一緒に
「……お母さんが人間なんだね?」
「うん。でもお母さん……」
アルフォンスは立ち上がると男の子から離れ、ヘスティアへと視線を向けてきた。
どうやら話があるようで、彼のそばへと近づくと声をひそめて話しかけてくる。
「どういうことだと思う?」
「その前に聞きたいんだけど、人間界での半魔の扱いってどうなの?」
魔界でも見たことのない半魔という存在が、人間界でどんな扱いをされているのかわからない。
アルフォンスは難しい顔をしながらそっと首を振った。
「そもそも半魔なんて見たことがなかったから。…………ただ、少なくともいいようには見られないと思う」
「……そうよね。それにあの話、」
母親は人間なのに、同族である人間に殺されたと言っていた。
そしてその原因は母親があの子を産んだからだと言う。
つまりそれは。
「もしかしたら、国境付近でなにかあったのかもしれない……。あそこらへんは国もあまり手出しできてないから」
「それは魔界も似たようなものね。王都から離れれば離れるほど目が届きにくくなる……」
ひとまずもう一度話を聞こうと、二人は揃って男の子の元へと向かった。
「とにかくなにがあったのか、話してくれる?」
「…………オレもよくわかってないんだけど、なんか魔物が急に襲ってきたって。それで村がピリピリして」
「魔物が襲ってきたの? どうして?」
「わかんない。急に襲ってきたって言ってた」
本当にそうだろうか?
いくら国境付近とはいえ、今は魔王から人間を襲わないようにとの命令が出ている。
もちろんそれに反抗するものもいるだろうが……、そういう奴らが人間を襲ったのだろうか?
「村の奴らが魔物から助かるためだってお母さん連れて行っちゃって……。本当はオレも連れて行かれるところだったんだけど、力使って逃げ出したんだ」
「あなたの力ってどういうものなの?」
「一瞬だけど幻を見せられるんだ。それで……」
言い淀む男の子の頭を少々乱暴に撫でつつ、ヘスティアはふむと顎に手を当てた。
今の話で大体の内容が理解できた気がする。
「つまり、魔物が襲ってきたことに恐怖した人間たちが、あなたたち親子を差し出して助かろうとした。あなたは魔術を使って命からがら逃げ出して、ここにきたと……」
「うん」
「でもどうして王宮に?」
「ここが王宮だなんて知らなかったんだ。たまたま内緒で乗り込んだ荷馬車がここの近くに止まって。兵士っぽい人がいたから助けを求めたんだ」
「あー……なるほど理解したわ」
つまり偶然に偶然が重なり彼は王宮に助けを求めたと。
そのおかげでアルフォンスやヘスティアが呼ばれたのだから、この子はある意味幸運なのだろう。
「………………」
たぶん、この子が想像しているよりも悪いことが国境付近で起こっている。
やっと平和になったと思ったのに、やはりほつれは気づかないところにできているのだ。
人間と魔物の争いは、一体いつになったらなくなるのだろうか?
「……………………ねぇ」
「待った。君の言いたいことは大体理解してる」
「……よくわかるわね」
「わかるよ。わかった上で今すっごく止めたい気持ちと、君の想いを天秤にかけてる」
危険な目にあわせたくないと思っているのだろう。
いつものことだ。
ヘスティアだって戦えるということは、前回の魔物商人の時にわかってもらえたと思っていたのだが、どうやらそれでも心配らしい。
人より丈夫な魔物を心配するなんておかしな人だと思っていると、アルフォンスは腕を組み険しい顔のまま頷いた。
「…………わか、った……。今回の件は俺が動くつもりたけど、君も連れて行くよ。そのかわり! 絶対無理はしないでね!」
「無理なんてしてないわ」
「前回なんだかんだ怪我してただろう?」
「してないわ! 擦り傷すらなかったじゃない」
「吹っ飛ばされた君を見た俺の気持ちわかるかい?」
「それでも怪我なんてしてないもの。心配しすぎだわ」
「するよ! 君は俺の花嫁なんだよ!? 妻の身を心配してなにが悪いの」
アルフォンスからの言葉に、ヘスティアは口をきゅっと結んだ。
まさかそんなふうに言われるなんて思っていなくて、恥ずかしいやら嬉しいやらでなにもいえなくなってしまう。
これはどう反応を返すべきか悩んでいると、そんな二人にリヒトが声をかけた。
「ひとまず、今回の件は勇者に任せる、でいいかな?」
リヒトの声にハッとしつつも、ヘスティアは思わず彼を睨みつけてしまう。
どうせもとからアルフォンスに丸投げするつもりだっただろうに、ずいぶんと取り繕った言い方をするやつだ。
むすっとしているヘスティアの隣で、アルフォンスは小さく頷いた。
「どうやら魔物と人間の間に起こったことのようですから、今回の件は俺とヘスティアで向かいます」
可能なら魔物側からも話を聞いてみたい。
そういった意味でもヘスティアが向かうメリットはあるだろう。
あとはどうやって話をつけるか……と考えていた時、アリアがまるで名案を思いついたと言わんばかりに両手を叩いた。
「なら私も一緒に行きます!」
「「…………はぁ!?」」
なぜそうなるのだと、ヘスティアとアルフォンスは声を上げた。
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