第2話 チュートリアル


「ほほぉ〜ここが...」

 

 そうニヤリと笑う大斗の目の前には、果てしなく続く草原が広がっている。

 ここは異世界。細々しい説明は抜きに、彼は遂にこの地に降り立った。今の姿は生前の体格の良い男のもの。

 

 ののどかな絶景に清々しさが蔓延して止まらない。始まりの大地というのはやはりこういう所が好ましいのだろう。彼も日本では中々崇めない光景にテンションをハイにシフトチェンジした。


「……あー、あー天使様聞こえますかー?」


 何やら快晴の空に向かって独り言を呟く。もちろんながらこれはただ独り言ではない。


「OKOK。きこえてるぜ」


 どこからか、その呼びかけに中年男性の声が呼応した。そう、あの犬だ。そして犬は続けて喋る。


「どうだ、気分は?」

「いやぁ、、、最高っすよ。どのくらいかって言うとバレたらヤバい失態をなんとか自分で解決出来た時くらいのもんっす」グッ


 と大きな背を伸ばした。するとそよ風が頬を優しくなぞって行く。背丈の低い草達が連動して一斉にしなり、緑色の孤を描いた。適当に見繕ってもらった古風な衣服は肌に心地よい刺激を与える。


「この世の全てが気持ち良いって感じっすね」

「そうかーーよかったな。スキルとかはちゃんと全部入ってるよな?確認しておけよ。我でもミスはある。無いに等しいけど」

「よーし...邂逅オープン!」


 初めてのスキル使用。ある単語を言葉にするだけでスキル、魔法等は発動する。更には常時発動するものもある。なんて不可思議な現象だろう。現実とは思えない。

 けれど彼はそれを当然のように受け止めている。汚染されきっている、現代に……

 

——ピッ

 機械音を鳴らしながら宙に文字列が浮かび上がった。その内容はスキル、魔法の一覧に加え今の身体状態などが各部位で数値として出ている。

  

「魔法無効…物理攻撃無効…常時即死無効…痛覚遮断…即時回復…不老不死…自動絶対回避…常時無敵バリア…常時平温…完全免疫…窒息無効…魔力無限…魔法攻撃必中…常時即死魔法…全位魔法使用可能…全属性付与…全存在変身可能…最高位美術使用可能…瞬間移動…体力無限…魔法跳ね返し…筋力増強…持久力無限…無限物質生成…人体生成…地図完全把握…全戦闘術完全把握…千里眼…読心術…念話…全存在強制操作…強制魅了…強制賛美…強制支配…最高位気配察知…現実改変…呪い無効…黒魔術無効その他色々...スキルは問題なさそう—————?なんだこれ?

【死累合算】【剛刃】【呪膿付与】

これ、なんすか?」

「“オマケ“さ。使い方は……その都度教えるさ。まぁまずは身をもって……【この世界】を体感してくれ」

 

 天使は何か深みを持たせた言い草であった。


「魔王を倒したらのんびりスローライフしていいんですよね?」

「あぁもちろん。好きにすると良い」

「しゃーい!」


「そんじゃ我はもう行くが...困ったら呼びな。お前に意識を割くくらい仕事やりながらでも楽勝だから遠慮しなくて良いぜ」

「はい!」

「……がんばれー」


 そうして犬の声はだだっ広い野に拡散して消えていった。彼はもう一回辺り見回し、深く息を吸って歩き始める。

 歩幅は大きく、足取りは軽く、遥かなる大地を踏みしめるのだった。


「さて、まずは散策からだな。瞬間移動で近くの町に行っても良いんだが...そりゃ味がない……武器創造ウェポンドリーム

 

 するとウィンという高音と共に右手の中から青い光が放たれる。そして、鮮烈な光が終わる頃には手の中に銃火器、即ちハンドガンが握られていた。


「ガハハッ!異世界に銃だってよぉ?!しかも、オートエイム付き!無双確定ありがとうございますわぁ!まぁ魔法が即死だから使う必要ないんだがな!アーハッハッハッ」


 と額を手で押さえながら高らかに笑い、その直後3回の爆発音が周囲に鳴り響く。トリガーハッピーもいいところ、今のテンションなら人間であろうとぶっ殺しそうなものだ。即ちヤバイヤツ。


———ザッ

「おや?」


 今の音に誘われてきたのか、背後から物音が鳴る。瞬間、大斗は堪えきれない衝動に身を任せ背後に勢いよく発砲。人か魔物かの判別もつかないうちに。


「オレの後ろに立つな」キリッ


 そしてどこかで聞いたような決め台詞を言いながら振り向く。そこで目に映った物は、体長30センチ程度はあるだろう緑色のゼリーだった。けれどただのゼリーな訳がなくそれはうねうねと動いている。その姿はいわゆる...


「スライm——」



———グチャ バキッ



 刹那、生々しい音に暖かい血液が辺り一面に飛び散る。


「(?)」ボト 


 あの液体はなんだろう。そんな事を思う。


「(なんで落ちる?)」


 次に不思議に思ったのは何もしていないのに視界が落ちていくこと。


「(……あれは)」


 遂に彼は見た。人間の右腕と、胴体と、どこかの肉と、腸と、心臓と、目とが狂い、舞い踊っている所を。


彼は


“一瞬にしてその骨と肉のことごとくを捩じ切られた“







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