今世は、宇宙の片隅で生活することになりそうです
くれぞー
第1話 野望は惑星の塵と化す……
桐山湊24歳。
進学校である都立明光学園を首席で卒業。日本最高学府の東桜大学へ進学。在学中に友人と共にゲーム制作会社を設立。アプリゲームを中心にヒット作を飛ばし、瞬く間に業界上位の企業へと成長した。その成長はゲームのみにとどまらず、独自の検索エンジンの開発やショッピングサイトの設立など今現在IT業界では帝王として君臨するまでとなった。
そんな俺は新たな野望のために現在役員会議を行なっているのであった。
「これより我が社は、新たな鉱物資源の発掘調査に動こうと思う!」
いきなりのことに、場が静寂に包まれるが、そんな中、声を上げるものが現れる。
「なんだいきなり!突拍子もないことを」
語気を強めて、意見してきたこいつは俺の右腕でもある副社長の東城遼平である。大学の同期で、中々の切れ物で会社のまとめ役を担っている。
「鉱物資源の調査だと?あまりにも畑違いすぎないか?そもそも、新たな鉱物資源ってなんだ?うちにそんなノウハウないだろ!それに、どれだけ莫大な資金が必要かわかっているのか?」
「もちろん畑違いなのは分かっている。しかし、この計画はもう進んでいるのだよ!」
「どういうことだ?」
「なぜなら、つい先日民間のロケット開発会社と鉱物資源に詳しい研究室を買い取ったからね!」
「お前また勝手なことを……てか、なんでロケット開発会社なんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!それはな、別惑星の鉱物資源の調査、発掘を考えているからだ!」
異次元の計画に場がさらに凍りつく……しかし、東城だけが鬼の形相で俺に意見する。
「お前な!海洋資源、山岳資源ならまだしも、宇宙資源だと!そんな未知数な物に資金を使いやがって!会社が立ち行かなくなる可能性を考えなかったのか?」
「確かに、これは一世一代の大勝負だ。もちろん、失敗するかもしれない。だが、今まで我が社は様々な挑戦の上に成り立っている。そして、全て勝ってきたではないか!!」
俺は声高らかに言い放った。裏腹に東城は困惑していた。
「確かに、リスクがないところにビジネスはないが、とは言ってもだなぁ……あまりにも畑違いすぎるぞ」
困惑する東城を他所に俺はさらに捲し立てる。
「俺を信じろ!俺たちに不可能はない!この事業を成功させ、日本を代表する企業に名乗りを上げようではないか!!」
国の指導者のような演説をかまし、東城たち役員へ訴えかける。そんな演説に感化されたのか困惑していた東城が口を開く。
「わかった……今回もお前を信じることにしよう。だが、リスクが大き過ぎる。万が一計画が少しでも頓挫しそうならすぐ計画の中止を約束してくれ。あと、危険な仕事になるかも知れない。人員は、計画に賛同し立候補した人物のみとしよう。」
口ぶりやトーン的にどうやら感化されたわけではなく、折れてくれたようである。
「わかった!全責任はもちろん俺がとる!では、計画の概要を伝えよう!」
概要は以下の通りである。民間の惑星研究所が、未知なる惑星エルピスにて様々な動力源となる鉱石「アースライト」を発見。燃焼することにより火力、原子力発電に変わる、安全かつ脅威的なパワーを有する発電が可能となる。さらに車の動力源などにも期待されている。その情報をいち早く手に入れることができたため、国や大手企業が尻込みしてる間に資金を投じて権利を独占しようと考えたわけである……
こうして、俺たちの野望が始まったのである。
月日は流れ、2年後。いよいよ、惑星エルピスの調査当日を迎えたのである。
「いよいよだな!」
「あぁ」
「トントン拍子で計画が進んだな!やっぱ俺って天才?」
「調子に乗るな!お前の計画は、いつも無謀でどれだけ俺らが苦労してるか分かってるのか!」
「感謝してますよ!特に参謀の東城君には」
「はぁ……。相変わらず調子の良い奴だ。だが、やっと計画が一歩進むだけだからな。気を抜くなよ!」
「分かってますよ」
冗談混じりの会話をしていると、いよいよ出発の定刻となった。ロケットの発射音と共に野望を乗せ俺たちは地球を後にしたのである。
離れていく地球を背にエルピスを目指し丸三日。ようやく、惑星の姿を確認することができた。青々とした地球とよく似たエルピスを見ながら期待と興奮を募らせていたそんな時事件は起こった。
衝撃と共にけたたましい爆裂音が響き渡る。それと同時に危険を知らせる警報音が機内中を埋め尽くしていく。
「何事だ!」
俺を含め、機内全員が緊急事態だと察した。そんな中、研究所職員の1人が慌てた様子で状況を説明にやってくる。
「機体の一部が破損し、制御できない状態です!」
「なに!原因はなんだ?」
「原因は、恐らく宇宙の浮遊物が当たったことによる破損かと思われます。」
「修復は可能か?」
「現状難しいかと思われます」
状況説明を聞いていると、東城が話に割って入ってくる。
「桐山!これ以上の探査は危険すぎる。ここにいる全員命を失うぞ!すぐさま離脱用カプセルで脱出しよう」
「やむを得ないな。離脱用カプセルをすぐさま準備してくれ!」
「これからの事は、この緊急事態を乗り越えてから考えよう。まずは、脱出を最優先で行くぞ。」
「そうだな」
脱出のための準備を進めている最中、慌てた職員が俺に報告を上げる。
「離脱用カプセルが作動しません!それに加えて、機内全ての機能が作動しない状況です!」
「なに!地上との無線はどうだ?」
「無線も繋がりません!」
更なる緊急事態の発生で、俺たちは宇宙遭難状態となった。そんな状態とは裏腹に、ロケットは制御出来ないままエルピスに向け飛行を続けていた。
「このままだとエルピスに勢いそのまま不時着することになる!とにかく、対応策を考えよう!」
生存のため望みを繋げようと足掻いていたが、それを打ち消すかの様に更なる爆発音が響き渡った。強い衝撃と共にほとんどの人間が気を失ってしまった。遠のく意識の中、東城に言葉を投げかける。
「東城。すまなかった……こんな無茶な計画に巻き込んでしまって。」
「気にするな……」
「なんだ。まだ意識あったのかよ。」
「気を失ってたほうが良かったか?」
「冗談だよ!」
「こんな時も調子の良いやつだ……」
謝罪と冗談混じりの会話で東城は意識があることを確認できた。俺は、沈痛な面持ちとなりさらに言葉を重ねる。
「しかし、他のメンバーには申し訳ない気持ちでいっぱいだ……」
「仕方ないさ。俺含め、ここにいるメンバーはお前の計画に賛同してついてきたんだから」
「そうだが……俺がこんな無茶な計画を立てなければ……」
「それは結果論だ。それにまだ終わったわけではない。皆気を失ってるだけだ。奇跡を信じよう!もしダメでも、あの世で俺と共に皆に謝罪しよう。」
「あぁ。そうだな」
意識が朦朧としながら、ふと外を見ると、あと寸刻も経たぬ間にエルピスという距離まで迫っていた。
「これが最期の会話になるかも知れないから伝えとくわ。今まで俺についてきてくれてありがとう!」
「俺も楽しい時間を過ごすことができた。感謝している」
一呼吸置き、消えゆく意識の中さらに言葉を絞り出す。
「本当にお前に出会えてよかった!来世でも必ずまた会おう!」
「あぁ!楽しみにしてる!」
覚悟を決め、別れの言葉を交わした直後、爆音と衝撃が全身に響き渡ると同時に朧げな意識は完全に闇の中へ消えて行った……
今世は、宇宙の片隅で生活することになりそうです くれぞー @kurezo
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