第3話 続チュートリアル
「...」
地面に落ちている丸っこい目玉。それに宿った意識は信じられい光景を捉える。砕ける筈のない、壊れることのない無敵の体が、その肉片がスライムに吸収されていっている光景を。
「(...は?は?は?は?は?は?は?は??????なにがおこった???なんで俺の体が...?なんで動けない?なんで...スライムがあんなに大きい?)」
——ジュウジュウ
混乱の最中でも、スライムの中にある体は恐ろしいスピードで消化されていく。塩が水に溶けるかの如くだ。
彼は自らの身体が消えるのを強制的に見せられる。目を閉じる機能は失われている故に。その時、生き物として当然の感情が沸いた。しかし、それを伝える口はスライムの中だ。
そんな地獄とも思える時間でも、終わりが来る。転がり落ちた目玉から蒸気が沸き立ち、肉と骨が生え始めた。即時回復、その名に恥じない速度でみるみる体が再生する。骨格がまず形成され、そして内臓類が成長、次に肉、最後に皮膚。
「...んグッ...クソッ」ダッ
この間2秒も立たない内に失われた全てが生え揃う。服を除いて完全な状態になった大斗は緑のゼリーを睨みながら手を付き、起きあがろうとした。
——ペシャッ!
2回目の血飛沫!無常!
彼はうつ伏せの状態のまま、何かに潰される。スライムは攻撃をしようと動いてすらいなかった。そして、たった今出来た原型を留めない肉ミンチに猛々しく向かって行く。
「(...な、なんなんだ?なんで俺は粉々に)」シュー
その様子を彼はもはや目でもないただの肉の一片に宿り閲覧する。当然、未だに何も飲み込めない。
それでも、自動的に即時回復が発動する。すぐに、つい先と同じ手順により体は元に戻った。その頃にはスライムの中の彼は消えている。
「はっ...はっ」ボタッ
魔物を見上げると、冷や汗が額を流れる。
———バンッ!
3回目の鮮血。彼は縦に薄い肉の紙になった。
【その5秒後】
彼の関節が取り外された。
【その10秒後】
彼は絞られた。
【その15秒後】
彼は中身を変えられた
・
・
・
【その320秒後】
彼は真っ二つに裂かれた。
「(は...は....俺は...なんだって...こんな)」
中身がなくなった半身を丸くなった目で見つめながら、恐怖する。痛みは無い。何度も傷つこうが治る。
ただ、彼は自分が分からなくなってくる。今目の前で死んでいるのが自分なのか、それとも他の誰かなのか。
「(分からねぇ......)」シュー
——プクッ
精神が完全に参ってしまう寸前、スライムがいきなり何処かへ去っていく。ゆっくりと、雄大に、どこか満足気に。
「......」
寝転がりながら呆然と、去り行くスライムを見つめる。しかしすぐに、はっとすると立ち上がり逆方向によろけながら走りはじめた。
顔色は悪く、歯からガチガチと音を鳴らしながらひたすらに走る。持久力は無限にある筈だが、ヒィヒィと自然と出る言葉が止まらない。走りは安定せず何回も転んだ。その度土に汚れる。
そうして10分程走り、少し精神が落ち着いた頃。
静かに呼ぶ。
「...クソ犬」
「ふっなんだい?お前よ」
ニヤついた声が聞こえた。無論それは、彼の神経をこれでもかというほどに逆撫でする。
「嘘つきやがったな」
「カっカっカっ!」
ここでも犬は悪辣に笑う。今、奴がどんな表情をしているのか見なくても想像がつく。最悪だ。
「クソッタレ!そうだよな!あんな上手い話あるはずねぇよな!てめぇ今すぐ俺をあそこに返せ!」
「おぉーお怒りなさんな。我は嘘ついてないぜ」
「何処がだ!さっき、、俺の体は壊された。物理、魔法が無効だったら...あんな風に俺は...俺はぁっ!」
思い出したくもない感覚が全身を走り、言葉に詰まる。全身の感覚が無い感覚、下半身に血が行かない感覚。神経がつながったまま、溶かされる感覚。
自分が消えていく感覚。フカイ。
彼は吐き気に襲われ、急いで口を手で塞ぐ。
「...はぁ...はぁ...」
「カカカッ!おもしれぇな」
「死、死ね!」
「もう死んでる、なんてな。いや、いやいや、ちゃんと物理も魔法も無効だぜ。自分の頭を岩でぶん殴ってみろ。当たりもしないぜ」
「...じゃあどうあれの説明をつけるってんだよ」
「あれは物理じゃない。
あれは【存在攻撃】、別次元からの攻撃による存在圧縮に伴い発生する不可避的崩壊現象だ」
「...は?」
——ヒュー
完全に呆気に取られた彼を風が吹きつけた。
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