第3話 ネタバレ


「そういえばさ、『迷宮入り探偵の事件簿』って観てる?」


俺がそう訊くと、黒田はメニュー表から目を離さずに「前に竹中さんが勧めてきたドラマですよね?」と返してきた。


「この間観ましたよ。なんか、事件の解決編でしたけど」

「マジで?!って事は先々週の回だよな!?」

「多分……それがどうしたんですか?」

「いや……実はうっかり見逃しちゃってさ……」


 【迷宮入り探偵の事件簿】とは、東京テレビの深夜枠で放送してるドラマなのだが、2週に渡る前後編で事件が解決するスタイルを取っており、俺は事件の解決編である先々週の回を見逃してしまった。

 俺がその旨を伝えると、目の前の男は「見逃し配信してるんじゃないですか?」とにべもなく言ってきた。


「してたんだけどさ……もう無料の期間過ぎちゃったんだよ……」

「あぁ……大体放送してから1週間位が期間ですもんね。じゃあ、有料で観るしかないですね」

「『有料で』って言っても、あれ、専用のアプリ入れて登録しないといけないじゃん?それは嫌なんだよな。オチだけ知りたい」

「ドラマのファンとは思えない発言ですね。……というか、それならツブヤークでドラマの感想検索してみたらどうですか?」

「今は“Z”な」

「ウッザ……」

「それがさ、感想検索しても全っぜん引っ掛からなくて。あっても『面白かった』とか、そんなんばっかで誰もネタバレしてないんだよ」

「意外とファンの民度が高い」

「そうなんだよ……だから観てたんなら教えて欲しくて」


俺がそう頼むと、黒田は少し考える素振りを見せてから


「いや……あの回はちゃんとドラマ観た方が良いですよ」


と言ってきた。


「なんでだよ!教えてくれよ!」

「竹中さん、ドラマのファンなんですよね?じゃあ、ちゃんと観た方が良いです。あのオチは凄い」

「気になる事ばっか言うんじゃねぇよ!犯人教えてくれるだけで良いんだって!」

「いや~……犯人がどうこうってよりオチが凄い。あと映像が凄かった」

「ホント興味を駆り立てる事ばっか言う……何?どうなるの?」

「俺の口からは……知ってから観たら絶対後悔しますよ?」

「良いよ!多分、観る事ねぇよ!」

「勿体ない……本当に良いんですか?」

「良い良い!俺、ネタバレ気にしないから!」

「………じゃあ言いますけど……」


黒田はそう勿体つけると


「犯人の使用人が爆死します」


と真面目な顔で言った。


「は?」

「爆発して死にます」

「……えっ?物理的に?」

「はい」

「マジ萎えるわ……」


散々勿体つけた挙げ句、嘘を吐かれて俺は脱力した。


「くっだらねぇ。絶対嘘じゃん」

「違いますって!本当に爆発するんですって!」

「100歩譲って使用人が犯人なのは良いよ。爆発ってなんだよ!事件の舞台、ド田舎の地主宅だぞ!」

「いやいや……犯人も死んだ地主も若い頃は過激派テロ組織の一員で、その時の知識を使って爆弾を作ったんですよ!」

「いや~……無理がある。絶対嘘。前編の時の推理と話繋がんねーモン」

「だから!それがミスリードで……」


 俺はまだ嘘を重ねる黒田に苛立ちが募り、トイレに行って自分を落ち着かせる事にしたのだった。



その出来事から数日後、無料見逃し配信アプリの“今期のドラマ特集”で、過去の回が観れるようになった為見逃した回を観たところ、黒田の言った通りのオチだった。

 ドラマを観終わってすぐ、俺は黒田に謝りのメッセージを入れた。


確かにこれはネタバレ無しで観るべきだったわ。





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