第28話 第2の人生


「ここだけの話、俺、子供の頃エクソシストになりたかったんですよね」


 ポップコーンシュリンプにケチャップを付けながら、やや照れたように目の前の男は言った。


「エクソシスト?」

「はい。アニメでやってたでしょ?“黒のエクソシスト”」

「あぁ~、やってたな……」


 黒田からアニメのタイトルを聞いて、子供の頃の記憶が甦る。

 火曜夜7時、テレビにかじりついて観ていた。なんだったら、その後に放送するギャグアニメも観てた。


「観てました?」

「観てた、観てた!……でも、なんで急に?」

「あのアニメ、最近夜中に再放送やってるんです」

「あっ、マジで?」

「はい。で、観てたら子供の頃思い出しちゃって……」

「まぁ、主人公カッコいいしな。憧れる気持ちは分かるよ」


 俺はアイスカフェオレをストローでかき混ぜながら、そのアニメの詳細を思い出していた。


「懐かしいな~。俺、エクソシストもだけど、仲間のさ、陰陽師が居たじゃん?あっちになりたかったわ」

「あ~、あっち?」

「そー、そー!」

「竹中さんは、もし今、陰陽師の才能が開花したら、陰陽師になりたいですか?」

「あ?」


なんで急に話の風向きが変わったんだ?


 俺が黒田の質問に戸惑っていると、男は話を続けた。


「いえ、ね。俺等は悪魔を見る能力が開花しなかった訳じゃないですか?」

「……うん。まず、あれ漫画だしな。開花する訳ねーよ」

「いやいや、もしもの話ですよ。“もしも”子供の頃とか十代の頃に能力を得てたら、多分エクソシストになってたでしょ?」

「あの世界観で……って事?」

「まぁ、そうですね。あの漫画の組織が現実にあったとして。退魔の能力に目覚めてたら、エクソシストになりたくないですか?」

「う~ん……なりた……かったかな~?……まぁ、どちらかといえば?」

「で、そこから話を発展させて【もし今の年齢で能力に目覚めたらエクソシストになりたいですか?】って話です」

「……今?」

「つまり、あの組織に転職したいかって事です」

「転職~?……したくない」


 5秒も考えず、そう返答すると黒田は驚いたように


「したくない?」


とおうむ返しした。


「したくない。確実に戦えるとは思わない」

「そこら辺は特殊能力に目覚めてる訳ですから……」

「いや、体力持たねーだろ絶対。運動不足の成人男性の疲れ易さ舐めんなよ」

「運動はしなさいよ」

「いやー……無いな……」

「あ。でも主人公も養成所みたいな所で修行してませんでした?だから、戦闘に必要な体力はそこで鍛える事になるんじゃないですか?」

「えっ、もっとヤダ」

「何?動きたくないって事?」

「それもあるけど……養成所、若い子ばっかじゃん」


 あのアニメの主要キャラクター及び戦闘員のほとんどが、少年漫画原作らしく少年と少女で構成されている。たまに出る成人のキャラは大体が上司か先生の位置だ。


「確実に浮くだろ。今の年齢で高校に入り直すようなモンだぞ。『先生ですか?』『いえ、生徒です』を卒業まで繰り返す事になるだろうが」

「竹中さん……学問は何歳にでも開かれてるものですよ?」

「だとしても、俺にその勇気は無い」

「はぁ~……貴方には闇と戦える力があると言うのに……」


 『やれやれ』といった具合に、黒田が首を振った。その様子にイラついた俺は


「じゃあ、お前はエクソシストに転職すんのかよ?!」


と言い返すと、男は


「給料と福利厚生次第ですね」


と、いけしゃあしゃあと言い放った。


「オメーも大概じゃねぇかっ!!!」


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