第15話 風流


 夏季限定メニューのかき氷を見て、俺はこの間の出来事を思い出した。


「そういやこの前、電気屋行ったらさ。かき氷機が安売りしてたんだよ」

「夏真っ只中なのに?」


 黒田がその時の俺と同じ感想を溢した。


「おう。多分、発注ミスしたんじゃねぇかな。結構な数が台に平積みになってて、3割引きで700円になってた」

「え~。買いですね、それ」


 目の前の男から、予想外の返しが来た。


「えっ?買う?」

「1000円位のヤツが700円ですよね?買っても良いと思いますけど」

「お前、アレだぞ?プラスチック製で、手動でゴリゴリ削るオモチャみたいなヤツだぞ?」

「でも、夏の間かき氷食べ放題ですよ?」

「買ったところで、絶対そんなやらないって。子供が居るならまだしも野郎の一人暮らしだぞ」

「それなら俺に振る舞って下さいよ」

「嫌だよ。つーか、買ってねーし」

「勿体ない……それ確実にマストバイでしたよ?」

「マストバイでは無いって。タンスの肥やしになるか、すぐ壊れて燃やせないゴミ行きだって」

「ギャンブルばっかやってる割には遊び心の無い人だな……かき氷なんて風流じゃないですか」

「風流~?」


 黒田から似合わない単語が飛び出した事に、俺は鼻で笑ってしまった。


「風流でしょ。“日本の夏”って感じ。窓開けて、風鈴がなってる中、かき氷……めちゃくちゃ絵になるじゃないですか。“エモ”ですよ、“エモ”」

「俺は“エモ”より実用性と涼しさを取るわ。“災害級の暑さ”って言われてるのに、わざわざエアコン止めて窓開ける奴が居るかよ。大体、店で食うかき氷の方が旨いしな」


 俺はそう言って、純水かき氷のイチゴ味を頼む事にした。

 黒田は「無粋な人だな」と言って、バニラアイスを選んでいた。



 後日、再び件の電気屋に行くと、入り口付近の台に平積みになっていたかき氷機は姿を消し、代わりに比較的安価な美容系の電化製品が置かれていた。


意外と皆、買うモンなんだな……


 何だか、黒田のドヤ顔が頭に浮かんでちょっとイラッした。


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