第13話 四人の能力(8)

「お、美味そうっすね!」


 最後の脚を運び入れた剛大が、目を爛々と輝かせながら声を上げた。

 そこは食べ盛りの男子高校生である。


「お疲れ。剛大も、悪原さんにきれいにしてもらってから食事にしよう」

「ういっす!」


 俺も昔はああだったのかな?

 旬は高校時代という遠い昔を、断片的に懐かしみつつ思った。


 回顧もそこそこに旬は、一口大に切った蒸し鷲を、毒見も兼ねて食べてみる。

 現実世界に毒を持つ鳥類は聞いたことがないし、作中でもケルベロスイーグルが毒攻撃を仕掛けている記述はなかった。

 肉を食べた主人公一行が、毒に当たったという下りもない。


 いつもより長めに咀嚼そしゃくするも、口内が痺れるといった症状は微塵も感じなかった。

 見た目通り、味わいは鶏より濃くて少しの臭みはあったが、旬としては許容範囲内だ。食感は少し固いが、噛む分には全く問題はなかった。砂肝の方がずっと固い。


 安心して旬は、皿に並べた蒸し鷲に、ゴマ入りのポン酢を回し掛けた。

 本来なら小ネギやショウガ辺りを入れるところだが、無いのだから仕方がない(どんな料理にも使えるゴマは例外で、旬の中では調味料扱いだ)。


「白米も食べたいだろうが、一粒も無いので勘弁してくれ」


 蒸し鷲の大皿を卓に置きながら旬は、特に剛大に向けて言った。


「むー…………仕方ないっすよ」


 かなりの間を空けてから剛大は、諦めの言葉を口にした。

 全然仕方ないと思っていないだろ。

 その様に三人は声を押し殺して笑う。


 本日の夕食は二品。

 ケルベロスイーグルの肉を使用した唐揚げと蒸し鷲である。


「今日の品数はこれだけだ。別の野菜とかがあれば、もっとメニューを増やせたんだが」

「気にしないで下さい。食べられるだけでもありがたいですから」


 他意の無い言葉を令子は投げ掛ける。


「ありがとう」


 旬は謝意を口にしてから椅子に座る。


「頂きます」

「「「頂きます」」」


 旬が合掌しながら、食材となった魔物への感謝を口にし、三人が声を揃えて続く。

 言わずもがな、温かい料理は温かい内に食すべきである。

 さもなくば、合掌と頂きますが白々しくなってしまう。


 それもあって、四人はしばらく無言で食べ進める。その間に旬は、明日の行動計画を練っていた。


(明日はまず村の探索だな。その結果次第で今後の方針は決まるだろうが……どちらにせよ、食材確保などの問題がある。ここに長居は出来ない)


 計画に矛盾や破綻は無いか。

 旬は頭の中で何度もチェックする。

 三人の箸が止まったタイミングで旬は、リーダーとして切り出した。


「明日は朝食後、全員で村の家々を探索して、使える物があれば回収するとしよう。地図とかがあれば最高だな」

「異議無しっすね」

「あたしもそれで良いと思います。後は全員の主人公の設定とか能力を把握しておきませんか?」

「そうですね。それは四人全員が共有すべきことです」


「じゃあ最初は言い出したあたしから。あたしは攻撃魔法を中心に魔法を使えますけど、今は一つだけ。その名もズバリ空間収納魔法、果てしない物置きアンリミテッドスペースです」

「それは……無限に物を格納出来る魔法という解釈であっている?」

「あっています。道具だろうと。食材だろうと何でも入りますよ」


 明日経つ場合、ケルベロスイーグルの肉をどうやって運ぶかという問題がある。旬のザックは、調理器具と調味料以外は入らないのだ。

 ダンジョングルメ物にするために、あえてそういう設定にしてある。


 料理人として、食材を無駄にする行為に抵抗を覚えない筈がない。

 そのことに安堵した旬は、令子の次に説明するのであった。

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