第16話 リリス

「ひ……。」


思わず声を漏らしてしまう。その声は自分とは圧倒的に格の違う存在だと改めて認識させられる。王と魔王では強さや力は一目瞭然。圧倒的な暴力…国王の権力など簡単に打ち消すようなそんな力を魔王は持っている


「おい…目ェ見ろ…。」


髪を掴まれ、強制的に目と目を合わせられる。


「う……。」


ただでさえ、視界に入れなくても本能で恐怖を感じさせられるような目とゼロ距離で合わせられる。並の人間は気絶どころじゃすまないだろう。恐怖で涙を浮かべ、目を逸らそうとする


「目ェ逸らすな…次やったら殺す。」


そう言って彼の顔を固定する。逃げられないようにしっかりと力をこめて固定する。


「ねぇ、見たよね。遠くから見てたよね。」


今度は聖母のような優しい声で聞いてきた。表情は先ほどと違って微笑んでいたが、その声や表情は余計アルミニウスに恐怖を与えるだけ。


「み…見ていない…。」


「ほんとに〜?じゃあもう一回チャンスあげるね?見た?」


「見ていないと言っているだろう…。」


「ふ〜ん、そっかぁ…。」


表情は崩さないまま、空いている手で彼の右手を掴み、目の前に持ってくる


「ねえ知ってる?指って色んな方向に曲がるんだよ?」


固定させていた手を離し、彼の指を人差し指と親指で摘んで指をぐるぐると回したり、曲げたりしていじる


「な、何を言っている…?」


「例えば握る時にこうやって曲げたりぃ…広げる時はこうやって真っ直ぐに立てたりィ……。」


「だ、だからお前はな、何を…。」


だがそんな言葉も無視して話を続ける


「でも実はやり方次第ですご〜く柔らかくなるんだァ……。」


笑顔でそう言って小指を掴む


「お、おい…まさか…!?」


「よ〜く見ててね〜!」


「やめろ…やめろ!!!」


そして掴んだ指を横に折った


ボキッ


「あああああああああああああ!!!!!」


自分の指の骨が折れる音が響いた。そしてその後の激痛も襲ってくる。小指はただブラブラと垂れ下がっているものになってしまう。


「はァ…はァ…♡じゃあ…今度は薬指やってみよっかァ…♡」


恍惚な顔で苦しむ姿を見下ろしながら薬指を掴む。


「離せ!!やめろ!!!やめろ!!!正直に言う!だからや」


必死に振りほど解こうと体を全力で後ろに体重をかけるが魔王の圧倒的な力で離すことは叶わない。そして…


「えい♡」


ボキッッッッ


「あああああああああああああ!!!!!!!!!痛い!!!痛い!!!!」


「何を正直に言うって?」


「わ、私が…お前を…遠くから見たことを…。」


激痛を堪えて必死に言葉を搾り出す。心の中ではどうにかしてこの状況を切り抜けるか頭をフル回転させている。


(どうにかして逃げよう…倒すのは絶対に無理だ…ここは正直に言うしかない…みんな…本当にすまない……!私は王失格だ…!)


「うーん…じゃあ正直に言ったらやめてあげるね!」


「わ、わかった…。ま…まずは、謝罪しよう…嘘をついてすまない…ほんとは見ていたんだ…最初からではないが…途中から最後まで見ていた…不快にさせてしまったのなら本当に申し訳ない…。」


生きたい、生きたいと頭の中がいっぱいになる。ただやつは『やめてやる』といったが嘘をついてまた始めるだろう、そう思って覚悟を決めた……しかし






「そうなんだ…ご…めん…なさい…。」






なんと予想外の返答が返ってきた。


「な……!?」


掴んでいた指を離し、彼を解放した。


(どういう風の吹き回しだ…?これは罠か…?まだ油断してはいけない…これはきっと奴の罠だ…!)


「な、なぜだ!?なぜ何もしてこない!?」


「ひっ…怒らないで……これ以上僕を……いじめないでぇ……。」


さっきまで人を愉快に痛ぶっていたはずのやつが涙を流し、うずくまって泣き崩れている。まるで別人になったかのように。アルミニウスは目の前に広がる状況を処理できずにいた。


(どういうことだ…!?一体何が起きている…?)


『いじめないで』というがやっていたのはむしろあっちの方だ。なぜ自分がやったのに『いじめないで』と言えるのだろうか。


「ふ、ふざけるな!!さっきまでやっていたのは貴様だろう!どういう風の吹き回しだ!!!」


「うっ………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………!」


なぜか謝りだす。ますます状況が混沌と化していく。


(ますますわからない…ん…?待て。奴の性格はそんなひ弱なものではなかった…ただニコニコと平気で人を殺すような…そんなやつだ…なのに急に泣き出して謝るのは普通はありえない…!ただ、あの目は罠とは考えにくい…!まるで別人のようだ……。)


彼は思考に思考を繰り返し一つの結論に至った


(まさか……!?)


「名前は何というのだ!?」


彼女は嗚咽をあげながら







「リリス…僕の名前は………リリス………。」





<>



「うう…。」


ガイアは重い瞼を上げると目の前には真っ白な空間に広がっていた。首を動かして周りを見渡す



「ここどこだよ⭐︎」

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