第9話 停止した時の中で


「“時間を止める能力”って悪い事以外にあんまり使い道なくないですか?」


 サラダに入っているエビを最後にまとめて食べる為(俺は好物は最後に食うんだ)、皿の端に集めてる最中に、妙に真面目な顔をした黒田がそんな事を言い出した。


「いや……あるだろ」

「例えば?」

「あん?……移動とか。スイスイ行けるじゃん」

「徒歩とか二輪車ならまだしも、車は厳しくないですか?」

「じゃあ、歩きか自転車にすれば良いだろ」

「折角、時を止めてるのに選択肢が徒歩か自転車ってちょっとショボくないですか?」

「なんなんだよ!……あとはアレだよ。仕事中休み放題。自分の好きな時に進められる」

「それだって、個人作業なら良いけど他の人と進めるタイプの仕事出来ないじゃないですか」

「自分の担当分が終わらせられるだけ良いだろうよ」

「終わらせたら終わらせたで、絶対仕事増やされるでしょ。大体、仕事が終わったところで業務時間内なら帰れない訳だし」

「なんだお前……あっ!それなら休みの日に時間を止めりゃあ良いじゃん。好きなだけ寝放題だしゲームし放題」

「ゲームは無理でしょ。時間止まってるんだから。その間の電力会社からの供給も止まってますよ」

「面倒くせぇ……なら、アナログの遊びなら出来るんじゃねぇの?絵描いたり、楽器弾いたり」

「あぁ。その系統で行くと筋トレとか勉強も出来ますね。……つまり練習や自己研鑽は好きなだけ出来ると……」

「……なんか、悪事以外って考えると、思ったより好きな事出来ないな……」

「だから言ったじゃないですか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る