『科目「恋愛」』

ニボシん

科目「恋愛」

 N国は少子高齢化に頭を悩ませていた。このままでは若者が減り、老人が増え、経済の衰退がますます進んでしまう。どうすれば解決されのか、官僚たちは必死に考えた。その結果、学校教育からテコ入れしていこうという方針となった。具体的に、「恋愛」という科目を導入したのである。


 少子高齢化の原因の一つとして、そもそも結婚をする人が減っているという要素があった。これはもちろん、独り身が気楽で良いという場合もあった。しかし、結婚したくてもできないものも多くいた。というのも、一体どうやって異性にアプローチしたら良いのかわからないという人たちである。人によって悩みはまちまちである。そもそも女性を口説きに行く勇気すら出ないものもいるし、アプローチはするも断られ続け心が折れているものもいる。こういった恋愛弱者を国を挙げて教育すれば、モテの格差がなくなり、結婚したい人がちゃんと恋愛へアプローチし、結婚率をあげ、1人でも多く子供を産んでくれるのではないかと期待した。


 N国は「恋愛」を科目として導入するため、自他共にモテる人たちを多く集めた。彼ら彼女らから知見を得て、N国は教育のカリキュラムや内容を作り上げていった。また、ゆくゆくは高校、大学受験の入試科目としても導入していく方向で計画を進めていった。


 計画から数年後、無事に「恋愛」が導入された。学生の多くはこのニュースに歓喜した。当然である。ほとんどの学生は異性からモテたいと思うものである。各学校には「恋愛」の先生が赴任し、講義を受け持った。多くの学生たちのモチベーションは高く、一生懸命「恋愛」を勉強した。



 約10年後、「恋愛」は科目から撤廃された。理由は単純で、出生率が上がらなかったからである。むしろ、出生率はさらに下がってしまった。

 実際「恋愛」はかなり学生内に浸透しており、高い水準で習得しているものが多かった。しかしそれがイケなかった。教科書通りの「恋愛」は口説かれる側にとってとんでもなく退屈であった。口説かれる最中にどうしても「これ、教科書の第3章で勉強したところだわ。」などとよぎってしまう。そうすると結局恋愛熱が冷めてしまい、失敗に終わってしまう。しかしそういった失敗をする連中ほど、「恋愛」偏差値は高かった。

 一方で、「恋愛」が導入される前からモテていたやつは、さらにモテるようになっていた。彼ら彼女らは「恋愛」で学んだセオリーから少し捻って異性にアプローチする。そうすると口説かれる側は非日常感を味わい、非常にドキドキするのだ。当然彼ら彼女らは「恋愛」のセオリーにとって型破りなやり方を好むので、「恋愛」偏差値は低かった。


 つまり、「恋愛」が導入されたことで「恋愛」偏差値が高いものほどモテず、「恋愛」偏差値が低いものほどモテるというパラドックス的事象が起きてしまったのである。さらには、「恋愛」教育を受けてもモテないということで自信を失った人々が多く、より恋愛に対して億劫な人が増えてしまい、モテの格差がさらに広がってしまったのである。

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