第25話 第1候補はダス


 黒田がミニフランスパンにバターナイフでマーガリンを塗りながら


「この間、数年振りに“ござる丸”を観たんですけど、あのアニメって大体のキャラクターが語尾に何かしら付けて喋ってるじゃないですか?」


と言ってきた。

 俺はガキの頃に観てた同アニメの記憶を手繰り寄せ


「主人公は“~ござる”って言うんだっけ」


と返した。


「はい。他にも“~でゲス”って話すキャラとか“にんにん”って語尾のキャラが居ますね」

「あ~……居たな……それで?」

「ふと、もし『これからの人生でずっと、語尾に何かしら付けて話さなければいけなくなった時、何が一番嫌かな』って思って……」


 黒田は神妙な面持ちでそう言うと、パンを口に運んだ。


「……ゴメン、どういう状況?」

「いやいや……例えばですよ?」

「例えでもねぇよ」

「そうだな……デスゲームに参加させられて……とか?」

「そのデスゲームの主催者イカれ過ぎだろ」

「デスゲームの主催者なんて大体ヤバい奴じゃないですか?」

「論点そこじゃねぇんだよ」

「別に深い意味なんて無いですよ。ただ『何の語尾が嫌かな~』って思っただけで」

「あんま嫌な方は考えなくね?マシな方を考えねぇ?」

「マシな方は決まってるんです」

「あっ、決まってるんだ……」

「“ピ”かなって」

「“ピ”っ?!!!」

「はい」

「嫌な方じゃなくてっ!?」

「一瞬『成人男性の語尾にはキツ過ぎる』とも思ったんですけど、先人に語尾が“ギョ”の人が存在してるんで、まだ周囲に受け入れられ易いかなって……」

「いや、あの人は別格じゃん!魚の博士な訳だしさ」

「博士である事が“ギョ”が受け入れられてる理由なら、ピアニストになれば語尾が“ピ”でもいける……?」

「なんでそこまでして語尾に“ピ”を選ぶんだよ。良いじゃん!“ござる”とかで!」

「“ござる”はなんか……『侍かよ』ってツッコまれそうで恥ずかしいっていうか……」

「羞恥心自体は存在してるのに、何故……」

「それなら、竹中さんは語尾を何にするっピ?」

「やっぱり“ピ”はキツイって……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る