第13話 黎明期の若い所長
応接コーナーで「過去の叔父」と向き合っていたのは、眼鏡をかけた学者風の男性だった。
叔父と同年代に見えることから、男性は依頼と言うより何かの相談をしにやって来たように思われた。
「明島君」
男性がそう叔父にそう呼びかけると、叔父は膝の上で手を組みぐっと身を乗り出した。
「前にも言った通り『緑衣の塔』が、われわれ人間と意思を通わせる「精神感応力」を持っていることはほぼ疑いがない。そこで――」
男性はいったん言葉を切ると、すうっと深く呼吸をした。
「感応能力に対して耐性のある人間を、研究所に寄越して欲しい――平たく言うと「超能力者」の暴走を止める仕事を手伝って欲しいのだ」
「暴走を止める?」
「そうだ。『緑衣の塔』を覆っている『サイコネフィス』は、自分を進化させる変異株を手近な人間を操って手に入れようとしている節がある」
「まさか……」
「一旦奴が「進化」してしまったらもはや我々研究者は奴らの僕だ。そうなる前にこちらも「超能力者」を相手にする覚悟で奴の能力を抑制しなければならない」
「具体的には?」
「苔に心を読まれぬよう、抑制効果のある変異株を『緑衣の塔』に植え付けるのだ。変異株の収納場所は今のところ私しか知らないが、このままではいずれ奴に心を乗っ取られるだろう」
「なるほど、話はわかった。しかしどうやってその変異株とやらを『緑衣の塔』に植えつけるか、かなり策を弄する必要がありそうだ。誰を現地に向かわせるかの選択も含めてね」
「私も可能な限りの協力をするつもりだ。だが、あまり時間がないのだ。……頼む明島」
「とにかく、数日中になんとかしよう」
「すまん」
学者風の男性は叔父に深々と頭を下げると、立ちあがって身を翻した。私が反射的に「幽霊」の身体を縮めると、男性は私に一切気づくことなくドアを開け事務所から立ち去った。
※
私の知らない「過去」の事務所で初代所長――つまり叔父は、部下たちにてきぱきと指示を出し始めた。もちろん、私はそんな場面を一度だって生で見たことはない。
「さて、この依頼は少々込み入っているから調査の内容を詰めるのは明日にしよう。石亀調査員、昨日終わった調査の報告書はできているかな?」
「はい。先ほど終わりました」
「よし、じゃあ今日はもう上がってくれ。……それと荻原君」
「はい」
荻原はソファーからのっそりと立ちあがると、叔父のいる机の前に進んだ。
「君はまだ試用期間だから今日は三時までで上がってくれ。明日、会議をするからその内容次第では正規の調査員に格上げとなる予定だ」
「わかりました」
「羽月君は事務所を閉めた後。私と一緒に来てほしい。会わせたい人がいる」
「会わせたい人……?」
私はどきりとした。叔父が羽月さんに会わせたい人ですって?
――よし、どうせ『幽霊』なんだしついて行ってみよう。
私は石亀と荻原が退室して静まり返ったオフィスで、自分の先輩と上司を「調査」するという本末転倒に近い行為に及ぼうとしていた。
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