第4話 チュートリアル続々
「...は?」
急に謎の専門用語がお出さしされ、大斗の脳はフリーズ。別次元...圧縮...不可避的...小難しい言葉の数々は魔法というより科学的。何一つ理解は出来ないが少しだけカッコ良いな、なんて彼の役立たずの脳は判断した。
「...かっこいいね?」
「大丈夫かお前よ」
「…あぁーーーー説明しろ」
「さて、ソレを説明するには今の世界の状況を理解する必要が—」
「いい!いい!原理とかどうでも良いからどんな事が起こった?!簡潔に!」
「……ふーん」
犬は考えるような唸り声を出して少しの間無言になる。それから3度同じような声を上げて言う。
「どんな奴も一人につき一つの【存在】ってものがあってな、それが傷つくと肉体も傷つく。これは絶対。世界の普遍的な原理だ。水が流れ落ちるような、当たり前のな。そんで、存在攻撃はそれを利用して肉体を傷つける攻撃のことだ」
「……聞いたこともねぇ。ほんとか?無茶苦茶疑わしいぞ?」
「でもお前は今体験したでしょうよ。自分が削られていく感覚…わかるだろ?」
彼は顎に手を当てて、眉を顰めながら鮮明な記憶を辿る。そしてそうか、と頭を掻き苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「あぁクソッ...」
「それが存在が攻撃されている証拠だ」
「じゃあ...魔法だったら跳ね返せるんじゃねぇのか」
「魔法じゃないぜ。存在攻撃は
「なにそれ。ずる」
と草っぱの上へと仰向けに脱力しながら倒れる。酷く不機嫌な表情を天へとこれでもかと見せつけた。
それから草の上で思いのまま手足を勢いよくばたつかせる。チッと悪態をつきながら歯を食いしばり大地に何度も何度も拳を叩きつける。その様子はまるで駄々をこねる子供であった。
「まぁすまないとは思ってる。出来れば羅刻も無効に出来たらよかったんだが、、、そう、上がバカでね。それになんとうか...そもそも無効に出来ないっていうか...」
犬はバツが悪そうに言葉を切る。
「なんだ?」
「羅刻は、我らが普段行使してる程高位の術でな、完全対策は不可能だ。お前に関しては使用はおろか、認知する事も難しいだろうよ」
「はぁ???」
大斗に衝撃走る。それは嘘のような告白であった。あの攻撃には天使でさえ手こずるようだ。仮にも上位存在であるはずの天使とやらがだ。
その事実に彼は口を開けポカンとする。そして、頭は混乱を極めることとなった。犬が嘘を言っていたらまだマシだが、もし嘘でなかった場合、彼が戦った物はつまり。。。
「嘘でしょ?嘘だと言えよ?なんで出来ないの?俺はともかくお前らが」
「いやもうマジ無理なんだわ。今の機能神秘学の限界よ」
「いや無理じゃねぇよってか、そんなラコク?だかなんだか使う魔物に初っ端出会ったのか?俺。危険地帯じゃねぇかよ!説明では一番平和っつってたろ!」
「うん、平和だよ」
「あら、そう!(半ギレ)」
彼の感情はもはや呆れを通り越してキレるの領域へと進んだ。それを煽るように空が分厚い雲で覆い尽くされる。
「さてじゃあ、今からお前に残酷な事実を告げるとしよう」
「やだっ」
彼は耳に強く手を当て、地面にうつ伏せになってみた。そうして聞こえる言葉をシャットアウトしようと試みる。
「この世界のほとんどの魔物と人間、強さ的には下っ端天使を軽く上回る。なんなら我を超えてるやついる」
「そう...」
だが言葉は脳に直接入力され、体に土汚れがこびり付くのみであった。彼にとってさらに最悪なのが入力された情報。
どうやらこの世界の魔物、人間は恐ろしく強いらしい。天使といういかにも莫大な力を持ってそうな者に近しいか、それより上。
その天使の中で上から三番目に強いという犬より強い奴もいるとのこと。
「どうすんだよ。俺勝てないだろ」
「そこでだ。さっき三つの未知のスキルがあっただろう?あれを活用して欲しい」
「あーあれか。あれが、鍵なのか」
「そうだ。お前の持ってるスキルの中で一番強い。なんせ我が特別に作ったのだから!」
犬は自慢げに宣言する。大斗からは疑いと嫌悪の籠ったため息が漏れ出た。
「……まぁそれはおいといてさ...」
「言いたいことは分かる。なんでこんなとこに連れてきた?情報言うの遅すぎね?帰らせろ!ってとこだろ?」
「……」
無言の肯定。
「連れてきた理由は前に言った通り魔王退治だ。この世界の魔王ってやつはほんとイかれててな、そろそろ我らの世界、つまり天界に来そうなんだわ。
何とかしたいが...そのためには地上に本体を出すしかないが禁則でな。ならばと、強化しまくった人間を派遣しようってことになったんだよ」
「なんで派遣する必要があるよ、来たら撃退すりゃいいじゃん。天界はお前らのホームなんだから有利なはずだ」
「ムリ、天界に来られるまで成長した魔王を止められるものはいないだろうからな。
そんで次に情報言うのが遅かった点だが、それについてはごめん。今までの事言ったらきっと行きたくなくなるだろ?お前に断られると規則によって転生させられなくなるんだ」
「でも嘘つくのは良くないだろうが」
「嘘はついてねぇ。天使は嘘をつけないタチだからな。ただ情報を切り取って伝えただけだ」
「カスが」
情報を切り取って有利なように伝えるとはまるで詐欺師。人智を逸した存在であるのにやることが、思考を改変したり、現実を改変するのではなくただの詐欺。なんとも夢がなくてこすい話だ。
「そしてお前が帰れるかどうかだな。あそこに再び戻るには死ぬしか方法はない。けどその不老不死ってスキルがある限りは死ぬことは出来ない。さらにスキルのオンオフが出来るのは我らだけ」
「あー………ガチで?」
「ガチ。倒すまで帰ってくんな♡」
「死ね」
「もう死んでますよ」
その言葉を聞きながら、彼は天空に中指を立てる。そして裸のまま眠りに落ちていった。
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