第9話 クリス殿下の様子が変です

 ビックリして声の方を振り向くと、そこには必死に走って来るクリス殿下の姿が。そして、何を思ったのか、私とカーラの間に割って入ると、私を庇うような形で立ったのだ。


「カーラ嬢、何をしにリリアナの元を訪れたのですか?まさかこんなにも早い段階から、リリアナに近づいていただなんて!油断も隙も無い女だ!」


 ちょっと待って、クリス殿下は何を言っているの?いつも穏やかなクリス殿下が、こんな風に怒鳴るだなんて。怒鳴られたカーラも、びっくりして固まっている。


「クリス殿下、こんにちは。カーラ様は昨日の件で、私に会いに来てくださっただけですわ。ねえ、カーラ様」


「はい、私は昨日、リリアナ様にろくでなしの兄から救って頂いたのです!本当にリリアナ様には、感謝してもしきれない程の恩があります。今日も私の為に、肌に良い化粧水とカロリーの低いこのお菓子をくださって。リリアナ様は、私にとって神様の様な方なのです!リリアナ様の為なら、この命を差し出しても構いませんわ!」


 完全にスイッチが入ってしまったカーラが、クリス殿下に熱弁している。


「カーラ様、どうか私の為に、お命を差し出すような真似は絶対にしないで下さいね。クリス殿下、私たちは昨日色々とあり、本日友人になったのです。どうか私の大切な友人に、酷い事をおっしゃるのはお止め下さい」


 穏やかな表情で、クリス殿下に語り掛けた。


「リリアナとカーラ嬢が、友人だって…一体どうなっているのだ?こんな危険な女…」


 何やら訳の分からない事を、ブツブツと呟いているクリス殿下。


「クリス殿下、どうされましたか?」


「イヤ…何でもないよ。カーラ嬢、先ほどは失礼な態度を取ってしまって、申し訳なかった。今帰るところだったよね。気を付けて帰ってくれ」


 笑顔でカーラを見送るクリス殿下。


「ええ…それでは私は失礼いたしますわ。リリアナ様、ぜひ今度は我が家に遊びに来てくださいね」


「ええ、ぜひお伺いさせていただきますわ」


 私も笑顔でカーラを見送る。さて、カーラも見送ったし…


 ゆっくりとクリス殿下の方を向いた。すると、バッチリ目が合ったのだ。


「リリアナ、急に押しかけてすまなかった。ただ…昨日のお茶会で、リリアナの姿が急に見えなくなったから心配で。門番の話では、早々に帰ってしまったと聞いて。もしかして、王宮内で何か嫌な事があったのかと心配で心配で。いてもたってもいられなくて、つい公爵家に来てしまったんだ」


「そうだったのですね。申し訳ございません、昨日はカーラ様の件で色々とありまして。立ち話では何ですから、どうかお屋敷の中にお入りください」


 すぐにお屋敷に案内する事にした。


「クリス殿下、どうぞ」


 クリス殿下にはソファに座って頂き、私は向かいに座ろうとしたのだが…なぜかクリス殿下に腕を掴まれ、そのまま隣に座らされたのだ。どうして隣なのかしら?


 …まあ、いいわ。


「それでクリス殿下は、昨日のお茶会で私の姿が見当たらなかった為、心配して今日足を運んでくださったのですね。それは申し訳ございませんでした」


「君が謝る必要はないよ。それよりも、カーラ嬢と随分仲良くなった様だが…」


「ええ、昨日王宮でカーラ様が彼女の兄とその友人達から、酷い暴力と暴言を受けておりましたので、お助けしたことがきっかけで仲良くなりましたの。昨日は怪我をしたカーラ様を、お屋敷まで送り届けておりました。殿下にご挨拶もせずに帰ってしまい、申し訳ございませんでした」


 改めて昨日の件を、謝罪した。やはり主催者でもあるクリス殿下には、ご挨拶をした方がよかったわよね。私としたことが、ご挨拶を忘れるだなんて…


「そんな出来事があったのだね。優しいリリアナらしいな…ただ、カーラ嬢には気を付けた方がいいよ。彼女は…いいや、何でもない。もしかして僕に会うのが嫌で、早々に帰ってしまったのではないかと思って、心配で…」


「どうしてクリス殿下にお会いするのが嫌だと思われたのですか?」


 クリス殿下の言っている意味がよく分からず、首をコテンとかしげた。確かに漫画の世界でのクリス殿下には、良い印象を持っていないのは確かが…


「嫌われていないならいいんだ!よかった、リリアナはその…何でもないよ。リリアナは昔から面倒見がよかったから。昔皆でピクニックに行った時も、怪我をしたウサギを手当てしてあげていたよね。動物だろうが人間だろうが、傷つき困っているものには手を差し伸べる…こんなにも優しいリリアナに、僕は…」


 なぜか唇を強く噛み、今にも泣きそうな顔をしているクリス殿下。この人、一体どうしたのかしら?明らかに様子が変なのだが…

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