第27話 牛か馬か


「竹中さんは、ミノタウロスになるのとケンタウロスになるの、どっちが良いですか?」

「えっ?俺、改造されるの?」


 目の前の男からの突拍子もない質問に、思わずそう返せば


「そんな訳ないでしょ」


と黒田は半笑いで言った。


「この間、配信で“カウ”ってホラー映画観たんです」

「おう」

「その映画は、牧場を営む夫婦の下にミノタウロスがやってくる話で」

「おぉっ?!パニックホラーって事?」

「そういう感じじゃないんですよね……牧場で飼ってた牛がミノタウロスを産むんです」

「それでパニックホラーじゃないんだ……俺なら絶対パニックになるけど……」

「俺もパニックになると思います。でも、夫婦はそのミノタウロスを育てる事にするんです」

「えぇ……スゲー話だな。面白かった?」

「う~ん……俺は一回観れば充分でしたね」

「なんだよ」

「でも、その映画を観た時に思ったんです。『ミノタウロスになるのと、ケンタウロスになるの、どっちがマシだろう』って」

「ふ~ん。……でも、ミノタウロスの方が化け物感強くない?」

「俺としては、ミノタウロスは“上半身ないし顔が牛”ってイメージなんですけど、それならどうでしょう?」

「顔が牛……。体は人間?」

「はい。内臓も人です。逆にケンタウロスは、胃より下の臓器は馬のイメージ」

「あぁ。下半身の馬部分から完全に馬になるって事ね。う~ん……」

「食事の面で考えると、ミノタウロス……長いな……牛の方は、歯も牛なんで肉類は咀嚼出来ないか、しづらいだろうなって」

「あぁ。磨り潰すように食べるんだっけ。じゃあ、馬の方は人間と同じ?」

「馬の方は腸とかが馬なんで、肉類を消化出来るかですよね」

「成る程……なら、どっちも草食の方が無難か……つーか、馬の方は外出れないよな」

「確実に目立つでしょうね。ただ、足は早いんで陸上選手としては輝きそう」

「スポーツ界から締め出されるだろ!ドーピングどころの騒ぎじゃねぇよ!」

「その点、牛の方はマスクと帽子で誤魔化が効くから馬より外出し易いですかね。ハロウィンならマスクとかも要らなそう」

「確かに仮装だと思われそうだな……う~ん……じゃあ、牛~?あっ!」

「どうしました?」

「頭が牛って事は、知能も牛と同じ?」

「はい」

「う~ん……」

「……でも、牛の知能ってチンパンジー並みらしいですよ」


 黒田はすぐに調べたのか、手元のスマホを見ながらそう教えてくれた。


「えっ、牛ってそんな頭良いの?」

「みたいです。これは牛の方が一歩リードかな」

「そうだな……うん。ミノタウロスの方がまだ良いかな……現代社会に馬よりかは馴染めそう」


 俺がそう結論を出すと、黒田はチョリソーを一口かじって


「そうですね。それに、ケンタウロスの場合だと下半身丸出しになる訳だし、ちょっと恥ずかしいですよね」


と苦笑いした。


「その点は考慮してなかったわ」


それなら、最初からミノタウロス一択だったよ。


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