第8話 クリス殿下が訪ねてきました

「肌荒れにはこのお化粧水がお勧めですわ。領地から取り寄せているのですが、保湿力が高く、炎症を防止する効果もあるので、カーラ様のお肌にも合うかと。それからこちらのお菓子、甘みがあるのに、とても低カロリーなのですよ。私も甘いものに目がなくて。でも、やはり太るのは嫌でしょう。ですから、いつもこのお菓子を食べておりますの。よかったらどうぞ」


 肌荒れに悩むカーラに、私なりにアドバイスをしていく。彼女は侯爵令嬢だ、決して貧乏ではない。むしろ身分も高く、本来ならメイドたちがしっかりケアを行うべきなのだが…


 生憎ろくでなしカルロスによって、メイドたちはきちんと仕事をしていなかった為、肌荒れや少しふくよかな体のカーラが出来上がっているのだ。その点を物凄く気にしているカーラに、私のお勧めを紹介しているのだ。


「私の為に、わざわざありがとうございます。私、リリアナ様のお隣に並んでも恥ずかしくない様に、頑張りますわ」


「別に今のカーラ様のままでも、私の隣に並んでも問題ありませんわ。ですが、令嬢として美を意識する事は良い事です。それからカーラ様、メイドはあなた様の最大の味方でなければいけないのです。もちろん、理不尽な要求はいけませんが、あまり横暴なメイドには、毅然とした態度を取ると良いですわ。あなた様は、メイドたちとってのご主人なのですから」


「私が主人…ずっとお兄様から虐げられていた為か、いつしか侯爵令嬢としての振る舞いを忘れておりましたわ。リリアナ様、私の為に本当にありがとうございます。こちら、全て買い取らせていただきますわ」


「これは差し上げますわ。ですから、どうか私の事を裏切らないで下さいね」


 多分カーラの性格上大丈夫だと思うが、漫画では敵だったため、まだ警戒心が解けないのだ。


「私がリリアナ様を裏切るだなんて…そんな恩知らずな事は決していたしません。もしリリアナ様に酷い事をする輩がおりましたら、私が全力で成敗いたしますわ」


 確かに漫画のカーラは、その言葉通り罪もないリリアナを成敗したものね…


「カーラ様、その様は事をして頂かなくても大丈夫ですわ。どうかこれからも、仲良くしてくださいね」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


 少し恥ずかしそうに、カーラが笑った。まだあどけない10歳の少女の笑顔だった。もし彼女もイザベルなんかに出会ってなかったら、令嬢として幸せに暮らせたかもしれない…


 ある意味、カーラもイザベルの被害者なのだろう。彼女の笑顔を見ながら、ついそんな事を考えてしまう。


「お嬢様、お取込み中申し訳ございません。クリス殿下がお見えになられているのですが…」


「えっ?クリス殿下が?」


 困惑した表情のメイド。そりゃそうだろう、本来王太子でもあるクリス殿下が、正式に婚約を結んでいない令嬢の家を訪ねてくるだなんて。それにたとえ婚約を結んでいたとしても、必ず事前に連絡を入れてから来るはずだ。


 もしかしてお父様の方には、連絡が来ていたのかしら?


「本日いらっしゃるという事は、事前に連絡が来ていたのかしら?」


「いえ…どうしてもお嬢様とお話しがしたいと、無理を承知でいらしたそうです」


 私とどうしても話がしたい?一体何の話だろう。ただ、わざわざ訪ねてきてくれたクリス殿下を無下にする訳にはいかない。


「分かったわ、王太子でもあるクリス殿下を追いかえすだなんて、さすがに出来ないものね。カーラ様、ごめんなさい。せっかく来ていただいたのに」


「私の事は気にしないで下さい。随分と長い時間、お邪魔させていただいてしまいましたわ。あの…また遊びにお伺いしてもよろしいですか?」


「ええ、もちろんですわ。今度は私が、カーラ様のお宅にお邪魔させていただきますわ。よろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんです。両親も喜びますわ」


「それでは、門までお見送りいたしますね」


 カーラと一緒に玄関を出て、門までやって来た。


「今日はわざわざ訪ねて来てくださり、ありがとうございます。それなのに途中で追いかえす形になってしまい、申し訳ございません」


「こちらこそ、突然訪ねてきてしまい、申し訳ございませんでした。次はどうか我が家にも遊びに来てください。あのろくでなしは、本日領地に旅立ちましたし」


「まあ、カーラ様ったら」


 2人で声を上げて笑った。まさかあのカーラと、こんな風に笑い合う日が来るだなんてね。


 その時だった。


「カーラ・ミュースト、どうして貴様がここにいるのだ!まさかリリアナに、何か酷い事をしにきたのか?僕がそんな事はさせないぞ!」


 ん?この声は、まさか…

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