第50話 私が知らないところで動いてくれていた様です

「そ…そんな名簿、出鱈目ですわ。そもそも毒の瓶は、リリアナ様のカバンから出てきたのでしょう?だからリリアナ様が犯人に違いありませんわ」


「そんなもの、誰かがリリアナ様のカバンに毒の瓶を入れたとしか思えませんわ。リリアナ様は毒の瓶を触れずに、どうやって持ち歩くのですか?触れずに自分のカバンに入れるだなんて、そんな事は不可能です!」



「確かにカーラの言う通り、毒の瓶に触れずに持ち歩くだなんて、不可能だ。だとすると、毒の瓶に触れた人物が、リリアナ嬢のカバンに入れたと考えるのが、普通だね。メイドかマーデン殿かイザベル嬢の誰かという事か」


「カーラ様やカシス様の言う通り、さすがに瓶に触れていないリリアナ様を犯人だと言い張るのは、無理がありますわ」


「きっと誰かが、リリアナ嬢を陥れるために、リリアナ嬢のカバンに毒の瓶を入れたんじゃないのかい?」


「イザベル様は、以前リリアナ様に教科書を破られただの、頬を打たれただの、水を掛けられただの、虚偽の証言をしておりましたものね」


「ありましたね。結局カーラ様が、イザベル様が自分で行っている証拠の映像を見せて下さったから、イザベル様の虚偽だとわかったのでしたよね」


「リリアナ様がイザベル様を虐めていたと証言した令息たちは、皆イザベル様と関係を持っていた令息たちばかりで…その中には婚約者のいる令息たちもいて、婚約破棄騒ぎにまで発展したのでしたわ」


「それ、私ですわ。慰謝料を頂き婚約破棄をいたしましたが、未だに腹の虫がおさまりませんわ。そもそもイザベル様は、あの頃からリリアナ様を陥れようと必死でしたもの。今回の件も、きっとイザベル様の自作自演ですわ」


「いくらリリアナ様の事が気に入らないからと言って、毒殺未遂の犯人に仕立て上げるだなんて…最悪リリアナ様の極刑もあり得ますのよ。さすがにこれは、重大な事件ですわ」


 ちょっと待って!一体どういうことなの?


「あの、皆様、先ほどの話は本当ですか?」


 恐る恐る令嬢たちに声をかける。すると、皆がハッとした表情を浮かべ、カーラを見つめている。カーラは、はぁ~っと、ため息をついている。


「あの…さっきのお話しは本当ですわ。リリアナ様が心を痛められるから、内緒にして欲しいとカーラ様に言われていたのですが…」


「カーラ、私の為に陰で動いてくれていたのね。ありがとう」


「私はお礼を言われる事はしておりませんわ。リリアナ様には余計な心配をおかけしたくなかったのですが…」


 そう言って苦笑いをしているカーラを、強く抱きしめた。私が知らないところで、必死に動いてくれただなんて。本当にカーラらしいわ。彼女はそういう子だものね。


 イザベルは漫画通りに動いていた、ただ、カーラが全て握りつぶしてくれていた為、私の耳には入ってこなかったという訳か…


「そろそろ本題に戻ってもいいかな?さっきの証言にもあった様に、イザベル嬢はリリアナを何度も陥れようとしていたね。今回もリリアナに無実の罪を着せようとしたのではないのかい?」


「私はその様な事をしておりませんわ。そもそも、私がリリアナ様を陥れようとしたという証拠はあるのですか?そうですわ、もっとちゃんとした証拠があるなら、出してください」


 ここまで追い詰められても、まだ強気なイザベルに、不安が募る。そんな私に気が付いたクリス様が、スッと私の肩を抱いた。


 “リリアナ、心配しなくても大丈夫だよ。君は僕が必ず守るから”


 そう耳元で呟くクリス様。


 この断罪劇が始まった時、もうダメだと思った。でも、まさかクリス様がここまで色々と動いて下さっていただなんて…


 クリス様だけではない。カーラも私の知らないところで、動いてくれていたのだ。それが嬉しくてたまらない。


 いつの間にか私は、大切な人たちに守られていたのね。そう思うと、涙が込みあげてきた。


 ダメよ、まだ泣いたら。まだ私の無罪が証明されたわけではないのだから。そう思い、そっと涙をぬぐい、クリス様の方を見つめた。


 彼は誰かを見つめている。視線の先は、マーデン様だ。


「マーデン、君に聞きたい事がある。君はリリアナを僕の婚約者から引きずり下ろしたいと考えるイザベル嬢の、手助けをしたよね?違うかい?」


 真っすぐマーデン様を見つめるクリス様。


「お…俺は本当に何も知らない。そもそも、イザベル嬢がリリアナ嬢を陥れたという証拠はないじゃないか。クリスこそ、リリアナ嬢を愛するあまり、被害者でもあるイザベル嬢を犯人にしたいと考えているのではないのかい?」


 明らかにマーデン様が動揺している。


 クリス様の方をみると、一瞬悲しそうな顔をしたと思ったら、すぐに真顔に戻った。


「分かったよ…それじゃあ、これを見てもまだ同じことが言えるのかな?カシス殿、準備は出来ているのかい?」


「ええ、ばっちりですよ」


 カシス様の方を見ると、何やら大きなモニターが準備されていた。一体何が始まるのだろう。

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