第11話 現物理論
我が探偵事務所の調査員たちには、他の事務所にはない個性――いや、特殊能力がある。
たとえば最年長の石亀には、手を使わずに物を動かす力がる。重機とかドローンを使えるという話ではない。本当に離れた場所にある物を動かせるのだ。
そう、オカルトでおなじみの「念動力」だ。
これが信じられなければ、この後に続く能力を受け入れるのは無理だろう。
二番目に古い荻原は、電気を操る「電子機器使い」だ。手から球状の電気を放つ『エレクトリック・スナイプ』という技もあるが、普段は使わない。
私たちの仕事は調査であって、誰かと戦うことではないからだ。にも拘らず荻原はごくまれにこの技を使わざるを得なくなることがある。外部の脅威から、身を守るためだ。
どうしてそういう事態になるのか? 残念ながら、私にもわからない。
その次は大男の金剛と、小柄で機敏な大神だ。
金剛の能力は――この辺りから説明するのが大変になって来るのだが――「瞬間移動」だ。
さすがにこればかりは、直に目で見ないことには信じられないだろう。しかし、私は誰が何と言おうと金剛のこの能力を信じる。
二代目所長を拝命してまだ四カ月足らずだが、金剛のお蔭で助かった回数は両手の指でも足りないくらいだ。
大神の能力は「変身」だ。
もちろん「変装」がうまいとか、そういうことではない。彼はある条件が揃うと本当に変身してしまうのだ。……黒い小さな犬に。
ごくまれに金色の狼に変身する時もあるが、せいぜい二、三分が限界だ。
しかし私はこの黒い子犬にも、金剛に負けないくらい何度も助けられているのだ。
ちなみに石亀もある種の変身能力を持っているが――まあそのことはおいおい、説明することになるだろう。
経理の古森はちょっと特殊で、複数の能力を持っている。
古森の眼鏡を外した目は、見た者に異変を生じさせる能力を持っているのだ。
一つ目は見た者の中枢神経を麻痺させ、動けなくさせる『メデューサの目』。
もう一つは見た者の服や持ち物を一瞬で燃え上がらせる『サラマンダーの目』だ。
これらの能力はもちろん、普段は使わない。本気になれば空を飛ぶこともできるのだが、本人も私もできれば能力を使わずに済む案件であって欲しいと常に願っている。
古森の天敵はある両生類で、視界に入ると気絶してしまう。とことん、内勤向きの性格なのだ。
もう一人、掃除やその他の雑務を請け負っている久里子さんという女性がいる。
実はこの久里子さん、元アクション女優で常人離れした身体能力の持ち主でもあるのだ。
過去に『百人組手の久里子』なる異名を賜っただけあって、私も彼女のただならぬ強さを何度か目の当たりにしている。
以上が我が『絶滅探偵社』が誇る精鋭たちの「特殊能力」である。
信じる信じないは自由だが、彼らの能力がなければ少なくとも私は今、こんな風に生きてはいないだろう。
私にとって、部下の「超能力」は電灯が点いたり蛇口から水が出たりするのと同じくらいごく日常的なことなのだ。
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