第4話

 眼鏡が壊れた。

 パキッという小気味よい音で目が覚めた。すごく壮大な夢を見ていた、気がする。が、内容は思い出せそうで思い出せない。

 自分と布団の間に何か挟まっているような感触がする。先ほどの音もそれから発せられたのだろう。仰向けで寝ていた僕は、(寝る時は決まってうつ伏せなのに、起きる時は何故か、決まって仰向けてであった。)布団と背中の隙間に手をやった。

 眼鏡が出てきた。だだし、レンズと腕(正式名称はわからない。)はつながっていなかった。根元からしっかりと、砕け散るように折れていた。


 壊れた2つをそれぞれの手に持ち、折れた場所同士を合わせると、綺麗にぴったりと合った。まるでなんともなかったようにぴったりと。しかし、片方を手から離してみると、あっけなく落ちた。


 スマートフォンをみると、10時だった。それと2件の不在着信が入っていた。今日は確か、平日水曜日。完全に寝坊である。不在着信は会社からだった。


 僕が寝坊したのは今回が初めてではない。社会人になった3年間の内、先月に2回。

 1度目は9時に目覚めた。その時は自分から連絡をいれ、布団から飛び出た。急いで顔を洗い、スーツに着替えて、歯も磨いて、ゴミは出せないかもな、とか考えているうちに、ふと思った。


「こんなに急いで、何か意味あるのか?」


 結局、いつもの何倍もの時間をかけて準備し、数年ぶりに朝食まで食べた。電車はすがすがしいほどに空いていた。会社にいくと、笑われはしたが、怒られなかった。



 2度目はその一週間後で、8時10分に目が覚めた。いつもなら家を出る時間であるが、10分で準備すればギリギリ間に合う。そのため厳密に言えば寝坊ではない。けれども僕は急がなかった。ゆっくりと起き上がり、顔を荒い、歯を磨き、朝食を食べた。時計が9時を示した時、会社に寝坊したと連絡を入れた。

 さすがに怒られた。その後、少し読書をして、スーツに着替え、ガラガラに空いた電車に乗って会社に向かった。


 寝坊とは素晴らしい。

 思うに寝坊とは、僕を非日常に連れて行ってくれるプレゼントなのだと思った。


 壊れた眼鏡をそっと、丁寧にケースに仕舞うと、会社に連絡した。やはり怒られた。上司のお叱りのお言葉に相槌をしながら、部屋を見渡した。衣類がそこかしこに散乱し、本棚から本や書類が溢れかえっている。最近、忙しくて掃除できていなかった。

  いや、むしろ散らかっていることを認識できていなかった。カーテンの隙間から漏れる日差しが部屋全体を柔らかく包んでいる。


「申し訳ございません、急いで向かいます。」

そう言って僕は電話切った。


 さて、まずやることは決まった。電話してる時間などもったいない。僕は大きく伸びをした後、ゆっくりと立ち上がった。


 仕事を辞めたい。

 でも仕事をしなければ、生きていけない。

 それならばせめて、人間らしく、心豊かに生きたい。

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