第26話 二人称


「ちょっと聞いて欲しい事があるんだけどさ……」


 俺がそう切り出すと、真剣なのが伝わったのか、さっきまでダラダラとフライドポテトを食べていた黒田が姿勢を正した。


「はい。なんでしょう」

「……この間会社で、後輩がちょっとサボってたんだよ」

「はい」

「仕事もあんまり進んでなかったみたいだから『お前、ちょっと煙草吸いに行き過ぎじゃない?定時間内に終わんねーぞ』って注意したの」

「はい」

「そしたらさ。『“お前”って言わないで下さい!前から思ってたけどパワハラですよ!』って逆ギレされて……」

「はぁ……」

「どう思う?パワハラになるのかな……」


 黒田は俺の話に耳を傾けた後、少し考える素振りを見せ


「俺個人は気にしないですけど、相手に『パワハラだ』と言われたのなら、パワハラになるかもしれませんね」


と言った。


「えー……マジで……?」

「結局ハラスメントって【相手がどう思ったか】が重要なんで。俺と竹中さんは関係性が出来てるから、竹中さんの口が悪いのなんて気にならないですけど、親しくない相手から“お前”って言われるのって威圧感ありますよ」

「そうか……」

「まぁ、相手も注意されたから逆ギレした感じはありますけどね。でも一理あると思います」

「そうか……パワハラか……」

「……いきなりは難しくても、柔らかい言い方に変える必要はあるんじゃないですか?“お前”って言いそうになったら別の言葉に置き換える、みたいな」

「あぁ。“キミ”とか?」

「“さん”を付けるのはどうでしょう?『ちょいとお前さん、煙草吸いに行き過ぎじゃないかね?』とか、柔らかい感じがして良いかも」

「落語か」

「あとは“貴様”とか」

「よりパワハラ度上がってない?」

「じゃあ“乙”」

「契約書か!」

「なら、普通に“貴方”でも良いかも」

「“あなた”~?」

「『貴方、随分煙草を吸いに行ってらっしゃいますねぇ』とかエレガントかも」

「嫌味っぽいし、その言い方は“バディ!”の“左京さん”じゃん……」

「『ホッホッホッ。細かい所が気になるのが私の悪い癖』」

「寄せてんじゃん!完全に似てない左京さんじゃん!」

「尤も、無難なのは相手の名字に“君”でしょうねぇ」


 黒田は似てない物真似をしながら、ポテトを口に放り込んだ。


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