捨てられ女神の契約者〜ある日猫を拾ったら、愛と美と性を司る女神だった。どうやら女神を助けるには女と性行為しまくるしかないらしい〜

夜空テラス

プロローグ

第1話 「退屈な世界」

毎日毎日同じことの繰り返し…この世界は本当に退屈だ。


高校3年生の冬。

大学入試を控える時期。

僕の通っている高校はそれなりの進学校だというのに、周りの人間はソワソワし、入試に向けて勉強にラストスパートをかけている奴らばかり。


…低レベル。

そんな一言で表す他ない。

大学入試の勉強なんて普通は夏休みには終わっているもの。

夏休みでも遅いくらいのはずなのに。


授業だって何回同じことを言うつもりだ…?

本当につまらない。

何か…何か刺激が欲しい。この色褪せた世界を塗り替えるような何かが。

僕を楽しませてくれるような"何か"が。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー





大学入試が終わり、結果発表の日。

僕は2階にある自分の部屋でスマホを見る。


「東郷大学法学部合格、か。別になりたい職業なんてないし学部は適当に選んだけど本当にこのままでいいのか、僕は」


大学に行ってもどうせ大して刺激なんて感じれない。

そんな退屈が確定した道にこのまま行っていいのか…?と自問自答する。


「まあいいや。とりあえず父さんと母さんに報告しないと」


僕は、1階にあるリビングへと行く。


「父さん、母さん。東郷大学受かってたよ」


リビングで紅茶を飲んでいた2人がこっちを向く。


「そうか、まあお前ならば当然だろう」


「空、受かったからといってそれがゴールじゃありませんよ?

大学で、より勉学に励みなさい」


「…分かってるよ、母さん」


この厳しい2人が僕の親だ。

日本一賢い東郷大学に受かった程度じゃ喜ばないことは分かっていたし、僕も別に喜んでほしくて報告したわけではない。


ただ報告はしないとうるさいからしただけ。


「空。今度、祝いの場を用意しよう」


…え、祝いの場!?

もしかして喜んでいるのか?あの父さんが?

…いや、ありえない。何か理由があるはず。


「父さん、祝ってくれるなんて珍しいね。

滅多にないから嬉しいよ」


それとなく理由を聞き出す。


「…そうだな、大学というものは人生においての最も大きな分岐点になる。

お前は一人暮らしをすることになるだろうし、その餞別も兼ねていると思え」


あー…なるほどそういうことか。

父さんは昔からいい大学に行くことを最も大事にしてたからね。

息子を日本一の大学に入学させるっていう"自分の夢"を叶えることができて、流石の父さんも嬉しいのかもしれないな。


「そっか。僕もついに一人暮らしをするんだね。楽しみだよ」


結局父さんは僕のことなんて考えちゃいないんだ。

ただ自分の理想や期待を僕に押し付けているだけ。


「楽しみなのは結構だが…大学は遊びに行く場所ではないんだぞ?勉学に励み、より良い教養をつける場所だ。浮足立たないようにしなさい。お前の才能には本当に期待しているぞ、空」


「…うん」


…なんだよそれ。

大学は遊びに行く場所じゃない?

より良い教養をつける場所?


バカだ、父さんは。

もう高校で確信した。

これ以上凡人達から学ぶことなんて何一つないと。


「とりあえず1週間後に祝賀会の予約をする。

親戚も呼ぶから、お前もそれなりの格好を準備しておきなさい」


「はーい」


…なんかもうどうでもよくなってきたな。

親の期待に応え続けるのも、どれだけ願っても変わらない退屈な世界も。

優等生を演じる自分にも飽きた。

期待するのは勝手だが、いちいちこんな親に色々と言われるのも疲れた。


もし…もし僕が合格を蹴れば父さんと母さんはどう思うかな?


まぁ、絶対に怒るだろう。

厳しい父さんと母さんのことだ、家族の縁を切ることだって大いにあり得る。


いやでも…今まで1回も怒られたことないんだ。

本当に怒るのか?


正直に言えば試してみたくなった。

親が本当に怒るのか見てみたくなったんだ。

…やってやる。祝賀会が終わったらやってやるぞ!





ーーーーーーーーーーーーーーーーー





「なっ…!何を考えているんだ空!?

せっかく東郷大学に合格したというのにそれを蹴っただと!?お前にはあれほど期待していたというのに…どういうことだ!空!」


あれから1週間。

昨日パーティーを終えた僕は、家に帰宅した後すぐにお風呂に入り早い時間に入眠した。


そして朝早くに起き、1週間前に考えていた計画を実行した。


「どういうことって…そのままの意味だけど」


「そ、そのままの意味だと!?空、お前大学はどうする?滑り止めは受けていないだろう?東郷大学一本だったはずだ。

それとも違う大学に行きたくなったのか?今からならまだ後期入試が間に合う、それを受験したいのか?」


確かに今はまだ2月の下旬。

後期試験が残っているし、まだまだ全然間に合う時期だ。

…でも、そんなことはどうでもいい。


「そんな受験受けるつもりはないよ。東郷大学でさえ低レベルなのに、それ以上に低レベルな大学なんて試験料の無駄さ」


「っ!で、ではどうするつもりだ!?

"大学は必ず卒業する"というのが神木家の家訓だ!まさか、就職でもする気か!?」


「さぁ?就職もどうだろうね」


「……っ!」


「空、あなた…」


絶句した父さんの代わりに、黙り込んでいた母さんが言葉を発する。


「空!!一体何なんだその舐めた態度は!?

それが親に対する態度か!?

大学にも行かず、就職もしないだと!?

ニートにでもなるつもりか!!」

 

「あ〜ニートか。ニートって面白いのかな?

人生経験として試してみるのはアリだよね」


僕は、ひたすらふざけた態度を取る。


「い、一体何を言って…いや、お前は誰なんだ…?

空がそんなことを言うはずがない!

誰かに操られているのか!?」


あちゃあ〜。そういう思考になるんだな。

自分の親とはいえ、つくづく無能な勘違いだ。

子供の本性を少しも見抜けていなかったなんて…少しは信じてたけど、やっぱり自分たちの期待を僕に押し付けていただけだったってことか。


「僕は僕だよ父さん。

間違いなく神木空本人だ。

全て僕の意思で喋ってる」


無能な勘違いで父さんも母さんも少し落ち着いてしまった。

何としてでも怒った所を見たいんだ僕は。


「こ、こんなのうちの子じゃない…!

空は真面目で思いやりのある子なのよ!?

冗談でもこんなことを言う子じゃ…」


「だからさ、母さん。この期に及んで冗談なわけないでしょ?何で分かってくれないかな?

僕は大学にも行きたくないし就職もしたくないんだ。何回も言わせないでよ」


その言葉が最後のトリガーになったのか、父さんは目に見えて分かるほど激昂した。


「…っもういい!!!喋るな!!

この、無能が!!荷物をまとめて出て行け!!

お前はもううちの子じゃない!!2度と帰ってくるな!!」


「っ!」


あの厳しいだけで怒りはしなかった父さんがブチギレてる…!

あの厳しいだけで普段は優しい母さんだって、とてつもなく冷めた目で僕を見ている!


は、はは、はははっ!

なんて…なんて面白いんだ。

こんな面白い光景を見れるのなら、家族の縁なんて何回でも切れるな。


「…分かったよ。今までお世話になりました。父さん、母さん」


当然こうなる可能性もあると思っていた僕は荷物の準備はできている。


そうして僕は、18年過ごした我が家と永遠の別れを告げたのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




親に家族の縁を切られ1週間。

僕はとりあえず、格安のビジネスホテルに寝泊まりしていた。

でも格安と言ってもそこは日本。

部屋は綺麗だし、不便なことはない。


にしても、貯金残高は60万ちょっとか…1人で生きていくにはあまりにも心許ないな。

18になった瞬間にFXの口座開設をして多少は増やしてこれだしね。


そう、僕は7月7日の誕生日に海外のFX会社に口座開設をし、30万程しかなかった貯金を使いLotとレバレッジを調整して今日までコツコツと増やしてきた。

学生は1月〜12月の内に38万以上稼ぐと確定申告をしなきゃいけなくなるから去年はこのくらいの稼ぎで抑えたというのもあるけど、元手30万じゃ結局のところ稼げる金に限界があった。


FXは、元手に対してのLotをしっかりと決めないと痛い目を見る。

天才の僕でさえもそれは守らないと痛い目を見るだろう。


だから、元手は最低でも1000万円は欲しいところだ。

今の60万からでも1000万円稼ぐことはできなくはないけど…どうしても時間がかかるし、何より1人でFXをするだけじゃ暇だ。

そのためにも…とりあえずまぁ、一旦1年くらいは働こうかな。


その後に暇つぶしで起業とかするのもアリだ。


よし!そうと決まれば。

と、僕は財布から免許証を取り出す。


「まさか暇つぶしに取った大型トラックの免許証が役に立つ時が来るとは。

どうせ1年だ、免許を取る時に運転は好きだって感じたし運送会社に就職するか」


無難と言えば無難だろう。

荷物さえ届ければ結構自由がきく仕事だ。

できれば…僕が夢中になれるような"何か"が見つかってくれると嬉しいんだけどね。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




僕は東京から離れ、群馬県の名前も知らないような田舎に荷物を運送し、今はその帰り道を運転していた。


「もう10月か…。

僕的には冬が好きだから涼しくなるのはいいけど、結局この半年何も面白いことがなかったな。

色々な場所に行くから非日常的な何かを体験できると思ったのに…まさか、ここまでつまらない仕事とはね。

本業の収入とFXの副収入で貯金残高はもう300万超えたし…辞めようかな」


3月にあった卒業式も終わり無事高校を卒業した僕は、あの後すぐ内定を取りに行った「立花運送」という中小企業に就職し、無意味な半年間を過ごしていた。


「よし決めた、もう今月いっぱいでやめよう。

そしてFXでもうちょっとお金を稼いで起業をするんだ!

起業して自分の会社を持てば少しは楽しくなるはず…そう、楽しくなるはずなんだ」


しかし、半年前から起業しよう起業しようとずっと思っているが、何回思っても、どうしても心の底から楽しんでいる自分は想像できない。


「……………本当に起業したいと思っているのかな、僕は。

起業をしたところで、この満たされない気持ちを満たすことなんてできるのか?」


…くそっ!もう自分で自分がわからない!!

どうすればこの心の渇きを埋められる!?

どうすればこの退屈な世界を塗り替えることができるんだ!?


最近、日に日に僕の心はより刺激を求めるようになってきていた。


「は、ははは…そうだ、もう半年も経ったけど、父さんと母さんを怒らせた時は本当に心から楽しかった。

いっそ、どれだけ完璧に犯罪を犯せるか。なんていうゲームをするのはどうだ?

警察なんて無能の集まりだ、僕なら絶対にできる。それこそなんだって…!」


とそこまで言った後、僕はハッとする。


「…いやいや、何を言ってるんだ僕は。

最近本格的にまずいかもしれないな。

もしバレたら数年、あるいは数十年刑務所で過ごすことになるんだぞ。

そうなってしまえばもう死んだ方がマシだ。

はぁ…もし絶対にバレないような方法があれば犯罪でも何でもやるんだけどな。

それが楽しければ、だけど」


そんな独り言を言いつつ、僕はひたすら東京に帰るために運転を続ける。


「にしてもマジで田舎だな。車通りが一切ないとこなんて初めてだ」


ほんとに道合ってるのか?とカーナビを何回も見てしまうほど車通りが一切なく不安になる。


「って、うん?あれは…」


その時、ふと対向車線側の山沿いに白い何かが落ちているのが目に入る。

いつもなら気にも留めないが、なぜかその白い何かはイヤに僕の目を引いた。


僕はトラックの速度を落とし、何が落ちているのか確認する。


「って、あれ猫じゃないか!?

死んでるのか…?いや、倒れているだけかもしれない!とにかく見に行ってみよう!」


昔から猫は可愛くて好きで、よく動画で可愛い集みたいなのを見るくらいだ。

まだ助けられる命かもしれない以上、見捨てるわけにはいかない。


僕はトラックを道端に止め、トラックから降りて走って白い猫の元に駆け寄る。


「っ!今微かに動いたよな!?」


駆け寄る途中、猫が微かに動いたのを感じ取った僕。


そして駆け寄ったのと同時に、白い猫は「ニャー」と死んでしまいそうなか細い声で鳴き、僕に助けを求めているように感じた。


「まだ生きてる…!まだ助けられるんだ!

と、とにかく!ごめんね猫ちゃん、ちょっとの間我慢してね」


僕はかすかに息をしている子猫を優しく抱き拾い、トラックに乗り込む。


「…一旦、冷静になるんだ僕。

まだ秋とはいえ、山奥だからか気温が低く、体が冷えてしまってる可能性がある。

まずは上着で冷えた体を暖めてあげるんだ。

そして次は、脱水している可能性を考えて水を…って、何で僕はコーヒーなんか買ってるんだ!

まずいぞ!近くにコンビニとかスーパーは…ない!?1番近いところで30分先のスーパーかよ!

くそ、あれこれ言ってらんないな。

とにかく急ぐんだ」


生き延びてくれ、絶対に。と思いながら、僕は事故らない程度のスピードでトラックを飛ばした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれから40分後。

水、チュール、水を飲ませやすいようにするためのストロー。

僕は思いつく限りの物を買い、精一杯介護した後、今は子猫をトラックの助手席に優しく寝かせていた。


「心なしか呼吸が安定してきた気がする。

やっぱり水を飲ませたのが大きかったのか?

チュールはまだ食べさせられてないけど、見た感じ死ぬことはなさそうだ」


ふぅ、と安堵のため息をつく僕。


「というか、この子猫捨てられていたと思えないほど綺麗な毛並みしてるな。

こんな綺麗な毛並みの猫見たことない。

顔だってすごい美人さんだし…何だってこんな愛されて育てられたような猫があんな山奥に?」


今思えば少し変だ。

違和感を覚えるほど目が引かれ、僕は結果的に猫を救っている。

まるで、猫自身がそう仕向けたかのようにーー


「って、ははは。流石にありえないか、そんな非日常的なこと。

でも…間違いなく"退屈"を感じなかったな。

それこそ、こんなに必死になったのは生まれて初めてだったかもしれない」


まさかそんな初めてを猫に奪われるとはね…と苦笑しながら僕は優しく猫の頭を撫でる。


多分無意識だが、「ニャア」と甘い声で鳴き、僕の手に頭をスリスリとしてくる猫。


「くぅ…かわいいなぁ!!

なんで猫ってこんなにかわいいんだろう?

…決めた、この子猫は絶対僕が飼おう。

どうせ山奥に捨てられてたんだ。もうこの猫は僕のものだ」


今は都内の1LDKのマンションに住んでるが、確かペットも可だったはず。


仕事を辞めてしばらくはFXをしながら猫との共同生活…うん、悪くないね。

大学なんかに行くよりもよっぽど有意義だ。


「って、もう19時か。

容態は安定したきたっぽいしそろそろ帰ろう。

辞表は…明日は日曜日で休みだし、明後日でいいか。

猫用のトイレとかも買っておかないとな〜」


そうして、トラックを走らせる僕。

気持ち安全運転をしていたのと、途中猫用のトイレを買うためにドラッグストアに寄ったから、家に着く頃にはもう22時くらいになっていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ただいま〜っと。

今日は心なしかちょっと疲れたな。

猫はまだスヤスヤ寝てるし…僕も適当にパスタ作ってシャワーだけして寝るか」


パスタを茹で、市販で買った味付けのミートソースを和え、食べる。

そして15分ほどでシャワーを終えて、猫用のトイレと一応猫が起きたとき用のために皿にチュールを出しておいて、僕はベッドに寝転がる。


もちろん、猫は僕の枕の横に寝かせた。


「すぅ〜〜ふぅ。

猫吸いって一度やってみたかったけど、確かにこれはやめられないな。

なんだかいい匂いがするし、この猫毛並みがめちゃくちゃ綺麗だから肌触りも最高だ。

お前はもう僕のものなんだからな?逃げちゃダメだぞ」


猫を撫でながら目を瞑ると、今日の疲れからか一気に眠くなる。


「名前は明日考えてやる……から…な…」


そうして、僕は睡眠に入った。

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