第7話
次の日。今日は雨が降っており、下を向いて通学する。
学校に着くと傘についた水滴を丁寧に払い、傘立てにしまう。雨は憂鬱だとため息をつきながら靴を履き替え教室に向かった。
ガラッ。
後ろの扉を開けて教室に入るとザワザワとしていた教室がしんっ……と静まり返った。
そしてこちらを見てひそひそとしている。
なんだろうか。居心地の悪さを感じ周りを見やると黒板に貼られていたのは、俺の小説だった。
「…なんだよこれ」
これは和泉に貸したやつだと思いそちらを見ると、泣きそうな申し訳なさそうな顔をした和泉が首をぶんぶんと振っていた。
「……下手くそのくせに」
ボソリと呟いたのはあの男だった。
あいつだ。あいつがやったんだろうと検討がついた。
「……おい、お前どういうつもりだよ」
怒りに任せてはいけないと冷静を装うが頭の中はぐちゃぐちゃで、どす黒い感情が渦巻いていく。
「そのままの意味だよ!お前は賞も取れない下手くそなのに朝陽と仲良くしてるから!お前の小説って人間が書けてないって言われてるんだってな!そりゃあそうだろ、お前は1人で下向いて誰とも関わらないで?その癖朝陽に仲良くしてもらってて?……こんな小説っ!」
黒板から雑に剥がされるとビリッと破けた音がして、そのまま床に投げ捨てられる。頭が真っ白になった。
「おはよ、って何この空気。どうし……」
東雲が登校してきてこの異様な空気に驚いた顔をした。そして破かれた紙を拾い、サッと顔色を変えた。
「……ちょっとこれ、夜鷹のじゃん、なにこれ。どういうこと?」
男に詰め寄る東雲の目は怒りに満ちていた。男はたじろいで目を逸らし呟いた。
「……調子に乗ってるからちょっと揶揄ってやろうって。でも破いたのはわざとじゃ……」
教室の空気は最悪で、息が詰まり、堪らずその場から走り出す。
「夜鷹っ!」
今すぐ教室から離れたい。
靴も履き替えず、行く宛なんてないのに雨の降りしきる外へ飛び出した。
仕方ない。
ああやって揶揄われることも、バカにされることも、仕方ないんだよ。
だって俺は人間が描けてなくて、天才の東雲のいるクラスで同じ土俵に立って小説をやるなんて、初めから無理だったんだよ。
だって俺は才能なんてなくて、失敗作で。
どこに行けばいいのか分からないのに足は止まらず、だんだん身体が冷えていくのを感じる。
体力もないのに走ったせいか、息が上がり呼吸がしずらい。
そのうち肩で息をしながらその場に座り込んだ。
違う。
違うんだ。
自分のことを失敗作だって思うことで安心していたんだ。できなくても上手くいかなくても、賞が取れなくてもこいつはダメだから仕方ないって。
それは逃げだ。
自己肯定感が低いのに承認欲求が高くて、否定なんかされたくないし傷つきたくなんてないのになんでもない振りをして嘘をついて。
本当は誰よりも認められたいのに。
「どうしておれは」
か細い声で呟いた声は雨の音にかき消されていった。
こんな惨めな自分なんて全部洗い流されてしまえばいい。
目の前が滲んでよく見えなかったのは雨のせいだ、きっと。
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