◆4◆ 未知なる迷宮へ
ベネットの誤解をどうにか解き、ようやく騒動が収まった。
ホント、レイピアを抜いて襲いかかってきた時は本当に死ぬかもって思ったじゃないか。
だけどまあ、騒動が収まってくれたおかげでやっと転職ができるよ。
だってみんなを転職してくれるアーミー先生がいるんだからね!
「先生、お願いします!」
「はいはーい☆」
僕のお願いを聞いた先生は、何やら妙なものを取り出してきた。
それは手のひらサイズの水晶と、その水晶が設置できる転写装置だ。
これで一体何をするつもりなんだろうか?
「現在のステータスを計らせてもらうわよー」
「あ、そっか。ステータス次第じゃなれない職業がありましたね」
「そうそう。あなたがやってる騎士も結構無理矢理だったから大変だったわよ」
「ごめんなさい。今度は意地を張らずに転職します」
僕(クロノ)はガーランドに挑発されて無理を頼んで騎士になった。
おかげで大変な目にあったみたいだが、ある種の自業自得でもある。
だけど次はそんな思いをしたくない。
なんせ僕はクロノじゃないからね。
それに、せっかく転生したんだ。魔法を使ってみたいってもんじゃないか。
「よし、準備完了。クロノ君、水晶に触れてみて」
「はい」
クロノとしては二回目、僕としては初めての職業鑑定が行われる。
指示通りに水晶に触れると、転写機に備えられていたペンが勝手に動き出した。
そのまま置かれている紙にステータスと見合う職業が記されていき、止まると同時にアーミー先生は紙を手に取ると驚くような表情を浮かべる。
「見たことない職業があるわ」
そういってアーミー先生が見ていた紙を渡してくれた。
えっと、ステータスはさっき見たから別にいいかな。
さて、肝心な職業候補はというと――
【候補一覧】
・ダンサー
・治癒士
・魔術士
・祈祷士
・詩詠み使い
魔法士の名前が若干変わっているけど、そんなことは置いておいて。
お! 【詩詠み使い】があるじゃないか。
これで念願の【詩詠み使い】として活動ができるぞ。
「先生、決めました。僕、【詩詠み使い】にします」
「え? だけどそれは――」
「お願いします。絶対にこれにしたいんです」
アーミー先生はちょっと困ったように笑っていた。
だけどすぐに諦めたのか、彼女は「仕方ないですねぇ」と言葉を漏らしながら承諾してくれる。
「では、始めますよ」
「はい、お願いします!」
「遥かなる天から見守りし女神よ、我が言葉を聞き給え。迷える子羊の新たなる門出を祝うため儀を行います。彼の者の名は【クロノ】――誇り高き【騎士】より闇へ飲まれた刻を詠む【詩詠み使い】へ生まれ変わり給え」
アーミー先生がそう告げると、パァーッと光が差した。
それは神々しく、直視できないほど眩しく、なんだか黄金に輝いている。
これが転職の儀なんだ、っと思っているとアーミー先生が目を大きくしてこんなことを行った。
「きゃーっ! 何これ、こんなの初めてなんですけどぉー!」
先生にとって予想外のことが起きたそうだ。
一体どんなことが起きたんだろうか。
ひとまず僕は自分のステータスを見てみる。
職業が【詩詠み使い】に変わったから、いろいろと能力値が変わっているはずだ。
クロノ レベル3
HP:27/30(-7)
MP︰45/50(+5)
攻撃力:28(-4)
防御力:17(-10)
魔攻力:52(+8)
魔防力:44(+3)
俊敏力:40(+2)
回復魔法力:59(+12)
阻害魔法力:36
補助魔法力:55(+10)
騎士をやっている時よりも遥かにステータスがいい。
でもさすがに物理面は弱いかな。
前衛ができなくなったから、もしパーティーを組むなら前衛を受け持ってくれる仲間がほしいところかな。
「すっごいんだけど! ちょっと、今のですごいスキルポイントが手に入ったんだけど! きゃー! もしかして演出? 演出がすごかったから? もうこんなのありえないんだけどぉー!」
なんだかアーミー先生は興奮している。
それはもう、キャラ崩壊するほど興奮しているよ。
「あ、あのアーミー先生?」
「クロノ君! ありがと、今すごいことになっているからちょっと待ってねッ。あ、後でオマケしてあげるから本当に待っててね!」
アーミー先生に何が起きているんだろうか?
よくわからないけど、たぶんギフト関連だろう。スキルポイントって言ってるし。
とりあえず、落ち着くまでアーミー先生は放っておこう。
「とりあえずこれで目的達成かな。よし、それじゃあさっそくっと」
僕は黒い石碑に目を向けた。
騎士だと見つけられなかった文字を発見できるのか、と期待を抱きながら見上げてみると青く輝く文字が目に入る。
おお、見なかった文字が見えるよ。
ちょっとワクワクしながら文字を眺め、声を出して読み上げた。
「〈私はあなたを許さない〉〈だからずっとあなたが戻ってくるのを待っている〉」
んん? なんだこれは?
なんだか妙な言葉だ。
許さないのに、なんでずっと戻ってくるのを待っているんだろうか?
僕が頭を捻ると、この言葉を聞いたリリィ先生が「ふむ」と考え始めた。
何か思い当たるものがあるのだろうか?
気になったので僕は思い切ってリリィ先生に訊ねてみた。
「何か思い当たるものがあるんですか?」
「いや、たいしたことではない。単なるおとぎ話でな」
「おとぎ話?」
「そうだな、君は【シャルロットの誓い】というのを知っているか?」
「あー、確か
「そうだ。といってもそれは子供向けにバリバリに改造されたものだがな」
「え? そうなんですか?」
「本当の物語は複雑で、ドロドロとしていて、なかなかに心を抉る愛憎劇だ。語ってもいいが三日かかる。聞くか?」
「遠慮させてもらいます」
三日もかかるおとぎ話なんて聞きたくないよ。
それにしても、そんなおとぎ話とこの黒い石碑は何の関係があるんだろうか。
「そうか、残念だ。久々に語るのもいいと思ったんだがなー」
「それよりも、その話と石碑にどんな関係がありそうなんですか? 気になるんですけど」
「そうだな、簡単に話すと生涯独り身を貫いたシャルロットなんだが、一度だけ淡い想いを抱いた男性がいたんだ」
「そんな人がいたんですか。絵本じゃあ出てきませんでしたよ」
「仕方ないさ。なんせその男性を巡ってドロドロとした恋愛模様が繰り広げられたからな」
「それは、すごいですね……」
「もしかしたらそれで許さなかったのかもしれないなって思ったんだ。まあ、違うかもしれないがな」
「ちなみにその男性の名前ってわかります?」
「ああ、当然だ。確かあいつの名前は――フレデリック」
何気ない会話。
何気ないやり取り。
単なる興味本位で聞いたことだ。
だけど、それがキッカケ。
全てが始まる引き金だ。
僕はそのことを知らなかった。
もちろん、この場にいる誰しもが知らなかったんだ。
だけど、リリィ先生がその名を口にした瞬間に黒い石碑が青く輝き始めた。
「えっ」
「なっ」
青い輝きと共に風が起きる。
それはリリィを飲み込むと姿を消してしまった。
一体何が起きたんだ?
僕があまりに突然な出来事に立ち尽くしていると、ベネットが「あれ!」と叫んで指を差した。
振り返るとそこには黒い石碑があり、なかったはずの穴が開いていた。
「これは――迷宮の入り口」
何が起きたかわからない。
だけど、目の前には迷宮へ通じる出入り口がある。
リリィ先生はおそらくこの奥にいるんだろう。
「クロノ、これって」
「うん、迷宮の入り口だね」
「ど、どうするの?」
「行くに決まってるよ!」
どんなことが待ち受けているかわからない。
もしかしたらとんでもないモンスターがいるかもしれないし、死ぬ思いをするかもしれない。
それでも、行きたい。
この奥に何があるのか、この目で見てみたいんだ。
「誰か呼んだほうがいいと思うけど」
「そんなもったいないことできないよ。行こう、ベネット! 二人で楽しい探索に!」
僕は手を差し出す。
ベネットはちょっと迷いを見せたけど、この手を握ってくれた。
「それをいうなら、リリィ先生を探しに、でしょ」
見たこともない迷宮。
どこかに消えたリリィ先生を探しに、僕とベネットは未知なる迷宮へ飛び込んだ。
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