特訓!

「王宮のパーティー!? わたくしたちもですか?」


「おいおいおい、どーいう風の吹き回しだ?」


「ぱ、ぱぱぱ、パーティーなんて……む、無理ですっ」


「…………あなたたち、勇者一行なのにパーティーに出たことないの?」


 屋敷へと戻ってきた二人は、ことの詳細をエリー、ルナ、クレアに伝えていた。

 自分たちもそのパーティーに呼ばれたことを驚く三人に、ヘスティアもまた同じような反応を返す。


「いえ……行ったことはあるのですが……基本呼ばれるのはアルフォンスだけなので…………」


「まああたしらもそこらへん得意じゃないし、呼ばれないなら呼ばれないでいいかなって」


 こくこくと頷くエリーを見て、ヘスティアはたまらず額を押さえる。

 彼女たちも命をかけ戦った者たちであるというのに、なぜこのような扱いを受けなくてはならないのだろうか?

 そしてなぜそのような扱いを彼女たちが許しているのか疑問である。

 ヘスティアが彼女たちの立場であったら、勝手にパーティーに参加して嫌味の一つでも言って帰ってくるというのに。

 この自己肯定感の低さは一体なんなのだろうか。


「今回のことはあなたたちも深く関係しているのだから、一緒にくるのは当たり前だわ。けど……」


 気になるのはあの王のことだ。

 あれだけ魔物を嫌っている人が、ヘスティアまでパーティーに呼ぶなんておかしい。

 さらにはそこに普段は呼ばない勇者一行まで。

 勘繰らない方が無理だ。

 言い淀むヘスティアに気付いたのか、クレアが優しく微笑む。

 

「わかっています。あの王が我々に加えあなたまで呼ぶなんて、裏になにかあります」


「考えられるのは笑いのネタにされること、とかか?」


「笑いのネタ? なによそれ」


 なんとも聞き捨てならない言葉に反応すれば、彼女たちは困ったように目配せした。


「あー、ほら、あたしら平民出身だからさ。上流階級の作法? 的なのよくわかってないんだよ」


「どれほど着飾ろうとも、礼儀作法がなってなければ笑いものにされてしまいます」


「ど、ドレスも流行とか……。わ、私が選んだの古臭いって笑われました…………」


「…………はぁ」


 大きなため息をついても仕方のないことだと思う。

 やはりというかなんというか、上がああなら下もそうなるよなと納得せざるをおえない。

 まああの王宮に行った時の周りの態度からして、なんとなく想像はついていたが、この国の貴族たちは人を労うということができないようだ。


「なるほど理解したわ。つまりは私たちを笑いものにしたいから、パーティーに呼んだってわけね?」


「いえ! あなたは違うと思います。いくら勇者に嫁いだからとはいえ、その身は魔族の姫ですから。そのような失礼なことは……」


「もうされたわ」


「…………マジか」


 まあ王があの態度なら周りがこちらを下に見るのも致し方ないのかもしれない。

 絶対に許さないが。

 三人は困ったように眉尻を下げ、そのうちクレアが頭を下げた。


「失礼をお許しください。我々は魔物たちとこれ以上の争いを望んでいません。ですからどうか……」


「やめなさい。あなたたちが頭を下げる必要はないわ」


 なぜ彼女たちがそのようなことをしなくてはならないのか。

 命をかけて戦い平和に導いた人が、その後を憂い頭を下げるなんておかしい。

 しかし命をかけたからこそ、その行動をするのも理解できた。

 誰だって、何度も死ぬ思いなんてしたくはないだろう。

 やっと平和になれたのに。

 それを壊すことなんてしたくないはずだ。

 だからこその行動なのだろう。


「でもあなたたちも会った時なかなか失礼な態度とってきたわよ?」


「――そ、それは、そのっ」


「まあ理由はわかってるからいいけどね」


 アルフォンスに想いを寄せているのなら、ヘスティアという存在をよく思わないのはわかる。

 理由が明確だったからこそ、ヘスティアもそこまで怒らなかった。

 だがしかし、今回のは違う。

 魔物をどれほど憎んでいようとも、あの男は王なのだ。

 国に生きる者のために己の感情を律せないものなど、その地位に座る価値もない。

 それにだ。

 あの男は別にヘスティアを憎んでいるわけではない。

 魔物全てを憎んでいるのだ。

 なにもしていない魔物たちまで。

 それを許してしまったら、いつまでも世界は平和にならない。

 綺麗事だろうがなんだろうが、許さなければ前には進めないのだ。

 だからこそ。


「私はあの王のあり方を許すわけにはいかないわ。あれは人間界も魔界も滅ぼす存在よ。……この私がわざわざ勇者に嫁いでまで繋げた未来。あんな愚王に消させるわけにはいかないの」


「……その通りです。平和なら平和の方がいい。誰も理不尽に殺されない、奪われない。そんな世界を作らなくては」


「そのための私とあの男よ。あんな頭でっかちの王になんて負けないわ」


「――応援します」


 強く頷くクレアに、ヘスティアも同じように頷く。

 それに続くように微笑むエリーとルナを見て、ヘスティアは徐に立ち上がった。

 ならやるべきことは一つだと、ヘスティアはそばに控えていたララへと顔を向ける。


「ララ。ありったけのドレスを用意して。あとワインと食べ物も」


「かしこまりました」


「お、前祝いでもするのか?」


 昼から酒が飲めるとワクワクしているようすのルナに、ヘスティアはにっこり微笑む。


「まさか。今から礼儀作法の特訓よ」


「…………へ?」


「舐められないようにしなくちゃ。もちろん、あなたたちもね」


 それからパーティーが始まる約一週間、地獄の特訓が始まったのだった――。

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