるためにセックスをするとなると、1番最高の行為なんじゃないかな」
脳がエロモードに代わり、アフロディーテのエロすぎる体を直で感じている僕は夢の中だというのにフル勃起状態になる。
「………経験人数25人。
ふ〜ん。空って結構経験豊富なのね」
急にジッと見つめてきたかと思えば、そんなことを言ってくるアフロディーテ。
…経験人数まで分かるのか。
便利な目だな。
「まあ、こう見えても僕は結構モテるんだよ」
退屈な世界の中でセックスは唯一マシな行為だったから、割と積極的にしてはいたな。
「…うん、空はモテそうよね。
神目線から見ても顔はイケメンだし、それに何よりすごい賢いし!」
「何だよ、なんか恥ずかしいな。
そんなに褒めなくてもちゃんとやるから安心してよ」
「い、今のはそういうのじゃなくて本音よ!?」
お互い顔を見合わせ、プッと笑い合う。
「空、もう一度言うわね?
お願い…私を助けて?」
「…分かったよアフロディーテ。やっぱり君と出会ったのは運命だったみたいだ」
こうして、僕の本当の人生は今この瞬間に始まった。
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