夫婦の演技
走らせた馬は静かに街へと入っていく。
栄えている街だからか、夜でもある程度人通りがある。
そんな人通りを避け、裏道でヘスティアたちは馬から降りた。
「……すいぶん人がたくさんいるのね」
「勇者の街だからな。みんなアルフォンスの加護の元、平和に暮らしてるんだよ。ここには魔物たちも恐れてやってこないからな」
「…………」
どうやらパーティーメンバーも各々性格が違うらしい。
ヘスティアに一番突っかかってくるのは格闘家であるルナだ。
気が強く男勝りなところがあるからか、真正面からあーだこーだ言ってくるところは少しだけ好感が持てる。
次に敵意を向けてくるのは弓使いクレア。
女性の中では一番年齢が上なのだろう。
まとめ役的な立ち位置だからか、そこまで表立ってあれこれは言ってこないが、明らかにヘスティアに失礼なことをしているルナを止めることもしないので、総意の上らしい。
そして最後に魔法使いエリー。
大人しく顔を伏せていることが多いけれど、ルナとクレアが一緒になってヘスティアに攻撃していると、少し離れたところから小声で色々言ってくる。
何度か言いたいことがあるならはっきり口にしろと怒ると、それ以来ほとんど近づいてこなくなった。
面倒なメンバーだなとヘスティアは彼女たちを視界に入れることをせず、アルフォンスへと顔を向ける。
「で? 魔物商はどこにいるの?」
「ここから地下に行けるんだ。そこで商売をしてるらしい」
「どいつもこいつも、後ろめたいことをする奴らは地下に篭るんだ。ねずみみたいな奴ら」
どうやらここからは変装をして、地下に向かうらしい。
皆が頭からフードをかぶるので、ヘスティアも嫌々従った。
「地下に向かうと入り口にいる魔物商に案内されるらしい。捕まってる魔物たちを一匹ずつ見て自分が欲しい子を見つけるんだ」
「なるほどね」
「……辛いだろうけど、魔物商を捕まえるまでは耐えてほしい」
どうやら作戦があるらしい。
アルフォンスに詳細を聞けば、彼は清く答えてくれた。
まず、ヘスティアとアルフォンスが夫婦として正面から入る。
魔物が欲しい道楽貴族のふりをして。
その間にエリーの魔法で姿を消している三人が侵入し、魔物売買の証拠を得る。
そう、売買の、である。
売った方も罪に問われるが、買った方も重罪だ。
その双方を捕まえるため、顧客リストを手に入れなくてはならないらしい。
それを聞いたヘスティアは、腕を組んでパーティーメンバーを見る。
「こいつらを信用していいわけ?」
「はあ!? あんたより信用されてるんだよ! あたしたちはアルフォンスを最後まで支えたんだから!」
勇者一行の話は聞いている。
力はあれどあぶれていたものたちを集めて、一から育て上げたと。
だがしかし、そんなものヘスティアには関係ない。
信用ならないという顔をすれば、そんなヘスティアの肩をアルフォンスが軽く叩く。
「大丈夫。彼女たちは優秀だって言っただろ?」
「……はいはい。そーですね」
まあ彼がそういうのならもういいやと彼女たちに背中を向ける。
信頼関係があってのことなのだろうから、そこにヘスティアが口を挟む必要はない。
少し。
ほんの少しだけムカつくけれど。
「それじゃあみんな、いいね?」
「任せろ!」
「アルフォンスもお気をつけて」
「が、頑張ります……」
「………………」
揃いも揃って頰を赤らめてる姿に、ヘスティアは片眉を上げる。
どうしてこの人たちは揃いも揃って勇者を好きになっているんだろうか。
よくこれで魔王討伐なんてしようと思ったなと呆れていると、エリーの魔法によって彼女たちの姿が消えた。
「……ふーん」
「すごいよね。俺は魔法使えないから羨ましいよ」
屈託なく笑う姿にちょっとだけ胸がきゅんとしつつも、それを少しも表に出すことをせずフードを深く被った。
「あなたは魔法なんて使えなくても、その剣があればじゅうぶんでしょ。優れているところを伸ばして得た力なんだからもっと誇りなさい」
「…………うん。そうだね」
なんで嬉しそうにするんだ。
訳がわからないと首を傾げつつも、潜入の準備を始める。
姿は見えないがヘスティアには三人の姿が魔力として見えているため、どこにいるのかは理解できた。
ちゃんと近くで待機しているらしく、ヘスティアたちは地下へと続く階段を降りていく。
すると一番下にもう一つドアがあり、その前に銀色に鈍く光る髑髏の仮面をつけた男が立っていた。
その男に向かって、同じように猫のような仮面をつけたアルフォンスが何かを差し出す。
どうやらそれが鍵になっているようで、確認後ジロジロと見つめられた。
「……なにか?」
「見慣れない客なもんでな」
「愛しい妻がね、私がいないときに暇らしくて。観賞用の面白い魔物が欲しいんだよ」
「――!」
腰を掴み引き寄せられて、ヘスティアは危うく悲鳴をあげそうになるのをなんとか堪えた。
今の二人は金のある頭の悪い夫婦なのだ。
そのように演じなくてはと、彼の胸元にそっと寄り添う。
もちろん触れ合うギリギリを狙っているが、心臓がうるさすぎるので、できればすぐにでも離れたかった。
「…………まあいいだろう。金払いのいいやつは好きだぜ。入りな」
扉が開かれ中へと入る。
暗すぎる道を彼に支えられながら歩いていけば、じわじわと感じる気配にゆっくりと鳥肌が立っていく。
「――」
「……どうかした?」
止まりそうになったヘスティアに気づき、アルフォンスが小さく声をかけてくる。
すぐ後ろに先ほど入り口にいた男がいるから、あまり詳しく大きな声では言えない。
震える足を必死に進めつつも、ヘスティアは前を見続ける。
「……嫌な感じがする」
「――……辛かったら俺に寄りかかって」
二人は歩みを進める。
真っ暗な道を進み続けると、やがて光が現れた。
暗幕のようなものを手で押し上げれば、広い部屋に出る。
「…………これ、」
「…………なるほど」
そこには無数のゲージが置かれ、数多の魔物たちが阿鼻叫喚を上げながら閉じ込められていた。
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