第21話 要経過観察


「コブサラダとミネストローネにしようかな」


 俺がそう言うと、目の前の男が意外そうな顔をした。


「竹中さんがそんなに野菜類を頼むなんて珍しいですね」

「そんな事ないだろ」

「 だって前に『野菜なんて人の食うモンじゃねぇ!』ってキレてたじゃないですか」

「そんな肉過激派みたいな事言った覚えねーわ」

「『ビタミン類は白米で取る』とも言ってませんでした?」

「お前の中の俺、脚気になりそうだな。ていうか、良いじゃん。サラダ頼んでも。健康の為だよ」

「健康って……何かありました?」


 黒田が訝しげにそう訊ねてきた。俺は一瞬言うのを迷ったが、このままはぐらかしてもしつこく訊いてくるだろうと諦め、彼の質問に答える事にした。


「春の健康診断の結果があんまり良くなかった」

「でしょうね……」

「『でしょうね』ってなんだよ」

「だって竹中さん、酒、煙草、ギャンブルと、健康になる要素ゼロじゃないですか」

「ギャンブル関係ねーだろ」

「しかし、それで野菜を……浅はかですね~」

「浅はかって言うな!野菜は大事だろうが!」

「そりゃあ、野菜を取らないより取った方が良いですけど、それよりアンタは禁酒禁煙した方が良いでしょ」

「……それは追々……」

「やめる気ないな」



 それからしばらくして、食事を終え店を出たところで、俺はいつものように店裏手の喫煙所に向かい、煙草に火を付けた。

すると、黒田がジットリとした目つきで「健康はどうした」と言ってきた。


「……今日は野菜を沢山食べたから……」

「野菜で全部どうにか出来る訳じゃないですよ」

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