第48話 いつの間にここまで話が進んでいたのですか?

 とにかくまだ何も起こっていないのだから、もしかしたらまだ、イザベルは動いていないのかもしれない。漫画の世界ではいつ頃噂が広がり、いつ頃リリアナが断罪されたのか、詳しい次期は明記されていなかった。


 もしかしたら、かなり長い期間を要して、話しが進んでいたのかもしれない。そう考えると、今はまだイザベルの準備段階なのかもしれない。とはいえ…半年も何も動かない事なんて、あるのかしら?


 貴族学院は2年しかないし、2年生になった描写などはなかったから、私の感覚だと1年生の間に断罪されたような気がするのだけれど…


 う~ん、考えれば考えるほど、頭が痛くなる。


「リリアナ、本当にどうしたのだい?今日の君、様子がおかしいよ」


「リリアナ様、体調でも悪いのですか?医務室に行きますか?」


 クリス様とカーラが、心配そうな顔をしている。いけない、私ったら、また考え事をしてしまったわ。


「いえ、何でもありませんわ。それよりもクリス様、最近お窶れになった気がするのですが、クリス様こそ大丈夫ですか?」


 そう、ここ数ヶ月、なぜかクリス様が見る見るやつれていくのだ。漫画ではこんな事はなかったはずなのだが、一体どうしたのだろう。


「いや…ちょっと最近、色々と忙しくてね。でも、僕は大丈夫だよ。僕の事は心配しなくてもいいよ。さあ、昼食を頂こう。今日もリリアナの好きな料理を、いっぱい持ってきたよ」


「私もリリアナ様のお好きなお料理を持ってまいりましたわ。カシス様の好きなお料理も持ってきたので、一緒に食べましょう」


「僕もカーラが好きな料理を、たくさん持ってきたよ。交換して食べよう」


 私の事を気にかけてくれているカーラだが、婚約者のカシス様とも仲が良い。カシス様はあまり前に出るタイプではないが、それでもいつもカーラに寄り添っている。きっとカーラには、こうやって支えてくれる人が合うのだろう。漫画の世界では、散々イザベルにこき使われていたカーラ。


 どうか今の世界では、幸せになって欲しい。そう願っている。


 和やかな空気の中、昼食を頂いていた時だった。


「お嬢様、そのお茶は飲んではいけません…そのお茶には、毒が…申し訳ございません!私がいけないのです…私が…うぁぁぁぁぁん」


 ん?一体何の騒ぎだ?


 騒ぎの方を向くと、そこにはイザベルと彼女のメイドがいた。メイドは泣き叫び、うずくまっている。


 待って、この光景、どこかで見た様な…


 一瞬にして血の気が引いていくのが分かった。そう、このシーン、リリアナのイザベル毒殺未遂事件の時と一緒だわ。そうよ、最初あんな感じで、メイドが騒ぎ出したのだわ。既に1人ボッチになっていたリリアナは、1人寂しく教室で食事をしていて、この騒ぎをまだ知らなかったのよね。


 騒ぎを聞きつけた先生によって、訳が分からないまま中庭に連れてこられて、そしてそのまま…


 どうして今、このシーンが再現されているの?多少状況は違うけれど、間違いなくこれから、私が無実の罪で断罪される。


 そんな…


 私、まだ何も準備をしていないわ。


 結局私は、無実の罪で殺される運命なの?


 フラフラとその場を後にしようとした時だった。


「お嬢様、申し訳ございません。リリアナ様に脅されて、お嬢様のお茶に毒を…実は私、家族を人質に取れていて。家族の命が惜しければ、この毒をお嬢様に飲ませろと。いくら家族の命が大切でも、私は人としてやってはいけない事をやってしまいましたわ」


 大きな声で泣きだすメイド。


 その瞬間、一斉に皆が私の方を見る。


「わ…私はその様な事は…」


「リリアナ様がそんな事をする訳がないでしょう?あなた、一体どういうつもりなの?公爵令嬢のリリアナ様を陥れようとするだなんて、もちろん覚悟は出来ているのよね?」


 にっこり微笑んだカーラが、メイドに問いかける。ただ、目は笑っていない。


「わ…私は嘘などついておりません。リリアナ様のカバンに、私が入れるように指示された毒が入っているはずですわ」


「ちょっと鞄を失礼するよ。確かに毒の様な小瓶が入っていた。やっぱりリリアナ嬢が…」


 すかさずマーデン様が私のカバンを奪い取り、仲から毒を取り出したのだ。完全にやられてしまったわ。


 結局私は、このまま殺される運命なの?

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