第3話
眠れなかった。
僕は眠るが得意ではない。かと言って、起きるのも苦手なのだが、とにかく睡眠と起床の切り替えができないのだ。
夜もふけ、明日も仕事が控えているなか、目をつぶっても一向に眠れる気配がない。
それどころか、今日あった嫌なことがフラッシュバックし、余計に僕の心を逆撫でする。起きたらスマホや充電がなかった、財布を忘れた、コーヒーが売り切れていた、信号が全て赤だった、急に雨が降ってきた、仕事で怒られた、などなど一度考え出すと、堰を切ったように溢れ出す。
そして、序盤こそ具体的な失敗を悔いるだけだったものが、だんだんと抽象的で漠然とした不安へと遷移する。
どうして僕はこんなに辛いんだろう、これはいつまで続くのだろう。
こうなれば、いよいよ眠ることはできない。
そして、その日僕にはもう一つ悩みがあった。次の日が誕生日であることだ。
あと1時間もすれば、日付は変わり、僕はまた1つ年をとってしまう。実に26年もの間、生き恥を晒してきたこととなる。
かつては、年をとることが楽しみだった。多くの経験を積み重さね、学び、成熟していく自分自身に期待していた。いつかこの苦しみが報われることを盲信していた。
しかし、現実は違った。僕は何も成し遂げることもなく、学生時代部活で鍛えた筋肉は削れ落ち、希望に満ちていた精神はすり減り、髪は抜け落ち、心身ともに体力が失われていく。
暗闇に慣れた目に、散らかった僕の部屋がぼんやりと映る。
時を刻むことが、怖い。
僕はどうすればいいのだろうか。
かつての期待はもう捨てた。認めよう、僕はとるに足らない自分だ。
外がぼんやりと明るくなり、鳥が鳴き出した。
夜は意外にも短い。
僕はもう、多くは望まない、だからせめて、この1年は心安らかに眠れるようになりたい。
僕からの最後の宣戦布告だ。
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