第11話 観たい作品


 ガーリックトーストをチマチマ食べながら、テレビの見逃し配信アプリで番組表を確認していたら、サタデー・ロードショー(通称サタロー)の欄が目に入った。


「今日のサタロー、また【隣のポポロ】かよ」


 思わず、そう愚痴ると黒田が気だるげにアイスコーヒーをかき混ぜながら


「あ~。夏休みの時期になると毎年やってますよね」


と返してきた。


「今年、ゴールデンウィークの時もやってなかったか?」

「ゴールデンウィークの時は【千と千尋の小旅行】じゃなかったですっけ?」

「そうだっけ?てか、ここ数年のサタロー、ポプラ映画やり過ぎじゃね?」


 俺が苦言を呈すると目の前の男は


「サタローは昔からポプラ映画ばっかやってましたよ」


と『やれやれ』といった態度で言った。


「だとしても、最近は同じ作品繰り返し流してるっつーか。昔は高山勇が監督してる方の映画も流してたじゃん。【平成怪奇大戦】とか【蛍の墓守り】とか」

「でも、昔だって高山作品はその二つ位で【思い出ホロロ】とかほとんどやってた記憶ないですよ」

「まぁ……そうだな……」


 俺は一旦、黒田の言い分に納得しかけたが


「……いや~!でも宮坂作品ばっかやり過ぎだって。それかヘンリーポッターシリーズ」


と、再度愚痴ると


「あー。確かに多いですね」


と、今度は黒田が肯定した。


「だろ?」

「ん~……でも、昔も同じ映画ばっかやってませんでした?【天使とラブソングを……】とか【タイムマシーン】3部作とか。それらからヘンリーに変わっただけですよ」


 そう言って黒田はグラスを口に運んだ。俺は何となく奴の言い分に納得がいかなくて、ガキの頃の記憶を手繰りよせた。


「……え~?確かにその二つは多かったけど【沈黙する羊達】とか【マーダー・コレクター】とかホラーミステリー系もやってたって!」


俺がそう食い下がると、黒田はちょっと考える素振りを見せた後


「……。そこらの映画をやってたのって、サタローじゃなくて東テレの“金曜洋画劇場”じゃないですか?」


と言ってきた。


「金曜洋画劇場?」

「僕等が小学生の頃はまだやってた筈ですよ」

「やってた……かも」

「というか、子供も観るようなサタローで【沈黙する羊達】なんてやる訳ないでしょ。あれPG12ですよ?」


 黒田は鼻で笑ってコーヒーを飲み干した。

俺はぐうの音も出なかった。

 俺が渋い顔をしてる事に気付いた黒田は、気を遣うかのように


「まぁ……俺だって同じ映画ばっかりはどうかなと思いますよ?邦画とか漫画の実写作品以外はあんまりやらないし」


と言った。


「うん……。……お前なら何の映画やって欲しい?」


俺がそう訊くと、黒田は間髪入れずに


「悪の教科書ですね」


と、教師が担当するクラスの生徒を皆殺しにする、R15+の映画を挙げ、ジュースのお代わりを取りに行った。


地上波でやれる訳ねーだろっ!!!!!


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