第19話 祭り


 ファミレスに行く道中、やたらと浴衣姿のカップルや若い子の集団が目についた。その事を黒田に話すと


「あぁ。そこの通りでお祭りがあるんですよ」


と、疑問への答えが気だるげに返ってきた。


「あれ?先週やってなかったっけ?」

「先週はお神輿しか出てなかったんじゃなかったですっけ?昨日と今日は屋台も出てるんですよ」

「なるほど……なら、ファミレスじゃなくて屋台でなんか買うんだったな」

「夕方でもまだ、こんなに暑いのに?並んでる間しんどいですよ?」

「それを言われると……」

「それに、最近の屋台の料理ってほとんど1000円前後でしょ?ちょっと勿体なくないですか?」

「意外だな。お前、ああいうの好きだったろ」

「嫌いじゃないですけど、流石にねぇ……大して具も入ってない焼きそばに700円は……」


 黒田は苦い顔をしながら、グラスを傾けた。


「まぁ、そこは“お祭り価格”ってヤツだろ?雰囲気込みの値段って事だよ」

「でもねぇ……いくらシロップかけ放題とはいえ、かき氷が400円ですよ?ちょっと高くないですか?」

「俺、かき氷あんま食わないから分かんねーけど、シロップかけ放題なら良いんじゃね?それより、お祭りの唐揚げなんか旨いじゃん」

「唐揚げもねぇ……店の前通るといい匂いするし、揚げたてで美味しいんですけど、結構油っぽくないですか?」

「揚げモンなんか、全部そうじゃん」

「あぁ、でも牛串焼きは美味しかったかな。もっとも値段も一番高かったんですけどね」

「………あのさ。お前、お祭り行った?」


 さっきから気になってた事を訊くと


「はい。昨日行きました」


と、黒田はあっけらかんと言った。


「誰と?荒木?」

「いえ、1人で」

「ひっ……とりなら俺を誘えや!」

「いや……だって今日会う予定だったじゃないですか?」

「だからだよ!昨日じゃなくて今日、俺と!行けば良かっただろ?!」

「あぁ……その発想は無かったですね……」

「普通真っ先にその発想になるだろ……」

「元々今日は竹中さんと会う予定だったから、お祭りに行くなら昨日しか無いと思ってました」

「なんでそんな1人で行きたいんだよ……」

「えっ?じゃあ、そんなに言うなら今から行きます?まだ、ドリンクバーしか頼んでないし」


 黒田はそう言うと、伝票を掴んだ。


「……勿体ねぇな。まだ1杯しか飲んでねぇよ」

「どうします?」

「……ちょっと待ってろ」


 俺は半分程残っていたメロンソーダを一気に飲んだのだった。


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