第49話 何が起こっているのでしょうか?

「マーデン、勝手にリリアナのカバンを触るのはやめてくれ。そこのメイド、本当にリリアナに指示され、イザベル嬢に毒を盛ったのか?」


 すっと腰から短刀を抜いたクリス様が、メイドの喉元に剣を当てた。


「は…はい、本当でございます」


「もう一度聞く、本当にリリアナに指示されて、イザベル嬢に毒を盛ったのだな?」


「…はい…」


「そうか、分かった。そこまで言うのならカーラ嬢の言う通り、覚悟が出来ているという事だな。この女を公爵令嬢を陥れようとした罪で、今すぐ地下牢に連行してくれ」


 クリス様付きの護衛に、指示を出すクリス様。一体何を言っているの?クリス様は何を考えているの?私のカバンから毒が出て来たのに…


「クリス、気持ちは分かるが、リリアナ嬢のカバンから毒が出てきたのだよ。それなのに、どうしてメイドが捕まるのだい?彼女は、リリアナ嬢に脅されて…」


「マーデン、口を慎んでくれるかい?この毒は、リリアナのカバンから見つかったものだよね。という事は、リリアナが触っていなければおかしい。そうだよね?」


「クリス、一体何を言っているのだい?」


「君たち、今すぐこの毒の瓶の指紋を調べてくれ」


「かしこまりました」


 えっ?指紋ですって?この国でも、指紋を検出する事が出来るの?


「クリス、指紋とは一体何なんだ?」


「僕たちの手には、指紋と呼ばれる特殊な模様が付いているのだよ。その模様は、皆違う。他国では、その指紋が重要な証拠になるらしい。ちなみにこの特殊な液を使う事で、この瓶に誰の指紋が付いているのか分かるらしいよ。わざわざ他国から、僕が取り寄せたんだ」


 笑顔のクリス様。


「リリアナ嬢、マーデン殿、それからそちらのメイドの方も、まずは指紋を取らせていただきますね」


 男性が私たちの指紋を採取しにやって来たのだ。


「リリアナ、痛くないから大丈夫だよ。僕が傍にいるからね」


 私の肩を抱き、優しく微笑むクリス様。いつものクリス様の優しい眼差し、なんだかホッとする。


 私達の指紋を取った後、すぐに鑑定を行っている男性たち。きっと王宮から連れて来た人たちなのだろう。


「殿下、結果が出ました。メイドとマーデン殿の指紋は検出されましたが、リリアナ嬢の指紋は検出されませんでした。ただ、もう1人、誰かの指紋が浮かび上がっております」


「ありがとう、誰かの指紋とは、一体誰だろうね?そういえば今回、イザベル嬢のお茶に毒が入っていたのだよね。念のために、イザベル嬢も、指紋を取らせてもらってもいいかい?」


 笑顔でクリス様が、イザベル様に近づいた。


「ど…どうして私の指紋を?私は被害者なのですよ」


「でも、この毒からは犯人だと疑われているリリアナの指紋は検出されなかった。リリアナが持っていた毒なのに、リリアナが1度もこの毒の瓶に触っていないだなんて、おかしいよね?まあ、念のためだから、そんなに深刻に考えなくていいよ。それとも、指紋を取られると困るのかい?」


 クリス様の目が鋭くなった。


「わ…私は…その…」


「それではイザベル嬢、失礼いたします」


「ちょっと、勝手な事をしないで!」


 イザベルが抵抗する間もなく、指紋を取った男性たちが、すぐに鑑定を行っている。すると…


「イザベル嬢の指紋と、一致しました」


「そうか、ありがとう。イザベル嬢、どうして君の指紋が、毒の瓶についているのかな?そして持ち主でもあるリリアナの指紋が付いていない。これはどういう意味だろうね?」


「そ…そんな指紋だなんてもの、信用性がありませんわ。これはでっち上げです」


「何をおっしゃっているのですか?他国では、重要な証拠として使用されることが多いと、先ほど殿下から説明があったでしょう。我が国でも、これから積極的に採用して行こうとしているものなのです」


「ですが、こんなものを急に持ち出しても、信ぴょう性がありませんわ」


「イザベル嬢の言い分は分かったよ。それじゃあ、この男性たちに見覚えがあるかい?」


 今度は縄でくくられた男性たちが、連れてこられた。見るからに悪そうな顔をしている。


「こ…こんな方たち、知りませんわ」


「イザベル嬢は知らないと言っているが、君たちはどうだい?」


 笑顔で男たちに声をかけるクリス様。この人たちは、一体誰なのだろう?


「あの女だ。俺たちに毒を売って欲しいと言ったのは。ピンク色の髪のべっぴんだったから、よく覚えている」


「う…嘘です、私、こんな柄の悪い男たちなんて、知りませんわ。この人たちは、一体何なのですか?」


「彼らは隠れて毒を栽培し、売りさばいていた組織の人間だ。先日、王都に潜伏しているところを、一斉清掃したんだ。その時の顧客名簿に、君の名前もあったんだよ。ほら、これがそうだよ」


 今度は組織から回収したと思われる名簿を、おもむろに出したクリス様。そこには確かに、イザベル様の名前も記載されていた。それにしても、本名で毒を買うだなんて…


「この組織は、貴族限定で取引をしていた様でね。他にも貴族たちの名前がいくつも並んでいたよ。まさかこんなにも、裏の組織と繋がっていた貴族がいただなんて。まあ、彼らの処罰はおいおい行うとして、今はこの事件を解決しないとね。さて、どうして被害者の君が、こいつらから毒を買ったのかい?」


 クリス様の問いかけに、いつの間にか集まった沢山の貴族や先生たちが、イザベルに注目している。


 まさかクリス様が、あのイザベルを追い詰めているだなんて…

 一体どうなっているの?

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