第30話 休養せざる人々


「テディまで! みんなどうしてそうすぐ復帰したがるの? 自己管理がなってないわよ」


「その「なんとかの塔」の維持装置を破壊できるのは、私だけです。『フローラ』とやらは石さん、大ボスの「塔」は私。ボスは後ろで指揮をしていればいいってわけです」


「そんな、あまりにも無謀すぎるわ……」


 私がどう言ったら静養の命令を聞き入れてくれるのだろうと頭を抱えた、その時だった。


「ボス、私も行きます」


 そう言って唐突に席を立ったのは、ヒッキこと古森だった。


「ヒッキ……あなたまで」


「もし敵が予想外に手強くて石さんも荻原さんも歯が立たなかった時は、私がその「塔」ごと全部燃やします」


 古森はそう言うと眼鏡をほんの少しだけずらした。古森の目は『サラマンダーの目」と言って見つめた物をたちどころに燃やしてしまうのだ。


「ヒッキ、施設には依頼人の教授もいるのよ。敵はともかく依頼人まで燃やしたら意味がないわ」


「それは、そうですけど……」


「とにかく、私たちがやらなくちゃならないのは『フローラ』と『緑衣の塔』を眠らせて花菜さんと教授を助けること。でも……さすがにそこまで行くと探偵社の力量では無理だわ」


「その「なんとかの塔」がある場所はわかっているんですよね? だったらそいつを眠らせる薬を見つければいい。見つけたら私とヒッキは部屋の前で『フローラ』と応戦、ボスはテディと「塔」を眠らせることに集中する――」


「……わかったわ。じゃあその案を採用します。ただし――」


 私は部屋にいる全員を一渡り見回すと、大きく息を吸った。


「ここに戻って来るまでは、一人の犠牲者も出さないことを各々誓って下さい。教授や花菜さんだけではなく、うちの調査員も全員無傷で戻ってこなければやる意味がありません」


 私がそう言い放つと、一呼吸おいて全員がしめしあわせたように同時に声を上げた。


「OK、ボス!」

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