第24話 新紙幣


「そういえば。この間お金卸したら、栄一が来て。竹中さんはもう実物見ました?」


 黒田がアイスコーヒーにガムシロップを入れながら、そう訊ねてきた。


「いや……まだ……」

「あれ、凄いですよ。お札を動かすと、ホログラムの部分の顔が本当にこっちを向くんです」

「へ~。……つーかお前、1万円札の事、“栄一”って呼んでんの?」


 さっきから気になっていた事を訊くと、目の前の男はキョトンとした顔で「はい」と言った。


「えっ?逆になんて言うんですか?渋沢?」

「あんま名字でも呼ばないだろ……強いて言うならフルネームじゃん?」

「長くないですか?」

「いや、そもそも1万円札は“1万円”って言うから」

「でも、福沢諭吉の時は世間的に“諭吉”って呼ばれてませんでした?」

「諭吉は長かったじゃん。2期連続で登板してたし、もう愛称で呼んでもおかしくないっていうかさ。でも渋沢栄一は、ついこの間刷られ始めたばっかじゃん。そんな馴染みねーよ」

「馴染みが無いだなんて……あ~あ、栄一可哀想……1年間ドラマもやったっていうのに……」

「いや……俺、そのドラマ観てないし……つーか、そんなん言ったら他のお札はどうなるんだよ!お前、5千円札の事、“梅子”って呼ぶのかっ!?」

「えっ?5千円札は“5千円”でしょ?」

「なんっだお前っ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る