第2話 明け方の爺


「最近面白い事とかあった?」


 俺はフライドポテトを食いながら、同じくポテトを摘まむ学生時代の後輩に聞く。


「いやー、無いですね。竹中さんはありました?」

「無いから訊いてんじゃん」

「なるほど」

「つーか。お前、コンビニでバイトしてんだし、変な客とか面白い客とか来ないの?」


 そう水を向けると、黒田は顎に手をやり「いや~……10割腹立つ客なんで……」と呟いた。


「それ、来る客全員じゃん。」

「はい。『こんな時間に来てんじゃねぇよ』としか思わないです」

「接客業向いてねーよ、お前」

「あー……でも、この間ちょっとドキッとした事があって」


 黒田が神妙な面持ちでそう言った。俺が「おぉ!」と身を乗り出すと語り出した。


「俺、深夜から早朝に掛けてバイトしてるじゃないですか。毎日5時頃、犬の散歩がてら80位の爺さんが店に来るんですよ」

「うん」

「で。その爺さん、めちゃくちゃうるさくて。『声が小さい』だの『愛想がねぇ』だの」

「まぁ、お前にも問題はあるけどな。……それで?」

「爺さんが、ある時からぱったり来なくなって。1ヶ月位?」

「おぉ。なんかちょっと心配だな」

「いや、別に。『クレーマーが来なくなって清々したぜ』位にしか思わなかったです」

「それもそうか……」

「そしたら、店長が『あの爺さん、孤独死したみたいだよ』って言ってきて」

「えっ」

「店長曰く『最近、近所で孤独死した爺さんが発見された』って。しかも、死後3週間は経ってらしいって話で」

「あらら……それは色々とキツイな……」


 現場の状況や、第一発見者の心情を想像すると顔をしかめてしまう。俺が発見者なら当分食欲湧かねぇだろうな。


「だから『その亡くなった爺さんが、いつも来てた爺さんなんじゃないか』って」

「来なくなった時期的にも合致するモンなぁ」

「“うるせぇ爺”だとは思ってたけど、俺も流石に『死後3週間も発見されなかったのは不憫だなぁ』って思ってたら……直後に、その爺さんが店に来たんです」

「えっ」


 意外な展開である。

俺が「それは……幽霊的な……?」と訊くと、黒田は


「いえ、生きてました」


とあっけらかんと言った。


「生きてたの?!じゃあ店長の勘違いって事?」

「はい。爺が店出た後に店長と『生きてたね』って爆笑しました」

「なんだそれ!」

「いや~……でも、爺が入ってきた時はドキッとしましたね」


 その時を思い出してるのか、半笑いの黒田に俺は「だろうな」と返して、最後の1本を口に運んだ。


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